【アナリスト水田雅展の銘柄分析】アンジェスMGは研究・開発ステージから商業化ステージに移行して19年営業黒字化目指す

【アナリスト水田雅展の銘柄分析

 アンジェスMG<4563>(東マ)はHGF遺伝子治療薬、NF-kBデコイオリゴ核酸医薬を中心に開発を進める大阪大学発創薬ベンチャーである。12月7日にはHGF遺伝子によるリンパ管新生促進剤を対象とした特許が欧州で成立したと発表している。重要プロジェクトの承認申請が視野に入り、研究・開発ステージから商業化ステージに移行して19年の営業黒字化を目指している。大底圏を脱する流れに変化はないだろう。

■大阪大学発の創薬バイオベンチャー

 遺伝子医薬のグローバルリーダーを目指す大阪大学発創薬バイオベンチャーである。99年12月大阪大学医学部の研究成果をもとに設立(04年現社名に商号変更)し、02年9月東証マザーズに新規上場した。産学連携の創薬バイオベンチャーとして初の株式上場企業である。

 生命が長い時間をかけて獲得した遺伝子の働きを活用し、難治性疾患や治療法がない疾患に対する画期的な遺伝子医薬・バイオ医薬を開発・実用化することで、人々の健康と希望にあふれた暮らしの実現に貢献することを企業理念に掲げている。

■遺伝子医薬・バイオ医薬分野に特化して開発推進

 HGF(肝細胞増殖因子)遺伝子治療薬、NF-kBデコイオリゴ核酸医薬、高血圧DNA治療ワクチンなど、遺伝子の働きを活用した遺伝子医薬・バイオ医薬分野に特化して開発事業を推進している。

 自社開発品の販売権または開発販売権を製薬会社に供与して、契約に基づいて契約一時金収入、開発の進捗に対応したマイルストーン収入、および上市後の売上に対する一定対価のロイヤリティ収入を得る。

 また当社の事業方針と合致するプロジェクトの導入開発も行っている。導入品(商品)では、難病のムコ多糖症VI型治療薬「ナグラザイム」について、米バイオマリン社から日本国内における開発販売権を06年12月に取得し、08年4月に国内での販売を開始している。

■遺伝子治療の世界的動向は「遺伝子治療の実用化時代到来」として脚光

 遺伝子治療の歴史を見ると、90年に先天的な免疫不全症であるADA欠損症を対象として、米国において世界初の遺伝子治療が実施された。そして95年には日本で初めて、北海道大学においてADA欠損症を対象とする遺伝子治療が実施された。

 その後ウイルスベクターに由来する重篤な副作用が報告されたため、世界的に遺伝子治療実用化の動きが停滞したが、12年にLPL欠損症を対象とした蘭uniQure社のGlyberaが欧州で承認され、先進国初の遺伝子治療薬となった。そして世界の大手製薬メーカーの参入も相次ぎ、実用化時代が到来したとして遺伝子治療が再び脚光を浴びている。

■日本では「条件および期限付承認制度」が導入されて早期実用化が可能

 日本では13年5月公布「再生医療推進法」の理念のもと、14年11月施行の「医薬品医療機器等法(改正薬事法)」で、新たに再生医療等製品が定義され、遺伝子治療を含む再生医療等製品に対する早期承認制度が導入された。

 医薬品や医療機器とは別個に、人の細胞に培養等の加工を施したもの、又は遺伝子治療を目的として人の細胞に導入して使用するものを再生医療等製品として新たに定義した。そして再生医療等製品については品質が不均一であり、有効性の予測が困難な場合があるという特性を有しているため、有効性が推定されて安全性が確認されれば条件および期限付きで特別に早期に承認できる仕組みを導入した。その場合、承認後に有効性・安全性をあらためて検証する。

 これによって遺伝子治療を含む再生医療分野に関しては、日本が世界で最も早く製品承認を取得できることなり、再生医療・細胞医療の早期実用化の促進が期待されている。なお当社が開発を進めているHGF遺伝子治療薬は、承認取得すれば先進国2番目の遺伝子治療薬となる可能性がある。

■新薬開発プロジェクトの状況

 新薬開発プロジェクトは、自社開発品では、HGF遺伝子治療薬(重症虚血肢などの末梢性血管疾患分野、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患分野、およびリンパ浮腫分野)、核酸医薬NF-kBデコイオリゴを用いた治療薬(アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患分野、椎間板性腰痛症などの腰痛疾患分野)を中心に開発を進めている。導入開発品ではCIN(子宮頸がん前がん病変)治療薬、がん治療薬、エボラ出血熱治療薬などの分野における開発を進めている。

 HGF遺伝子治療薬は重症虚血肢を適応症として、国内においては条件および期限付早期承認制度を活用し、再生医療等製品として16年後半の承認申請を目指し、海外においては国際共同第3相臨床試験を実施中である。NF-kBデコイオリゴ軟膏は中等症以上の顔面アトピー性皮膚炎を適応症として、国内において第3相臨床試験を実施中である。医療機器である透析シャント用NF-kBデコイオリゴ薬剤塗布型PTAバルーンカテーテルは、国内における全被験者の観察期間が終了して16年半ば以降の承認申請を目指している。

■HGF遺伝子治療薬

 HGF(肝細胞増殖因子)は84年に日本で発見された成長因子である。最も再生能力の高い臓器である肝臓で最初に発見されたため肝細胞増殖因子と呼ばれている。肝臓のみならず、血管、リンパ管、神経など生体のさまざまな臓器・組織の形成・再生において主要な役割を果たしていることが分かった。

 当社が実用化を目指すHGF遺伝子治療薬は、ヒトHGF遺伝子をコードしたDNAプラスミド製剤(注射剤)で、非ウイルスベクター型の遺伝子治療薬である。重症虚血肢(CLI)などの末梢性血管疾患分野、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患分野、およびリンパ浮腫分野において開発を進めている。

■HGF遺伝子治療薬 ~自社開発 適応症:重症虚血肢 日本および海外~

 重症虚血肢を適応症とするHGF遺伝子治療薬は、HGFの血管新生作用によって重症虚血肢の虚血部位の血流を回復させる。重症虚血肢は重症の末梢性血管疾患であり、下肢切断を余儀なくされることもある重篤な病態である。

 HGF遺伝子治療薬に関しては、国内において「条件および期限付早期承認制度」による承認申請を目指している。国内においては第3相臨床試験を終了し、08年3月に重症虚血肢を有する閉塞性動脈硬化症およびバージャー病を適応症として承認申請したが、承認取得にはさらなる臨床データの集積が必要との結論に至ったため、10年9月に申請を取り下げた。

 その後、大阪大学医学部附属病院が主導して、先進医療B制度を活用した医師主導型臨床研究を実施中である。14年8月の先進医療会議において了承され14年10月に1例目の投与を開始した。15年6月には神戸大学医学部附属病院、佐賀大学医学部附属病院の2施設、15年9月には新潟大学医歯学総合病院、徳島大学病院、愛媛大学医学部附属病院の3施設が新たに協力医療機関として当局から認められた。この医師主導型臨床研究の結果も合わせ、条件および期限付早期承認制度を活用して16年後半の承認申請を目指している。

 海外においては、重症虚血肢を適応症として国際共同第3相臨床試験を実施中である。北米、欧州、南米において約500例の重症虚血肢患者を対象に、HGF遺伝子治療薬の有効性と安全性を確認する予定で、米国において14年10月に1例目の患者を登録し、14年11月に投与を開始した。15年8月には欧州(ハンガリー)においても投与を開始した。今後欧州の他国および南米においても順次、被験者登録および投与を開始する。

 HGF遺伝子治療薬の販売権供与に関しては、第一三共と締結していた末梢性血管疾患および虚血性心疾患を対象とした米国および欧州における独占的販売契約を09年2月、日本国内における独占的販売契約を15年2月に終了した。そして新たに田辺三菱製薬と、米国における末梢性血管疾患を対象とした独占的販売権許諾契約を12年10月、日本国内における末梢性血管疾患を対象とした独占的販売権許諾契約を15年6月に締結している。

 なお重症虚血肢を適応症とするHGF遺伝子治療薬の市場規模については、米国における重症虚血肢患者数(新規、年間)が約50万人と推定され、有効な治療法が開発された場合に創出される市場規模は、アイ・エム・エスジャパンの調査によると約50億米ドルと推定されている。

■HGF遺伝子治療薬 ~自社開発 適応症:リンパ浮腫 日本~

 HGF遺伝子治療薬の新たな薬理作用として「リンパ管の新生」が発見されたため、リンパ浮腫(リンパ管の障害によってリンパ流が停滞して発生する浮腫)に対する初めての根治療法となることが期待されている。原発性リンパ浮腫を対象として13年10月から日本で第1・2相臨床試験を実施中である。

 なお12月7日には、HGF遺伝子によるリンパ管新生促進剤を対象とした特許を世界主要地域で出願しているが、欧州における特許が成立したと発表している。本特許はHGF遺伝子によるリンパ浮腫の治療法を多面的に保護するものであり、日本ではすでに登録されている。

■NF-kBデコイオリゴ

 NF-kBは、細胞が炎症反応や免疫反応を惹起させるため活性化する主要な転写因子で、NF-kBの活性化はアトピー性皮膚炎や関節リウマチなど異常な炎症や免疫関連の疾患を引き起こし、病態を悪化させることが指摘されている。デコイオリゴは、染色体DNAの転写因子結合部位と同じDNA配列を含む二重鎖の短い核酸で、体内に投与すると転写因子が染色体DNAに結合することを阻害して遺伝子の働きを抑える。

 そしてNF-kBデコイオリゴは、核酸合成機で作成される比較的短い人工核酸によって遺伝子の働きを制御する医薬品「核酸医薬」の一種である。NF-kB結合部位のDNA配列を持つデコイオリゴで、転写因子を標的として、細胞内においてゲノムの「おとり」として特定の転写因子と結合するため、その転写因子NF-kBがゲノムに結合できず、結果としてその遺伝子の発現が抑制される。治療薬として優位性があると考えられている。

 このNF-kBデコイオリゴによる治療法は、95年に大阪大学大学院の森下竜一博士によって発明された。そしてNF-kBの活性化による過剰な免疫・炎症反応を原因とする疾患の治療薬として、転写因子NF-kBに対する特異的な阻害剤として設計し、アトピー性皮膚炎、椎間板性腰痛症、血管再狭窄予防(医療機器の薬剤塗布型PTAバルーンカテーテル)の分野を中心に開発を進めている。関節リウマチ、変形性関節症、炎症性腸疾患、喘息などへの適応も考えられている。

■NF-kBデコイオリゴ ~自社開発 適応症:アトピー性皮膚炎 日本~

 中等症以上の顔面アトピー性皮膚炎を適応症とするNF-kBデコイオリゴ核酸医薬(軟膏)については、日本において第3相臨床試験を実施中である。15年3月に1例目の被験者への投与を開始した。

 当該第3相臨床試験は、顔面に中等症以上の皮疹を有するアトピー性皮膚炎患者約200例を対象として、有効性と安全性を確認し、国内で承認申請するためのデータを獲得する。最初の被験者の投与開始から最後の被験者の観察期間終了までの期間は1年強を予定し、良好な結果が得られた場合には国内で承認申請を行う。

 なおライセンス契約に関してはアルフレッサファーマとの契約を08年11月に解消し、新たに塩野義製薬と10年12月、アトピー性皮膚炎を含む皮膚疾患を適応症とするNF-kBデコイオリゴ外用剤全般について、共同開発および全世界における独占的販売権許諾に関してライセンス契約した。その後、アトピー性皮膚炎を適応症とするNF-kBデコイオリゴの開発方針の見直しを行った結果、開発については当社が主体となって行うことを14年5月に決定した。塩野義製薬との提携は継続している。

 アトピー性皮膚炎の日本国内の市場規模に関しては、厚生労働省が実施した平成25年国民生活基礎調査によると患者数約130万人と報告されている。特に顔面のアトピー性皮膚炎に関しては、皮膚刺激性や局所副作用などの安全性の観点から医療ニーズを満たした治療薬がなく、新しい治療法の開発が切望されている疾患領域である。

■NF-kBデコイオリゴ ~自社開発 適応症:椎間板性腰痛症 日本~

 NF-kBデコイオリゴの新たな適用疾患として、米国において椎間板性腰痛症を適応症とする第1・2相臨床試験を準備中である。米食品医薬品局(FDA)から臨床試験開始許可取得後、米国カリフォルニア大学サンディエゴ校を治験実施施設として16年に第1・2相臨床試験を開始する予定だ。

 なお椎間板性腰痛症を含む腰痛疾患を適応症として、日本臓器製薬と13年3月に日本における独占的開発販売権許諾契約を締結したが、日本臓器製薬における開発方針の見直しを受けて14年12月に契約を解消した。当社の開発戦略も変更し、米国における第1・2相臨床試験終了後に、提携先を確保するためのライセンス活動を行う計画としている。

 椎間板性腰痛症の市場規模に関しては、日本では潜在患者数が200万人以上とされ、このうち実際に医療機関で受療している受療患者数は、厚生労働省平成23年患者調査によると43万人との報告があり、その数は増加傾向にある。椎間板変性などが原因の腰痛症に対する治療法としては、消炎鎮痛剤などを用いる対症療法しかなく、椎間板変性の進行抑制や修復を促す根治的な治療薬の開発が望まれている。

■NF-kBデコイオリゴ ~自社開発 適応症:血管再狭窄予防医療機器 日本~

 血管再狭窄予防医療機器の透析シャント用NF-kBデコイオリゴ薬剤塗布型PTAバルーンカテーテルは、NF-kBデコイオリゴをホソカワミクロンのPLGAナノ粒子に封入し、メディキットのPTAバルーンカテーテルの外表面に塗布した新規医療機器である。

 バルーン拡張によって引き起こされる血管炎症の抑制、血管の再狭窄までの期間延長、および外科的手術の回避が期待され、12年1月にメディキットと国内における共同開発および製造販売に関する契約を締結し、世界で初めての抗炎症薬塗布型PTAバルーンカテーテルを目指している。

 透析シャント静脈狭窄病変を有する患者を対象とした国内治験を14年9月から実施し、15年9月に全被験者の観察期間が終了した。今後各被験者のデータを回収し、統計解析を行って良好な結果が得られた場合には、16年半ば以降に国内の製造販売承認申請を行う見込みとしている。

 人工透析の透析シャントや動脈硬化症などの末梢血管内治療法で使用される現在のPTAバルーンカテーテルは再狭窄率が高く、医療現場においては再狭窄予防が期待できるPTAバルーンカテーテルの開発が強く望まれている。

■CIN治療ワクチン・他

■CIN治療ワクチン ~導入開発 適応症:子宮頸がん前がん病変 日本~

 各国で発売済の子宮頸がん予防ワクチンはHPV(子宮頸がんの原因ウイルス)感染予防を目的とする注射剤だが、当社のCIN(子宮頸がん前がん病変)治療ワクチンは韓国バイオリーダース社から日米英中における独占的開発販売権を取得し、子宮頸がん前がん病変の中・高度異形成(CIN2・3)領域に対する治療薬として開発を進めている。子宮頸がん前がん状態の組織を退縮させ、子宮頸がんへの移行・円錐切除手術を回避する。乳酸菌L.caseiをベースとした経口投与の治療薬である。

 子宮頸がん前がん病変を適応症として、東京大学医学部附属病院において医師主導型探索的臨床研究を実施中である。これまでに実施された臨床研究の結果として、投与した全17例において薬剤に由来すると考えられる有害事象の発生は認められなかった。また至適用量を服用した被験者の70%で、投与開始後9週目の時点で前がん病変の明らかな退縮が確認された。現在さらなる臨床研究が同病院において実施されており、この試験の経費については厚生労働省科学研究費補助金(医療技術実用化総合研究事業)が使用されている。

 WHOによると、HPVは全世界で感染者(キャリア)が3億人と推定されている。当社のCIN治療ワクチンは、治療薬の開発が求められている中・高度異形成(CIN2・3)領域1000万人を対象としている。

■高血圧DNAワクチン

 高血圧DNAワクチンの基礎技術は大阪大学の研究グループによって開発された。高血圧または心不全の治療薬として実用化を目指している。特に心不全の治療薬としては、慢性心不全の症状軽減を目的とした従来の薬剤に比べて、1回の投薬による作用の持続、すなわち安定した循環機能を維持する有用性が期待されている。

 そして15年10月、DSファーマアニマルヘルス(大阪市、大日本住友製薬の動物薬事業部門が会社分割で独立して10年7月設立)と、高血圧DNAワクチンの犬慢心性不全への応用を目指した動物用医薬品に関する共同開発契約を締結した。なお当社はヒトを対象とした開発も計画している。

■DNAワクチン抗血清製剤 ~導入開発 適応症:エボラ出血熱 日本~

 15年1月に遺伝子治療技術を応用して、エボラ出血熱対策医薬品として抗血清製剤の開発を国内で開始すると発表した。予備的な試験を開始して今後の開発計画については詳細が確定次第公表するとしていたが、15年6月にウマにDNAワクチンを投与した試験において、ウイルスタンパク質に対する抗体価が有意に上昇したことを確認したと発表している。

 開発を計画する抗血清製剤は、感染予防効果を得るのに時間を要するワクチン療法と異なり、すでにウイルスに感染した患者の病態の悪化を抑制するもので、エボラ出血熱ウイルスのタンパク質をコードするDNAワクチンをウマに接種して得られるウイルスタンパク質に対する抗体を精製して製造する。DNAワクチン技術を用いることで、病原ウイルス自体を取り扱わないため安全かつ短期間で製造できる。

 当該抗血清製剤の開発については、DNAワクチン技術を有する米バイカル社から日本国内における独占的開発販売権を取得した。当該抗血清製剤を開発するためのDNAワクチンは米バイカル社が製造する。

■アロベクチン ~導入開発 適応症:がん アジア~

 がん疾患を適応症とするアロベクチンについては、導入元の米バイカル社が13年8月、転移性メラノーマ(悪性黒色腫)を対象としたアロベクチンの第3相臨床試験の結果、有意な改善効果が示されなかったため、同プロジェクトの中止を発表した。

 当社はアロベクチンに関するアジア地域における独占的開発販売権を有しているため、メラノーマ以外のがん疾患への適用を検討している。

■長期ビジョン「2025年ビジョン」

 10年後の当社のあるべき姿として長期ビジョン「2025年ビジョン」を策定し、遺伝子医薬のグローバルリーダー、新市場の創出、売上高500億円以上を掲げた。

 重症虚血肢を適応症とするHGF遺伝子治療薬の日本国内における承認申請(16年後半目標)が視野に入り、中等症以上の顔面アトピー性皮膚炎を適応症とするNF-kBデコイオリゴ軟膏の第3相臨床試験開始により、国内の成長ドライバープロジェクトが最終段階に入った。また重症虚血肢を適応症とするHGF遺伝子治療薬の国際共同第3相臨床試験開始により、最重要プロジェクトが始動した。

 重要プロジェクトが進展して研究・開発ステージから商業化ステージに移行する。また今後の取り組みとして、国内外の提携先拡大に向けたライセンス活動を強化するとともに、必要に応じて開発資金を調達する方針だ。

 収益面で見れば当面は開発投資増加に伴って赤字が継続するが、商業化ステージの第1段階として19年12月期の営業黒字化を目指している。重症虚血肢を適応症とするHGF遺伝子治療薬の国際共同第3相臨床試験進展に伴うマイルストーン収入増加が牽引する。

 さらに25年には売上高500億円以上を目指している。重症虚血肢を適応症とするHGF遺伝子治療薬の日本・米国・欧州での販売、中等症以上の顔面アトピー性皮膚炎を適応症とするNF-kBデコイオリゴ軟膏の日本での販売が本格寄与する。営業利益は300億円以上を想定しているようだ。

■15年12月期利益予想を増額修正、期初計画に対して赤字幅縮小

 今期(15年12月期)連結業績予想(10月30日に修正、売上高は据え置いて各利益を増額)は、売上高が4億50百万円(前期9億09百万円)、営業利益が43億円の赤字(同22億73百万円の赤字)、経常利益が42億50百万円の赤字(同23億95百万円の赤字)、純利益が43億円の赤字(同23億69百万円の赤字)としている。期初計画に対しては赤字幅が縮小する見込みだ。

 前期との比較では契約一時金収入が減少し、重症虚血肢を適応症とするHGF遺伝子治療薬の国際共同第3相臨床試験、およびアトピー性皮膚炎を適応症とするNF-kBデコイオリゴ核酸医薬の国内第3相臨床試験で、研究開発費が大幅に増加して各利益とも赤字が拡大する。ただし、臨床試験および非臨床試験に使用するHGF遺伝子治療薬およびNF-kBデコイオリゴ核酸医薬の原薬製造の完了時期が来期(16年12月期)に変更になり、またCROなど外部委託機関への支払の一部に来期以降への変更が生じたため、研究開発費用が期初計画に比べて減少する見込みとなった。

 第3四半期累計(1月~9月)連結業績は、売上高が前年同期比13.6%増の3億20百万円、営業利益が30億25百万円の赤字(前年同期は20億48百万円の赤字)、経常利益が29億54百万円の赤字(同21億21百万円の赤字)、純利益が30億07百万円の赤字(同20億90百万円の赤字)だった。

 売上高の内訳は、ムコ多糖症VI型治療薬「ナグラザイム」の商品売上高が同28百万円(12.9%)増加の2億50百万円、田辺三菱製薬からの契約一時金など研究開発事業収益が同9百万円(15.9%)増加の69百万円だった。

 売上原価は「ナグラザイム」の増収に伴い同19百万円(17.8%)増加して1億27百万円となった。研究開発費は同8億74百万円(51.2%)増加して25億84百万円となった。HGF遺伝子治療薬の国際共同第3相臨床試験、NF-kBデコイオリゴ核酸医薬の第3相臨床試験に係る費用で外注費が8億35百万円増加した。また人員増強で給料および手当が1億19百万円増加した。販管費は寄付講座への支出増加、支払手数料の増加、人員増強による給料および手当の増加などで、同1億21百万円(23.6%)増加して6億33百万円となった。

 営業外収益では、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「平成25年度イノベーション実用化ベンチャー支援事業」に採択された「HGFプラスミドを用いたリンパ浮腫治療薬の臨床開発」に対する助成金69百万円を計上した。為替差損益は前年同期の為替差損13百万円計上に対して、今期は為替差益11百万円を計上した。営業外費用では、前年同期にライツ・オファリング実施に伴う株式交付費1億18百万を円計上したが、今期は19百万円に減少した。またストックオプション権利保有者の失権(退職)に伴い、第3四半期の特別利益に新株予約権戻入益49百万円を計上した。

 なお四半期別に見ると、売上高は第1四半期(1月~3月)81百万円、第2四半期(4月~6月)1億59百万円、第3四半期(7月~9月)80百万円、営業利益は第1四半期9億60百万円の赤字、第2四半期10億45百万円の赤字、第3四半期10億20百万円の赤字だった。

■資金調達

 15年3月に株式発行プログラム設定契約締結および第三者割当による新株式発行の実施によって約29億円の資金調達を計画したが、その後の株式下落により結果として当該プログラムに基づく差引手取額が約7億16百万円にとどまった。

 また15年9月に発表した国内および海外の機関投資家を対象とする新株式発行および株式売出しについては10月に中止を発表した。アトピー性皮膚炎および椎間板性腰痛症を適応症としたNF-kBデコイオリゴ核酸医薬開発費用に充当することを目的として決議したが、多くの投資家から当社の開発プロジェクトがさらに進展した段階で投資を行いたいとの意見があり、今回の募集期間中に当社の成長性を理解されるに至らないと判断して中止を決議した。

 ただし16年3月期第3四半期末時点で現預金は33億78百万円あり、当面の研究開発に対する支障はないとしている。

■株価は大底圏から脱する流れ

 株価の動きを見ると、15年8月の上場来安値186円まで下押したが、その後は切り返しの動きを強めている。12月8日にはHGF遺伝子によるリンパ管新生促進剤を対象とする欧州での特許成立を好感して269円まで上伸する場面があった。大底圏から脱する動きだ。

 12月24日の終値は215円で時価総額は約122億円である。全般地合い悪化も影響して水準を切り下げたが、重要プロジェクトの承認申請が視野に入り、研究・開発ステージから商業化ステージに移行する見込みとなったことを考慮すれば、大底圏を脱する流れに変化はないだろう。

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