なお続く中央銀行イベントは追い風か逆風か?高利回り銀行株には「黒田シナリオ」の浮上を期待=浅妻昭治
- 2016/3/14 10:04
- 編集長の視点
<マーケットセンサー>
重要イベントの評価が、地球を一回りする間に売り材料から買い材料に変わってしまった。欧州中央銀行(ECB)の包括的な追加金融緩和策と同理事会後の記者会見でのドラギ総裁の発言である。イベント当日は、欧州、米国と続いて株価が下落したが、翌日には急反発と一変して東京市場に帰ってきた。マーケットの朝令暮改、変わり身の速さには慣れっこなはずの投資家にとっては驚くほどではないだろう。直感では売りだったのが、よく頭を冷やして分析、精査してみたら買いだと方向転換したのだと察しがつく。将棋棋士の故升田幸三実力制第4代名人が、名人位挑戦を決める大決戦の勝局一歩手前で大悪手を指して敗れたときに発した「錯覚いけない、よく見るよろし」という名言を思い出すのみである。
しかも、この売りから買いへの転換が、アジア株高、なかでも日本株の急反発をキッカケにしたようなのだ。これは、あの1987年10月の「ブラック・マンデー」の世界株安当時のストッパーになった東京市場や、2008年9月の「リーマン・ショック」の世界金融危機の救世主となった中国市場などを彷彿とさせるところがあり、二回り目に入る今週のわが東京市場への期待も高まろうというものである。
ただ中央銀行イベントは、このECB理事会で終わりにはならない。今週は、14日~15日に開催の日銀の金融政策決定会合、15日から16日まで開かれるFRB(米連邦準備制度理事会)のFOMC(公開市場委員会)と続く。この会合の結果やマーケットの初期反応・精査次第で、またまた現在の買い材料が売り材料へ激変する逆風となりか、さらにその売り材料が買い材料へ好転する追い風となるかは予断を許さず、吉凶が交錯する生々流転もありえるわけである。相場格言では、「意地商いは破滅の因」と強気、弱気のいずれか一方に凝り固まることの危険性を教えており、よくいえば臨機応変、下世話的には風見鶏的な投資スタンスは不可欠となる。
マーケットやマスコミに総スカン、売り材料とされているのを買い材料と強弁し続けているのが、黒田東彦日本銀行総裁である。日銀が、今年1月29日の金融政策決定会合でマイナス金利の初導入を決定した途端に銀行株が急落、メガバンク・トップの三菱UFJフィナンシャル・グループ<8306>(東1)の株価は、500円台を割り「アベノミクス相場」がスタートする直前水準まで往って来いとなってしまった。マイナス金利導入による金利低下により利ザヤは縮小し資産運用難に陥ると直感されて売り物を浴びた結果だ。国際決済銀行(BIS)の四半期報告書での、マイナス金利について家計と企業がどのように行動するか不透明として政策効果に疑問符がつけられ、その通りに日経平均株価も、1年4カ月ぶりに1万5000円台を下抜いた。
この間、黒田総裁は、金融政策決定会合直後の国会で銀行の経営問題への影響は限定的と答弁し、3月に入って開かれた最近の講演会でも、マイナス金利政策による金利低下は、「株高・円安の方向に力を持っている」と強調している。この銀行の経営問題に関しては、財政健全化上では種々問題ではあるらしいが、「日銀トレード」なる抜け道なども含まれているらしい。日銀は、年間80兆円の国債を買い続けており、財務省が実施する国債の入札で、銀行が落札した国債をそのまま日銀に転売すればサヤが抜けるというのである。銀行は、日銀に保有している当座預金に年マイナス0.1%の金利が課され徴収されるが、一方でこの「日銀トレード」によりなにがしかの穴埋めも図れることになる。
銀行サイドも、したたかなようだ。マイナス金利導入とともに住宅ローン金利を引き下げたが、間髪をいれず定期預金を引き下げて資金調達コストも低減し、もしかしたらATM(現金自動受払機)の手数料が引き上げるかもしれないなどとも観測されている。こうなると直感では銀行株には売り材料となったマイナス金利が、精査したら黒田総会が強調するようにあるいは買い材料としてさらに浮上するかもしれない。
銀行株の株価に「クロダノミクス」ならぬ「黒田シナリオ」が適用可能だと仮定すれば、マイナス金利導入で急落した銀行株に下げた株ほど良く戻すとする「リターン・リバーサル」買いが強まることになる。しかも銀行株は、マイナス金利による預金金利低下で一段とインカム・ゲイン(配当)選好が高まるなか、高配当利回り株の一角に位置する。いずれ想定される預金金利へのマイナス金利導入を懸念して、ホームセンターで金庫を買ってタンス預金の準備を始めるのも一法だが、その前に3月期の期末接近とともに高配当利回りランキングの上位にランクされる銀行株の配当権利取りを試してみるのも、一理も二理もあることになる。(本紙編集長・浅妻昭治)