【アナリスト水田雅展の銘柄分析】三洋貿易の16年9月期は営業・経常増益予想で増額余地、指標面の割安感強い

【アナリスト水田雅展の銘柄分析

 三洋貿易<3176>(東1)は自動車関連向けのゴム・化学関連商品やシート部品を主力とする専門商社である。株価は16年9月期最終減益・減配予想を嫌気する形で調整局面だが、16年9月期は営業・経常増益予想で増額余地があり、1桁台の予想PERや3%台の予想配当利回りと指標面の割安感も強い。出直り展開だろう。

■自動車向けゴム・化学関連製品やシート部品が主力の専門商社

 ゴム関連商品、化学品関連商品、産業資材関連商品、科学機器関連商品、機械・資材関連商品の5分野に事業展開する専門商社である。

 メーカー並みの技術サポート力に加えて、財務面で実質無借金経営であることも特徴だ。業界別売上構成(単体ベース)で見ると、自動車向けが過半を占め、OA・家電、塗料・インキ、その他化学などが続いている。

 主力の自動車関連向けは、各種合成ゴム・添加剤、タイヤ用特殊クレー、防振ゴム・ホース原料、自動車用シート部品(レザーシート、シートヒーター、ランバーサポート、シートセンサーなど)といった高付加価値品を中心に展開している。シートヒーターはカーボンファイバー仕様の市場を独占し、ランバーサポートは世界市場6割を占有している。

 飼料・エネルギー・リサイクル関連では飼料や固定燃料などを製造するペレットミルが高シェアだ。国内子会社のコスモス商事は地熱・海洋資源開発関連分野で掘削用機材の輸入販売・レンタルを手掛けている。

■重点領域への経営資源集中とM&Aも活用した業容拡大戦略を推進

 グループとして重点志向する事業領域への経営資源集中を進めるとともに、国内外でのM&Aも活用して業容拡大を図る戦略を推進している。15年3月にはエレクトロニクス関連商品卸売の連結子会社アロマンの株式をタクミ商事に譲渡した。

 そして15年9月には連結子会社のケムインターが、工業用洗剤輸入販売を手掛けるコムスタージャパンの全株式を取得して子会社化(当社の孫会社化)した。工業用洗剤市場に参入して当社既存事業とのシナジー効果を目指す方針だ。

 海外は米国、メキシコ、タイ、中国(上海、香港)、インド、ベトナム、インドネシアに展開している。15年7月にはアジア展開強化策の一環で、シンガポールの工業用フィルム販社であるBPS社を子会社化(シンガポール三洋貿易に社名変更)した。15年10月にはタイに子会社Sanyo Trading(Thailand)を設立した。

■15年9月期2桁増益

 11月6日に発表した前期(15年9月期)の連結業績は、売上高が前々期比3.5%増の606億72百万円、営業利益が同13.5%増の36億06百万円、経常利益が同16.9%増の41億10百万円、純利益が同40.9%増の27億94百万円だった。6期連続の最高益更新だった。なお売上高と営業利益は計画値(4月27日に利益を増額修正)をやや下回ったが、経常利益と純利益は計画値を上回った。

 国内はほぼ横ばい、中国は自動車用部品が低調だったが、米国でゴム関連製品や自動車用部品、タイで自動車用部品が好調に推移して増収増益だった。売上総利益率は15.6%で同0.8ポイント上昇、販管費比率は9.6%で同0.3ポイント上昇した。営業外収益では受取配当金、為替差益、匿名組合投資利益が増加した。純利益はアロマン株式譲渡に伴う税負担減少も寄与した。ROEは15.9%で同3.2ポイント上昇、自己資本比率は62.1%で同7.4ポイント上昇、D/Eレシオは0.06倍で同0.02ポイント低下した。

 配当予想については11月6日に、前回予想(4月27日に増額修正)の年間48円に対して期末1円増額修正して年間49円(第2四半期末24円、期末25円)とした。前々期比15円増配で5期連続の増配となる。配当性向は25.1%となる。配当の基本方針は連結配当性向25%を下限の目途としている。

 セグメント別(連結調整前)動向を見ると、ゴム・化学品事業は売上高が同2.1%減の235億98百万円で、営業利益が同4.8%増の11億04百万円だった。ゴム関連製品は、前半は自動車・家電・情報機器向け合成ゴムの国内販売が好調だったが、後半は輸入商品の採算悪化などでやや減速した。化学品関連はフィルム・電材輸出などが好調だったが、特殊ワックス・香料などが低調だった。

 機械資材事業は売上高が同12.5%増の176億97百万円で、営業利益が同29.2%増の19億61百万円だった。産業資材では自動車用部品が好調で、内装用高機能性部品・原材料販売も伸長した。機械・資材関連は環境分野で大型木質バイオマス機器が寄与し、科学機器では各種分析機器や試験機が好調だった。

 海外現地法人は売上高が同2.0%減の123億53百万円で、営業利益が同40.5%増の5億02百万円だった。SCOA(米国)は高吸水性樹脂、高機能フィルム、ゴム関連商品が好調だった。三洋物産貿易(上海)はゴム関連製品や化学品が好調だったが、自動車用部品が低調だった。San-Thap International(タイ)はゴム関連商品や自動車用部品が好調だった。

 国内子会社は売上高が同14.1%増の67億88百万円で、営業利益が同28.7%増の6億36百万円だった。コスモス商事は海洋・船舶、石油・ガス、地熱、CO2地中貯留関連がけん引し、掘削機材も好調だった。ケムインターは化学品、液晶・半導体、機械・電子部品関連が好調だった。

 四半期別の推移を見ると、売上高は第1四半期(10月~12月)153億86百万円、第2四半期(1月~3月)156億16百万円、第3四半期(4月~6月)156億82百万円、第4四半期(7月~9月)139億88百万円、営業利益は第1四半期9億82百万円、第2四半期10億54百万円、第3四半期10億68百万円、第4四半期5億02百万円だった。第4四半期にやや減速した形だ。なお3月期決算企業の年度末にあたる第2四半期の構成比が高い収益構造である。

■16年9月期は最終減益予想だが営業・経常増益基調

 今期(16年9月期)の連結業績予想(11月6日公表)は、売上高が前期比5.5%増の640億円、営業利益が同12.3%増の40億50百万円、経常利益が同3.4%増の42億50百万円、純利益が同7.0%減の26億円としている。

 純利益はアロマン株式譲渡に伴う税負担減少効果が一巡して減益予想だが、自動車用部品など高付加価値の主力商材が国内外で好調に推移して増収、営業増益、経常増益予想だ。売上総利益率は同1.0ポイント上昇の10.1%、販管費比率は同1.2ポイント上昇の7.8%を計画している。

 配当予想は同3円減配の年間46円(第2四半期末23円、期末23円)で予想配当性向は25.3%となる。配当の基本方針は連結配当性向25%を下限の目途としている。

 セグメント別(連結調整前)売上高の計画は、ゴム・化学品が化学品の回復で同6.8%増の252億円、機械資材が同2.8%減の172億円、海外現地法人がゴム関連製品や自動車用部品の好調で同21.4%増の150億円、国内子会社がケムインターの化学品の減速で同7.2%減の63億円、その他が同29.9%増の3億円としている。

 期初時点では保守的な計画を公表する傾向が強く、会社予想には増額余地があるだろう。

■中期経営計画および長期ビジョンを発表

 11月6日に16年9月期~17年9月期の2年間を対象とする中期経営計画を発表した。目標数値には17年9月期売上高670億円、経常利益44億50百万円を掲げた。

 重点戦略は(1)コアビジネスの収益の強化と安定化、(2)新規事業として地熱・海洋資源開発機材などの資源エネルギー分野、木質バイオマス機材などの環境関連分野、医薬中間体・医療用原材料・バイオなどのライフサイエンス分野への展開、(3)グローバル展開(自動車産業を中心に日系企業の進出が続くアセアン+インド、中国、北中米に主軸)、(4)投資案件への積極的取り組み(既存事業との相乗効果、成長性、グローバル展開を目指すM&A含む投資案件)、(5)マンパワーの強化と人材育成とした。

 そして11月26日には15年10月1日から20年9月30日までの5年間を対象期間とする長期ビジョン「VISION2020」を発表した。目標数値には20年9月期までに経常利益50億円、ROE15%以上、自己資本比率50%以上を掲げた。

 基本方針は(1)盤石な財務基盤、(2)強みを通じた価値創造、(3)自由闊達な社風と機会創出の組織として、6つの戦略に、戦略A:既存ビジネスの深化、戦略B:ビジネスポートフォリオの明確化、戦略C:新規ビジネスのプロジェクト立ち上げ、戦略D:グローバル展開の加速、戦略E:新規投資案件の推進、戦略F:国内外の組織の強化を掲げた。

 戦略Cの新規プロジェクト立ち上げでは、20年までに具現化可能な新規ビジネスとして、地熱・海底資源開発関連機材、医薬中間体・原体、特殊フィルムの海外展開、木質バイオマス・ガス化発電関連機材を推進する。戦略Eの新規投資案件では、新規投資目標を5件以上として、会社方針に符合する案件にM&A・商権譲渡・資本参加・JV設立などの形で積極投資を行う。戦略Fの国内外の組織の強化ではグローバル化に対応すべく、約260人のグループ社員を20年には300人以上に増強する方針だ。

 なお10月13日に監査等委員会設置会社への移行を発表している。15年12月17日開催予定の第69期定時株主総会に付議する。

■株価は調整一巡して切り返しの動き

 株価の動きを見ると、8月の上場来高値1845円から反落後の調整局面が続いている。地合い悪化で急反落した8月の直近安値1350円から一旦反発したが、16年9月期最終減益・減配予想を嫌気する形で戻り高値圏1600円近辺から反落した。ただし8月安値を割り込むことなく、11月16日の直近安値1438円から切り返しの動きを強めている。

 11月27日の終値1490円を指標面で見ると、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS181円77銭で算出)は8~9倍近辺、今期予想配当利回り(会社予想の年間46円で算出)は3.1%近辺、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS1314円11銭で算出)は1.1倍近辺である。時価総額は約216億円である。

 週足チャートで見ると26週移動平均線が戻りを押さえる形となったが、8月安値を割り込むことなく切り返す動きだ。調整が一巡した可能性があるだろう。16年9月期営業・経常増益予想で増額余地があり、1桁台の予想PERや3%台の予想配当利回りと指標面の割安感も強い。出直り展開だろう。

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