カーリットホールディングスの出口和男会長兼社長にホールディングスへの移行の背景と今後の取り組みを聞く
【カーリットホールディングスの出口和男会長兼社長に聞く】
■10月1日に東証1部へ上場、95年の歴史を持つ日本カーリットなど連結子会社9社、関連会社2社で構成
10月1日にホールディングスとして東証1部に上場した『カーリットホールディングス』<4275>(東1・売買単位100株)。95年の歴史を持つ日本カーリットなど連結子会社9社と関連会社2社でグループを構成する。なかでも、研究開発を行う『R&Dセンター』を持株会社に配置したことが一番の特徴で、5年先の100周年に向けて新製品開発や新事業が次々と投資家の前に姿を見せることが期待される。出口和男会長兼社長にホールディングスへの移行の背景と今後の取り組みを聞いた。
■研究開発の『R&Dセンター』をグループ内に置き100周年に向け新製品開発・新事業に積極展開
――10月1日に『カーリットホールディングス』を設立され、証券コード番号4275として東証1部に上場されました。平成25年9月末時点の日本カーリット株式1株につき持株会社の株式1株を割当てる単独株式移転の方法での設立でした。グループの社員は約780名とお聞きしていますが、ホールディングス発足に当ってどのような訓辞をされましたか。
【出口社長】 ホールディングスの連結子会社となった日本カーリットは浅野総一郎氏が1918年に創業した化薬・電解製品を得意とする化学会社で、2018年に創業100周年を迎えます。この歴史を誇りとしつつ、グループ全体で新しい分野に積極的に取組んでいかなくてはいけないと訓示しました。また、化学会社にとって『安全』を怠ると会社の存立に関わることから、全社挙げての『安全重視』を強調しました。
――今年で95年の歴史のある日本カーリットから、なぜホールディングスへ移行されたのですか。
【出口社長】 歴史のあることは社会から高い評価を受け、会社が安定していることですが、その反面、マンネリと甘えが生まれます。当社にもそれがなかったとは言えません。社会の変化は企業の都合に関係なく早く、激しく進みます。今のままでは業績は安定はしていても成長が見込めない心配があります。このため、5年先の100周年に向って今よりも進化した姿になっていくことを目指してホールディングスへの移行を決断しました。
――大実業家として著名な創業者の浅野総一郎氏が、スウェーデンからカーリット爆薬の製造販売の権利を取得され、化薬(爆薬)を事業の一つに加えられ事業を拡大されたということですが、現在の事業内容についてお願いします。
【出口社長】 爆薬のほかにも農薬、電極・電解、電子材料、機能性材料など様々な分野に展開しています。グループは連結子会社9社、関連会社2社です。事業としては、『化薬事業』、『化学品事業』、『ボトリング事業』、『シリコンウエーハ事業』、『その他』という構成です。
まず、『化薬事業』では石灰鉱山、砕石をはじめ土木工事など社会基盤を支える様々な分野に貢献しています。皆さんに身近なところでは高速道路などで二次災害を防止する自動車用緊急保安炎筒において国内シェア約90%を誇っています。最近では、自動車用緊急保安炎筒に緊急脱出用のガラス破壊能力を付加した「ハイフレヤープラスピック」も加え、信号用火工品の製造販売を強化しています。また、民間として国内で初めてとなる化学物質の危険性評価試験の受託を手がけています。
次に、『化学品事業』では、工業薬品を中心とした電解関連事業を行っています。白い紙を作るために欠かせないパルプ漂白剤の塩素酸ナトリウムは、国内の50%近いシェアを持っています。最近、国産宇宙ロケット打上げが話題になりましたが、ロケット用固体燃料の原料となる過塩素酸アンモニウムは、国内では当社のみが製造しております。また、繊維漂白、殺菌、消臭などの幅広い分野に用いられる亜塩素酸ナトリウムの製造販売も行っています。ほかにも、分析試薬向けなどの過塩素酸、電極技術を駆使したプラント関連事業、農薬や有機合成を中心としたライフサイエンス事業も行っています。電子材料関連では、電解コンデンサ向けの有機固体電解質やプラズマディスプレイ向け、および熱線遮蔽フィルム向けの近赤外線吸収色素、カラーコピー用の電荷調整剤、電気二重層キャパシタ用電解液などの製造販売を行っています。
――ボトリング事業は本業と異なる印象ですが。
【出口社長】 本業とは異質のものです。当社グループは、ご説明した通り高いシエアの製品が多く、確かに安定はしています。しかし、よりいっそうの成長を図るために、新しい分野への進出を模索しようという中で出てきたものです。1992年にスタートし、私は3年ほどボトリング事業の経営に当っていました。創業者が広大な土地を残してくれていましたので遊休地の有効活用という考えです。伊藤園さんなどのペットボトル飲料や缶飲料充填の受託を行っています。夏場が中心ですので、今後は秋、冬に向けた設備を増強していく計画です。
――100周年に向けてどのような取り組みでしょうか。
【出口社長】 今後もBtoBを中心に展開します。『時代の流れを読んで、作って欲しいといわれる材料の開発』に力を入れていきます。今回のホールディングス化に当って、研究開発を行うR&Dセンターを持ち株会社に配置したことが一番の特徴です。R&Dセンターが日本カーリットだけでなく、グループ会社の研究開発を実施していきます。そのシナジー効果により、従来の発想を超えたさまざまな開発案件が上がってくるとみています。研究開発費も今後5年間、かなりの金額を予定しています。化学原料では化粧品の原料、ボトリング事業の中からは食品関連の材料などが開発案件として出てくると思います。危険性評価試験や充放電試験では電池関連の大型受注に努めるほか、二次電池関連の素材開発に取組んで行きたいと思っています。当然、宇宙分野も開発ターゲットとして取組んで行きますし、スマートシティ、スマートハウスといった分野への展開も考えています。こうした積極的な取組の中においても、『安全』を第一に取組んでいきます。ベースは化学会社ですから事故を起こしたら会社の存立にかかわります。この「安全」の考えを会社に関わるすべてにおいて徹底します。電車運行の「指差し行動」のように愚直に取組んでいきます。
――日本カーリットにおいて中期経営計画『飛躍500』をお持ちでしたが、ホールディングスとなって新中期経営計画はお持ちですか。
【出口社長】 現在、中期経営計画『飛躍500』の最終年度に当っています。『飛躍500』の基本方針は、(1)事業領域の拡大、(2)市場の拡大、(3)シェアの拡大、という3つの拡大戦略により、『売上高500億円の化学会社への成長』を目指し企業価値の向上に努めるという内容です。ただ、M&A実施のタイミングもあって売上500億円はやや届かない状況です。新中期計画については100周年に向けての事業展開も含め、来年1年程度かけてじっくり計画を練りたいと思っていま
――ありがとうございました。
■株価はPER7倍台の割安
【編集後記】 日本カーリットの今3月期連結業績見通しは売上26.4%増の475億円、営業利益44.5%増益の20億円、1株利益63.1円、配当は年9円となっている。カーリットホールディングスの業績も、ほぼこの数字に近いものとなる見込み。ホールディングス株価は新規上場日の1日に529円でスタートし549円と買われた。10日は497円だが、PERは7倍台とマーケット平均を大きく下回っている。今後、楽しみな材料が期待され中期投資には絶好の仕込み場といえるだろう。