【アナリスト水田雅展の銘柄診断】テラは樹状細胞ワクチン療法(がん治療)の薬事承認取得を目指す

【アナリスト水田雅展の銘柄分析

 テラ<2191>(JQS)は、樹状細胞ワクチン療法(がん治療)の薬事承認を目指す東京大学発バイオベンチャーである。中期成長に向けて先端医療周辺事業にも積極展開している。15年12月期は開発費用増加で赤字拡大だが、樹状細胞ワクチン療法(がん治療)の16年治験届提出を目指している。株価は地合い悪化も影響して安値圏だが売られ過ぎ感を強めて反発のタイミングだろう。なお2月9日に15年12月期の決算発表を予定している。

■独自開発のがん治療技術を医療機関に提供

 東京大学医科学研究所発のバイオベンチャーである。樹状細胞ワクチン「バクセル」を中心とした独自開発のがん治療技術を契約医療機関に提供する細胞医療事業を主力として、医療支援事業(研究機関・医療機関から受託する細胞加工施設の運営・保守管理サービス、細胞培養関連機器の販売、治験支援サービスなど)、および樹状細胞ワクチン療法(がん治療)の薬事承認取得を目指す医薬品事業を展開している。

 主力の細胞医療事業は契約医療機関における症例数に応じた収入が収益柱である。15年9月末時点の契約医療機関数は全国38カ所、契約医療機関における当社設立以降の累計症例数は約9800症例となった。

 15年9月には、樹状細胞ワクチン療法の技術・ノウハウを提供している福島県立医科大学付属病院が「WT1ペプチドを用いた樹状細胞ワクチン療法」を胃がん、食道がん、肺がんを対象に先進医療として治療を開始した。15年12月には、契約医療機関である医療法人社団愛友会上尾中央総合病院において、樹状細胞ワクチン療法の提供が開始された。

■樹状細胞ワクチン療法(がん治療)の薬事承認取得を目指す

 樹状細胞ワクチン療法(がん治療)は、患者自身の免疫細胞を用いることによってがん細胞を狙い撃ちするように進化させた最先端のがん免疫細胞療法として注目されている。10年には米国で前立腺がんに対する樹状細胞ワクチン療法による延命効果が証明され、樹状細胞ワクチンが認可された。

 樹状細胞(体内に侵入した異物を攻撃する役割を持つリンパ球に対して、攻撃指令を与える司令塔のような細胞)を体外で大量に培養し、患者のがん組織や人工的に作製したがんの目印である物質(がん抗原)の特徴を認識させて体内に戻すことで、樹状細胞からリンパ球にがんの特徴を伝達し、そのリンパ球にがん細胞のみを狙って攻撃させようというのが樹状細胞ワクチンである。

 当社は独自技術で改良を重ね、がんの目印にWT1ペプチド(当社が独占実施権を保有)を用いる樹状細胞ワクチン「バクセル」を、がん治療用として最適化した。そして14年1月に子会社テラファーマを設立し、樹状細胞ワクチン療法(がん治療)の薬事承認取得を目指している。

 日本では13年5月に公布された「再生医療推進法」の理念のもと、14年11月に「医薬品医療機器等法(旧薬事法改正)」および「再生医療等安全性確保法」の再生医療関連2法が施行された。そして再生医療・細胞医療の早期実用化の促進が期待されている。

 樹状細胞ワクチン療法(がん治療)は「医薬品医療機器等法」に基づいて、がん治療用再生医療等製品として早期承認制度を活用して薬事承認を取得する方針だ。開発体制整備を強化して16年の治験届提出を目指している。

 15年3月には再生医療・細胞医療の要素技術である免疫細胞用凍結保存液の製造・販売に関する独占的通常実施権を取得した。樹状細胞ワクチン療法(がん治療)の薬事承認取得を目指す子会社テラファーマに再実施権を許諾し、樹状細胞ワクチン「バクセル」を搬送する際に用いる凍結保存液の実用化を図り、薬事承認取得に向けた準備を加速させる。

 15年4月には、11年1月から進行膵臓がんを対象として慶應義塾大学医学部と共同研究を進めてきた、抗がん剤を併用したWTIペプチドを用いた樹状細胞ワクチン療法(がん治療)第1相臨床研究結果を発表した。

 また15年11月には、進行膵臓がんおよび進行胆道がんを対象として東京慈恵会医科大学附属柏病院と共同で進めてきた、抗がん剤を併用した樹状細胞ワクチン療法(がん治療)の安全性ならびに有効性を評価するための第1相臨床研究において、治療前後の測定データを解析し予後予測因子の探索を行った結果が論文発表された。

■中期成長に向けて先端医療周辺事業に積極展開

 中期成長に向けて先端医療周辺事業への展開も積極的に推進している。13年5月がん新薬を中心としたCRO(治験支援)事業に参入するため子会社タイタンを設立、14年2月ゲノム診断支援事業に向けてゲノム解析ソフトウェア開発のジナリスと合弁子会社ジェノサイファー(14年9月オールジーンに商号変更)を設立、14年8月少額短期保険業者のミニンシュラーを子会社化(14年12月テラ少額短期保険に商号変更)して保険事業(免疫保険)に参入した。

 15年3月には、一部契約医療機関において10年後、20年後のがん治療に備えるための「免疫細胞バンク」サービスを15年4月以降に開始すると発表した。アフェレーシス(成分採血)で単球を採取して樹状細胞に成熟させ、樹状細胞ワクチンの状態で凍結保管する。がんに罹患した場合に、健康な時に作成した樹状細胞ワクチンを用いて治療を行うことが可能になる。

 15年10月には、がんをはじめとする疾病の早期診断・早期予防等を実現する独自の技術プラットフォームを開発する新会社karydo TherapeutiX社(15年10月設立)に資本参加した。先端医療周辺事業への展開の一環として早期診断・早期予防関連事業に参入する。なお出資比率は49%で同社は持分法適用関連会社となる。

■アライアンス戦略も積極活用

 アライアンス戦略も積極活用している。13年4月iPS細胞による再生医療実用化を目指すヘリオス<4593>に出資、13年7月アンジェスMG<4563>と子宮頸がんの前がん病変治療ワクチンの共同研究・開発基本契約を締結、13年12月iPS細胞を利用したがん免疫細胞療法の開発に向けてヘリオスと業務提携、14年4月組織培養用培地のパイオニアであるコージンバイオに出資して資本業務提携した。

 15年5月には子会社オールジーンが、ハウステンボス「健康と美の王国」に先制医療のための新サービス「プリエンプティトータルチェック&ケア」の提供を開始した。遺伝子、腸内細菌バランス、免疫細胞活性の検査など5つのサービスがあり、自分の身体の状態を知ることで食生活や生活習慣の改善に活用することが可能となる。

 15年6月には、当社が参画している一般社団法人再生医療イノベーションフォーラムが15年4月設立した再生医療産業化拠点実証タスクフォース(RMIT)に参画して活動を支援すると発表した。

 15年7月には東京慈恵会医科大学悪性腫瘍治療研究部との共同研究契約締結を発表した。医薬品等を汚染するエンドトキシン等の発熱性物質の検出法を開発するための、ヒトiPS細胞由来樹状細胞の樹立に関する研究を開始する。

■15年12月期第3四半期累計は薬事承認取得に向けた費用が増加

 前期(15年12月期)第3四半期累計(1月~9月)の連結業績は、売上高が前年同期比3.0%増の14億79百万円、営業利益が4億06百万円の赤字(前年同期は1億97百万円の赤字)、経常利益が4億29百万円の赤字(同2億27百万円の赤字)、純利益が4億49百万円の赤字(同2億07百万円の赤字)だった。

 医薬品事業における樹状細胞ワクチン療法(がん治療)薬事承認取得に向けた費用の増加で赤字が拡大した。セグメント別売上高は、細胞医療事業が同5.1%減の7億76百万円、医療支援事業が同0.6%減の7億03百万円、医薬品事業が0百万円だった。第3四半期(7月~9月)の契約医療機関における樹状細胞ワクチン療法の症例数は約280症例で、当社設立以降の累計では約9800症例となった。

 四半期別の推移を見ると、売上高は第1四半期(1月~3月)6億40百万円、第2四半期(4月~6月)4億52百万円、第3四半期(7月~9月)3億87百万円で、営業利益は第1四半期84百万円の赤字、第2四半期1億45百万円の赤字、第3四半期1億77百万円の赤字だった。

■15年12月期通期も薬事承認取得に向けた費用が増加

 前期(15年12月期)通期の連結業績予想(8月7日に減額修正)は、売上高が前々期比4.3%増の19億45百万円で、営業利益が6億81百万円の赤字(前期は2億93百万円の赤字)、経常利益が7億11百万円の赤字(同3億30百万円の赤字)、純利益が7億26百万円の赤字(同4億02百万円の赤字)としている。

 細胞医療事業において契約医療機関における樹状細胞ワクチン療法の症例数がやや伸び悩み、医薬品事業における樹状細胞ワクチン療法(がん治療)薬事承認取得に向けた費用増加で赤字が拡大する。

 当面は赤字が拡大するが、樹状細胞ワクチン療法(がん治療)の16年治験届提出を目指している。薬事承認取得に向けた開発の進展と中期成長に対する期待が高まる。

■継続企業の前提に関する重要な不確実性は認められないと判断

 なお当社は、がん治療技術やノウハウなどの研究開発・医療支援サービスに関わる費用が収益に先行して発生するなどの理由から、継続的に営業損失が発生しており、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような状況が存在している。

 ただし第3四半期累計末の資金残高および今後の資金繰りを検討した結果、当面は事業活動の継続性に懸念はなく、今後の運転資金も十分に確保できているため、継続企業の前提に関する重要な不確実性は認められないものと判断している。

 また当該状況の解消を図るべく、グループ経営体制の効率化や営業・技術面の連携促進などの施策を講じながら、収益力の改善に努めるとしている。

■株価は安値圏だが売られ過ぎ感

 株価の動きを見ると、地合い悪化の影響も受けて水準を切り下げた。1月18日には638円まで調整して15年8月安値631円に接近する場面があった。なお1月18日の終値は665円だった。時価総額は約93億円である。

 週足チャートで見ると13週移動平均線を割り込んで安値圏だが、日足チャートで見ると25日移動平均線に対するマイナス乖離率が15%程度まで拡大して売られ過ぎ感を強めている。樹状細胞ワクチン療法(がん治療)の16年治験届提出で中期成長に対する期待が高まる。反発のタイミングだろう。

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