【宮田修 アナウンサー神主のため息】なぜ『ブログ』をするのでしょう

 ブログというものをしている人が多いと聞きます。自分が何をしたか、何を考えたか、はたまた何を食べたかまでをインターネット上に書き記し、不特定多数の人に知らせるのだそうです。この事実を初めて知った時、私は到底信じることができませんでした。なんでそんなことをするのか理解できなかったからです。なぜなら私が今考えていることや自分がしたことなどを他人に、しかもまったく知らない不特定多数の人に知ってほしいなどとは思わないからです。ましてお昼ご飯に何を食べたかなど知らせる必要もないでしょうし、そうした事に他人は興味もないだろうと推察するからです。

 長くNHKでアナウンサーをしてきました。テレビやラジオに出ていました。もちろんそれが仕事ですから「仕事」をしていたのです。テレビに出ていると多くの人が私のことを知っています。多くの人に知られていることを羨ましいと思う方がいるかも知れませんが、それによって良かったと思ったことはほとんどありません。むしろ困ったことの方がはるかに多かったです。

 取るに足らない例を挙げましょう。私が横断歩道以外のところで道路を横断したとしましょう。必ずと言って良いほどNHKに電話が入ります。そういう電話は丁寧な言葉づかいをするそうです。「夜7時のニュースを担当しておられる宮田アナウンサーが横断歩道以外のところを渡っておられました。いかがなものでしょうか。」この電話の後、上司に呼び出され、叱られます。私は絶対に横断歩道以外のところを渡りませんでしたので叱られたことはありません。同僚たちの何人かはそのような電話を頂戴しています。まあテレビでかっこ良いことを言っていますから仕方ありませんがね。まことに不自由です。

 このような例を挙げろと言われれば即座にたくさん申し上げることができます。お若い女性と手を繋がないまでも一緒に歩いていると「宮田アナ不倫か?」という世界です。デパートでうな重を二つ買ったことがあります。友人が新幹線に乗るので昼食をプレゼントしました。それを見ていた妻の友人が我が家にわざわざ電話をしてくれました。奥さん今夜はうな重ですよ。ご主人が買っているのを私見ました。手ぶらで家に帰って妻との間で交わされた会話は辛いものでした。友だちにはうな重で私にはないの?と責められました。まあそう言われれば確かにそうかも知れません。ごめんなさい。でもそんなことで電話しないで下さいよ。お願いします。

 1度だけテレビに出ていて良かったと思ったのはあの大震災の時でした。阪神・淡路大震災です。私は、あの大震災の第1報を伝えたアナウンサーです。6千人以上の方が亡くなり、10兆円が失われた大自然災害でした。被災地に住む人たちの安否がなかなかわかりませんでした。神戸市役所の玄関の安否を尋ねるおびただしい数の張り紙を想い出します。あの放送の時、私は大阪に単身赴任していました。東京の家族は心配だったはずです。しかし私の無事をいち早く知ることができました。ご苦労された多くの方々には大変申し訳ありませんが、テレビに出ていたからです。それ以外で不特定多数の人に知られていて良かったと思ったことはまずありませんでした。重ねて申し上げれば仕事ですからテレビやラジオに出ていました。定年で辞めてホッとしています。本当にそうです。ブログとやらで自分のことを多くの方に知らせ、有名になるなんてあまりお勧めできることではありません。どうぞ考え直してください。

 ここで皆さんに疑問が湧くでしょう。それならなぜお前はこの欄に文章を寄せ、露出しているの?おっしゃる通りです。そうです。おかしいです。言い訳をします。実はこの会社の社長さんが親友なのです。頼まれました。断りきれず恥ずかしながら寄稿しています。お許しください。(宮田修=元NHKアナウンサー、現在は千葉県長南町の宮司)。

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