【作家・吉田龍司の歴史に学ぶビジネス術】「トランプ大統領」で大暴落!?モンロー主義は復活するか

作家・吉田龍司の歴史に学ぶビジネス術

■「想定外」の事態が発生しつつある

 米大統領選が「まさか」の展開になってきた。多くの人、特に市場関係者が泡沫候補ととらえていた“不動産王”の共和党ドナルド・トランプ氏の快進撃が止まらないのだ。

 スーパーチューズデーに続くミニ・スーパーチューズデーでトランプ氏はフロリダなど3州で勝利。一方、民主党は前国務長官のヒラリー・クリントン氏が前進しており、11月8日の本選はトランプ対クリントンの対決が有力となってきている。

 ここに至り、「しょせんは予備選」、「ガス抜きであろう」とタカをくくっていた向きも認識を改めてきている。もしかしたら「万が一」があるのではないかと。

 米国民はウクライナ・シリア問題に見られるような自国の威信低下に危機感を持ち、強力なリーダーを待望しているようだ。さらに、猛烈な格差の拡大に対し、想像以上に不満を持っている。多くの人々が読み違いをしたのはこのあたりだろう。

 メキシコからの不法移民を「レイプ魔」と罵り、イスラム教徒の入国禁止を叫び、果てはメキシコ政府の費用負担で国境に「長城」を築く、などなどトランプ氏の一連の発言は非現実的なものが多い。自由貿易・同性婚・銃規制反対はいかにも共和党らしい主張だが、半面、富裕層への増税、国民皆保険の拡大、中絶の肯定といったリベラル左派的な主張もある。要するに、現状では保守もリベラルもごちゃまぜにしたポピュリスト(大衆迎合主義者)としかいいようがない人なのである。

■危機感を抱くソロス氏、戦々恐々のマーケット

 マーケットは基本的に何をやるかわからない人を嫌う。先日、リベラル派として知られる投資家のジョージ・ソロス氏は、トランプ氏およびテッド・クルーズ氏の反移民・反イスラムの姿勢を批判し、クリントン氏ら民主党候補へ1300万ドル(約15億円)超の政治献金を行った。ソロス氏の大型献金は11年ぶりのことという。恐らく政治信条だけで献金したわけではなかろう。市場や世界経済への悪影響も心配されているのではないか。

 もしトランプ大統領が実現すればNY株式市場はどうなるか。現状では、下押す公算の方が大きい。基本、不確実性は悪材料である。トランプ氏の中国に対する強硬姿勢やアップルなど個別企業への批判も懸念材料だろう。また極端なドル安政策を打ち出す可能性もある。それは世界経済にどんな波紋を呼び起こすのかわからない。

 要するに市場にとって混乱はノーサンキューなのである。「万が一」の可能性が高まるならば、個人投資家ならばひとまず手仕舞い、がセオリーであろう。

■孤立主義者か?排他主義者か?

 もう一つ、トランプ氏で気になるのはモンロー主義、孤立主義的な側面だ。 

 モンロー主義は、1853年に第5代大統領のジェームズ・モンローがアメリカとヨーロッパの相互不干渉の原則を表明するとともに、「ラテンアメリカ諸国へのいかなる干渉も、合衆国に対する非友好的態度とみなす」と述べたことが端緒である。折しも西部開拓の時代の話だ。

 この原案を起草したのは国務長官のジョン・クィンシー・アダムズである。新大陸アメリカはもはやヨーロッパの植民の対象にはならない、ヨーロッパの戦争には不干渉で中立を保つとともに「アメリカは合衆国のもの」と強くヨーロッパを牽制する内容である。

 モンロー主義はその後アメリカ合衆国の基本的外交原理となったが、20世紀には拡大解釈され、合衆国のみが新大陸諸国に干渉することを正当化するものとして利用された。

 だがルーズベルト政権下で次第に国際問題に介入するようになって、モンロー主義の時代は終えん。第二次大戦後、覇権主義に舵を切ったアメリカは世界の警察官を標榜するようになった。なお近年にはアメリカが外国の問題に深入りすることを批判する新孤立主義という言葉も唱えられるようになっている。

 トランプの考えはモンロー主義的なものか、単なる排他主義なのかはまだわからない。運命の11月本選まであと8ヶ月。得体の知れないモンスターとにらみ合う日々はかなり長い。

(作家=吉田龍司、『毛利元就』(新紀元社)、『信長のM&A、黒田官兵衛のビッグデータ』(宝島社)など著書多数)

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