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【アナリスト水田雅展の銘柄診断】ラクーンは16年4月期増収増益基調、フィンテック関連で再動意の可能性
- 2016/1/19 08:26
- アナリスト水田雅展の銘柄分析
ラクーン<3031>(東マ)はアパレル・雑貨分野の企業間電子商取引サイト「スーパーデリバリー」運営を主力として、周辺事業領域への拡大戦略を加速している。ストック型収益構造で16年4月期増収増益基調だ。株価はフィンテック関連で人気化した1月5日高値から急反落したが、フィンテック関連は中期的なテーマとなる可能性があり、目先的な過熱感が解消して再動意のタイミングだろう。
■アパレル・雑貨分野の企業間ECサイト「スーパーデリバリー」運営が主力
アパレル・雑貨分野の企業間(BtoB)電子商取引(EC)サイト「スーパーデリバリー」運営を主力として、クラウド受発注ツールの「COREC(コレック)」事業、BtoB掛売り・請求書決済代行サービスのPaid(ペイド)事業、売掛債権保証事業など周辺事業領域への拡大戦略を加速している。
15年4月期から事業セグメント区分を「スーパーデリバリー」と「COREC」のEC事業、およびPaid事業、売掛債権保証事業の3区分とした。
■「スーパーデリバリー」越境ECサービス(海外販売)も開始
15年4月期末「スーパーデリバリー」経営指標は、会員小売店数が14年4月末期比3929店舗増加の4万4370店舗、出展企業数が同117社増加の1065社、商材掲載数が同3234点増加の45万6349点だった。
有名アパレル関連企業の出展が加速している。14年12月にはアパレル大手のワールド、15年5月には有名スポーツブランドアイテムを扱うゼット、15年9月には老舗繊維専門商社ヤギ<7460>がテレビショッピングで人気のミセス向けレディースアパレル商品、15年10月には本革を使ったレディースバッグブランド「Beaure(ビュレ)」を扱うキューズ、紙製品メーカーの山櫻、有名文具メーカー商品を扱う東京エコール、11月にはリリーが出展して高品質な革バッグなど服飾雑貨の販売を開始した。
15年8月にはスーパーデリバリーにおける越境ECサービス(海外販売)を開始した。商品を販売するメーカー側の配送業務を簡潔にするため、ディーエムエス(DMS)の物流代行サービスを利用し、日本最大級の輸出販売サービス「SDexport」としてサービスを提供する。約134ヶ国以上の小売店・企業への卸販売が可能となる。
サービス開始に先立って、販売側のメーカー約500社、仕入側の海外小売店および企業約1000社の集客を行い、取扱商品数約7万点でのスタートとなった。
15年11月には国内生産インフラサービス「SD factory」の開始を発表した。日本国内のアパレル関連工場やパタンナーと、アパレルメーカーやデザイナーをマッチングするサービスで、出展企業に対する生産面での新たな付加価値サービスとしている。取引が成立した際の代金回収についてはBtoB掛売り・請求書決済代行サービスのPaidを利用できる。
15年12月には、偕成社(東京都)とほるぷ出版(東京都)がスーパーデリバリーで絵本の販売を開始した。スーパーデリバリーを利用する小売店は出版社から本を仕入れ、出版社は書店以外の小売店に本を販売することが可能になる。まずは絵本の取り扱いを増やし、小売店の反応を見ながら絵本以外のジャンルに関しても取り扱いを広げる方針だ。
また12月24日には、16年1月下旬から日本未上陸ブランドを含むイタリアのメンズファッションブランドへの共同発注を実施すると発表した。イタリアで開催される世界最大級のメンズファッション展示会「ピッティ・ウォモ」に参加するブランドを含む10社前後のアイテムを、スーパーデリバリーが会員小売店からまとめてオーダーする。
■「Paid」加盟企業数も増加基調、Fintech協会に加入
11年10月にサービス開始したBtoB掛売り・請求書決済代行サービスPaid事業の加盟企業数は15年3月に1200社を突破、15年10月6日に1500社を突破した。スタート当初はアパレルや雑貨の卸メーカーが中心だったが、サービス改良によって業種・業態を問わず、あらゆるBtoB向けサービスに導入できるようになった。
グラフィックの「印刷の通販グラフィック」、GMOコマースのO2O事業、三菱自動車工業の「三菱自動車 電動車両サポート」、Pharmaket社の医療用医薬品卸売サイト「ファルマーケット」、ietty社のお部屋探しサイト「ietty」などにも導入されている。
15年12月にはBtoB掛売り・請求書決済代行サービス「Paid」が一般社団法人Fintech協会に加入したと発表している。同協会の目的に賛同し、Fintech市場活性化の一躍を担うとしている。
また15年12月には、コミュニケーションアプリ「LINE」の公開型アカウント「LINE@」対応を開始した。
■M&A・アライアンスも積極活用
M&Aやアライアンスも積極活用している。14年10月にSquare社と業務提携して「スーパーデリバリー」および「COREC」とPOSレジアプリ「Squareレジ」がシステム連携した。
14年11月には子会社トラスト&グロースがスタンドファームと業務提携した。スタンドファームのクラウド請求書管理サービス「Misoca」登録業者に対して売掛保証サービスを提供する。
14年12月にはトラスト&グロースがトラボックスと業務提携した。荷物を運んで欲しい人とトラック運送業者を結ぶオンライン物流サービス「トラボックス」登録会員に対して運賃全額保証サービスを提供する。
15年6月にはロックオンと業務提携した。ロックオンのECオープンプラットフォーム「EC-CUBE」のユーザー向け決済ツールとして、Paidが標準搭載される。
15年7月にはトラスト&グロースが信用交換所大阪本社に対して、同社と商品設計した同社会員向け専用の売掛保証サービス「シンコー保証」の提供を開始した。これによってクライアント増加による保証残高の拡大、および売上高の増加を狙うとしている。
15年9月にはフライトホールディングス<3753>のグループ会社イーシー・ライダーと業務した。当社のBtoB掛売り・請求書決済代行サービス「Paid」と、イーシー・ライダーが運営するBtoB向けEC構築サイト「EC-Rider B2B」と連携する。
■クラウド受発注ツール「COREC」のユーザー数も増加基調
15年4月にはクラウド受発注ツール「COREC」が「Yahoo!ショッピング」と連携した。発注にかかる作業時間や手間が大きく改善されるため「Yahoo!ショッピング」出店者のショップ運営業務が効率化される。またCOREC利用頻度向上にも繫がるとしている。
15年4月には「COREC」ユーザー数が2000社(バイヤー1191社、サプライヤー809社)を突破した。会員ユーザーの業種別構成比は雑貨20%、アパレル13%、飲食料14%、IT12%、建築・設備3%、その他38%だった。
15年7月には「COREC」ユーザー数が3000社(バイヤー1836社、サプライヤー1164社)を突破した。2000社突破から4ヶ月弱での達成だ。アパレル企業(サプライヤー)による取引先(バイヤー)の積極的な誘致で、数十店規模でチェーン展開している企業のチェーン全店舗が登録する事例や、農園(サプライヤー)による取引先(バイヤー)の誘致で、レストランが数十店舗まとめてユーザー登録する事例もあるようだ。
15年8月には「COREC」が、リクルートライフスタイルが運営する飲食・美容・小売店舗運営に役立つサービス提案サイト「Airマーケット」と連携した。
■月額課金のシステム利用料が積み上がるストック型収益構造
企業間ECサイト・スーパーデリバリー流通に係る売上高に関して、従来は出展企業と会員小売店がスーパーデリバリーを通じて取引した金額を売上高計上(総額表示)し、商品仕入高も売上原価に計上していたが、15年4月期から商品仕入高を売上高と相殺して表示する方法(純額表示)に変更した。この変更によってスーパーデリバリー流通に係る売上高は出展企業から徴収するシステム利用料売上となっている。従来の総額表示に比べて見掛け上の売上高は減少するが利益に変更はない。
15年4月期の四半期別の推移を見ると、売上高は第1四半期(5月~7月)4億90百万円、第2四半期(8月~10月)5億06百万円、第3四半期(11月~1月)5億22百万円、第4四半期(2月~4月)5億38百万円で、営業利益は第1四半期57百万円、第2四半期93百万円、第3四半期1億04百万円、第4四半期82百万円だった。
出展企業と会員小売店の増加に伴って月額課金のシステム利用料売上が積み上がるストック型収益構造である。なお15年4月期のROEは13.1%で14年4月期比4.5ポイント上昇、自己資本比率は35.6%で同12.2ポイント低下した。配当性向は19.7%だった。
■16年4月期第2四半期累計は増収増益、Paid事業が初の黒字化
今期(16年4月期)第2四半期累計(5月~10月)の連結業績は、売上高が前年同期比8.1%増の10億77百万円で、営業利益が同22.2%増の1億83百万円、経常利益が同19.9%増の1億81百万円、純利益が同23.2%増の1億17百万円だった。
営業強化のための人員増に伴う人件費の増加、15年8月開始の「スーパーデリバリー」越境ECサービス「SDexport」の準備費用などのコストアップ要因があったが、増収効果で吸収し、Paid事業が初めて営業黒字化したことも寄与して大幅増益だった。売上総利益率は82.6%で同3.1ポイント低下、販管費比率は65.6%で同5.1ポイント低下した。
セグメント別(連結調整前)動向を見ると、EC事業は売上高が同1.8%増の7億73百万円、営業利益が同27.6%増の1億13百万円だった。客単価の低下などでスーパーデリバリー流通額は同1.5%減の46億26百万円となったが、会員小売店数が順調に増加し、月額課金の小売店月会費や企業出展基本料が順調に増加した。ポイント制度にかかるコストや送料などの削減効果も寄与した。
15年10月末「スーパーデリバリー」会員小売店数は15年4月末比3264店舗増加の4万7634店舗、出展企業数は同20社増加の1085社、商材掲載数は同5万2985点増加の50万9334点だった。また「COREC」ユーザー数は3815社となった。
Paid事業は売上高が同31.0%増の1億64百万円、営業利益が1百万円の黒字(前年同期は11百万円の赤字)だった。増収効果で11年10月のサービス開始以来、初めて営業黒字化した。Paid加盟企業数は順調に増加して1500社を超えた。グループ内を含む取引高は同27.1%増加した。イーシー・ライダーとの業務提携により、同社のBtoB向けECサイト構築ASP「EC-Rider B2B」を用いて、BtoB向けECサイトを運営する企業に対して追加開発することなくPaidを提供することが可能になったことも寄与した。
売掛債権保証事業は、売上高が同18.7%増の3億18百万円で、営業利益が同3.7%増の50百万円だった。14年4月に開始した事業用家賃保証サービスの順調な増加も寄与して、グループ内を含む保証残高が同16.4%増加した。
なお四半期別の推移を見ると、売上高は第1四半期(5月~7月)5億33百万円、第2四半期(8月~10月)5億44百万円、営業利益は第1四半期87百万円、第2四半期96百万円だった。
■16年4月期増収増益基調
今期(16年4月期)通期の連結業績予想(6月10日公表)は、売上高が前期比10.4%増の22億70百万円、営業利益が同23.5%増の4億15百万円、経常利益が同25.4%増の4億10百万円、純利益が同29.4%増の2億60百万円としている。
スーパーデリバリーの国内流通額伸び悩みの改善、越境ECサービス「SDexport」の規模拡大に取り組む。スーパーデリバリー運営におけるコスト構造見直しも進める。また「COREC」の収益寄与本格化、Paid事業と売掛債権保証事業の一段の収益改善も期待される。
配当予想(10月15日公表)は年間3円(期末一括)としている。15年8月1日付株式3分割を考慮して前期の年間6円80銭(期末一括)を年間2円27銭に換算すると実質的に73銭の増配となる。配当性向は16.9%となる。なお配当の基本方針については、将来の事業展開と経営体質の強化に備えるための内部留保の充実等を勘案しながら、業績を反映した水準で利益還元を実施するとしている。
通期会社予想に対する第2四半期累計の進捗率は売上高が47.5%、営業利益が44.2%、経常利益が44.3%、純利益が45.0%である。やや低水準の形だが、期後半に向けて収益が積み上がるストック型構造であることを考慮すればネガティブ要因とはならない。通期ベースでも増収増益基調が予想され、中期的にも収益拡大基調だろう。
■株価はフィンテック関連で人気化、過熱感解消して再動意の可能性
株価の動き(15年8月1日付で株式3分割)を見ると、BtoB掛売り・請求書決済代行サービス「Paid」のFintech協会加入を材料視して、1月6日の879円まで急伸した。06年以来の高値水準だ。その後1月18日の554円まで急反落したが、目先的な過熱感が解消した。
1月18日の終値580円を指標面で見ると、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS15円05銭で算出)は38~39倍近辺、今期予想配当利回り(会社予想の年間3円で算出)は0.5%近辺、前期実績連結PBR(前期実績に株式3分割を考慮した連結BPS90円29銭で算出)は6.4倍近辺である。なお時価総額は約105億円である。
日足チャートで見ると25日移動平均線が接近して目先的な過熱感が解消した。フィンテック関連は中期的なテーマとなる可能性があり、再動意のタイミングだろう。