師走相場の「水準より変化率」の投資セオリーで上方修正の黒字転換銘柄、復配銘柄にリターンマッチ余地=浅妻昭治
<マーケットセンサー> 「フリー、フェア、グローバル」と今はなき橋本龍太郎首相が、声高にアピールした日本版金融ビックバンが導入されて来年で満20年となる。この3原則の影響か、兜町のマチの様子やカルチャー、投資家事情もすっかり変わってきた。たとえば師走の「餅つき相場」、「掉尾の一振」では、決まって「ご意見無用」とばかり値ごろ材料株を集中アタックする腕に覚えの低位株ファン、ボロ株マニアがいたものだが、そうした投資家もいまや希少生物、あるいは絶滅危惧種となっているようだ。証券専門の雑誌や新聞では、そんな投資ニーズを見越して年末に向けて低位株の特集号を発行し、特集記事を掲載しそこそこ売れ、読まれもしたが、最近はとんと見掛けなくなった。 さらに「水準より変化率」とか「上がる株が優良株」とするかつての投資セオリーが、今でも通用するかどうかも大分怪しくなっているようである。このうち「水準より変化率」とは、投資銘柄を選別する上の業績のファンダメンタル分析で、利益そのものの大きさより、利益の前期比増益率を重視する投資スタイルだ。利益が巨大な銘柄なら、日本一の稼ぎ頭のトヨタ自動車<7203>(東1)が、問題なくターゲット銘柄のトップ候補となるが、利益がトヨタに比べてゴミみたいにわずかでも増益率が何倍、何十倍と急増する高変化銘柄に敢えてアプローチするのである。 「水準より変化率」の投資セオリーからすれば、最大の業績高変化銘柄といえば、赤字から黒字に方向が変わって水面上に浮上する銘柄である。実際に株価が最も急騰するのは、赤字から黒字転換するときで、次の配当が、無配から復配するときといわれてきた。この赤字・無配銘柄といえば、総じていえば経営破たんのリスクの高い限界企業で、株価も低空飛行状態であった。この限界企業も、メーンバンクと監督官庁が、強力なタッグを組んだ護送船団方式が健在で、企業を潰すことは「悪」との暗黙の合意があった時代は、救済合併などの経営再建のウルトラCなどもあって、株価思惑に拍車を掛けた。そして株価さえ急騰すれば、その銘柄のブランドや格、業界ポジション、株価の値ごろなど関係なく、「上がる株が優良株」と割り切ったものである。マーケットメカニズム優先の現在では、企業が死ぬのに抵抗感はなく、再建思惑などが生じる余地も限られている。 また現在のマーケットでは、ファンダメンタル分析は、証券アナリストが幅を利かし、アナリストはこんな限界企業、低位株には見向きもしない。また需要主体も、先物売買や日経平均株価や東証株価指数連動のインデックス運用を投資スタイルとするヘッジファンドが中心で、マーケットの隅にいる黒字転換・復配銘柄などは歯牙にもかけない。「水準より変化率」とする投資セオリーの存在意義が、大分疑わしくなってきたことの背景になっている。 しかしである。こうした逆風があるにもかかわらず、今年の師走相場は、敢えてこの「水準より変化率」の投資セオリーにトライしてみたい。いわばリターンマッチである。というのも、この師走相場で、「水準より変化率」で株価急伸をリードするかもしれない銘柄が出てきたからだ。東邦チタニウム<5727>(東1)である。同社は、今年7月に今期第2四半期(2Q)累計・3月通期業績を上方修正し、10月21日にはその2Q累計業績を再上方修正、10月28日の2Q累計決算開示日には3月通期業績を再上方修正するとともに、年間5円の復配も発表した。再三の上方修正によって7期ぶりの黒字転換の黒字幅を拡大するとともに、3期ぶりに復配もする。 航空機や海水淡水化プラント向けにチタン需要が復調し、円安やコスト改善が進んだことなどが黒字幅拡大の要因となっており、株価面では、三菱重工業<7011>(東1)が開発した小型ジェット機「MRJ」が、国産旅客機として50年ぶりに初飛行に成功したことも追い風となった。株価は、7月の1回目の上方修正でつけた年初来高値1697円から1219円まで調整、その後は400円幅のボックス往来となっているが、この上限を上抜けば、かつて5ケタの高株価を示現した高値実績の記憶も蘇り、株価の高変化期待も高まってくる。 仮に師走相場で、この東邦チタが、同業他社の大阪チタニウムテクノロジーズ<5726>(東1)との株価比較感も働きブックス上限抜けを窺うようになれば、同社と同様にこの10月以降に復配を発表した銘柄や今期業績を上方修正して黒字転換幅を拡大した銘柄に連想買いが強まり、株価も高変化する展開も有力で、ぜひマークしたい。