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【小倉正男の経済羅針盤】中国バブル崩壊、日本に必要なのは自戒
- 2016/4/1 09:55
- 小倉正男の経済コラム
■「ゾンビ企業を根絶する」とおっしゃるが・・・
通りゃんせ~通りゃんせ~。そうか、通ってよいのか、と。しかし、行きはよいよい、帰りは恐い――。何事もそうだが、進むはよいのだが、退くのは大変である。
習近平、李克強など中国首脳が、「ゾンビ企業を根絶する」と演説したり、表明したりしている。
中国のバブル崩壊は、にっちもさっちもいかない状態になっている。
ゾンビ企業をつくるのは、売り上げ・収益を上げ、雇用やGDPを上げるのだから、みんなが歓迎してくれる。
だが、ゾンビ企業を「根絶する」「退治する」となると、赤字を表面化させ、雇用を減らし、借金は焦げ付くことになる。これは大変なことになる。
銀行は取り付け騒ぎに見舞われかねない――。近代・現代の恐慌は、最終的に銀行にパニックが及ぶことになっている。金融不安となり、社会不安を呼ぶ・・・。
これは市場経済にしても、社会主義市場経済でも、最終的には同じである。
■日本もバブル崩壊では偉そうなことは言えない
岡目八目とはよく言ったもので、他国のことは見えるし、気鬱ではなく語れたりするものである。
しかし、それはともかく、日本にしても「ゾンビ企業を根絶する」では、そう偉そうにいえる立場にはない。
あの不動産バブル崩壊後の1990年代後半~2000年代など、日本もまったく同じことだった。
多くの有力・有名企業が不動産、株式で巨額の損失を抱えながら隠し通していた。経営トップなどが責任を取りたくないから、損失の表面化を避けて問題を先送り・・・。借入金だけが膨らんでいった。
銀行も、融資先の有力・有名企業が倒産したら自らの不良債権が表面化し、銀行損益も急悪化が避けられないから、融資を継続した。
有力・有名企業も銀行もともども「ゾンビ企業」化した。
そのうち銀行が倒産の淵を彷徨い始めて、今度は貸し渋り、貸し剥がしに転じた。そして、銀行への公金注入・・・。バブルの元凶とまでいわれた某都市銀行まで生き残る結果となった。「平成の焼け太り」というとんでもない皮肉をもたらした。
■バブル崩壊で見たくもないものを見た
バブル崩壊では、経営トップ層の「醜悪さ」を目にすることになった。自分の代では、損失を隠して、損失処理は次の代に先送り・・・。報酬も慰労金も手にして、知らん顔である。
経営者としての責任はまったく取らず、チェック&バランスのない日本型経営の酷さが露呈した。
経営トップ層は、当時はガバナンスもコンプライアンスもほとんど希薄だった。
「失われた20年」「失われた30年」とはまったくその通りで、社員たちのほうは、定昇を含めて賃上げなどはまったくなくなった。それどころか、リストラに遭遇することになった。
企業年金なども大きくカットされることになった。ところが、カットするほうの経営トップ層は、自分の「労働債権」は満額確保でカットせず、社員のほうだけ大幅カットするようなやり方をする者もいた。
そんな経営トップ層が、いまでものうのうと威張っているというケースもあるのだから、呆れるしかない。
■日本に必要なのは何よりも厳しい自戒
中国のバブル崩壊でも、見たくもない事態を見ることになる可能性が強い。習近平、李克強にしても「ゾンビ企業を根絶する」「ゾンビ企業を退治する」としているが、そう簡単ではない。
社会主義市場経済の「社会主義」とは、バブルに対して鎮痛・延命作用を及ぼすから、バブルを否応なく巨大化する。しかし、それでも結末は「市場経済」だから、最終的には始末は付けられることになる。中国のバブル崩壊の地獄はいまからである。醜悪なことが露見するに違いない。
おそらく、そうしたことを見るにつけ思い出すのは日本のバブル崩壊時の「醜悪さ」である。経営者、政治家・・・、最悪の事態を迎えた時にその本質が露呈する。
バブル崩壊で、中国の見たくもない事態を見て、「中国は酷い」と見下してもさほど意味はない。むしろ、日本も酷かったと厳しく自戒すべきではないか。
(経済ジャーナリスト 『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(PHP研究所)など著書多数。東洋経済新報社編集局・金融証券部長、企業情報部長,名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事など歴任して現職)