【特集】「電力小売全面自由化」関連銘柄

■電力小売の全面自由化がスタート、東京ガスの一人勝ちの見方も

 2016年4月1日、一般家庭や商店など小規模需要家向けの電力小売自由化がスタートした。約8兆円の市場、既に自由化されている工場やオフィスビルなど大規模・中規模需要家向け小売を含めると、約20兆円の国内電力小売市場が全面的に自由化されたことになる。規模は大きいとはいえ、需要の大きな伸びが期待できない国内電力市場で熾烈な顧客争奪戦が繰り広げられる。

 電力広域的運営推進機構の発表によると、4月1日時点で電力契約先を新規参入の電力小売事業者に切り替えた世帯は約53万件となった。全国総契約数(約6260万件)の約0.9%にとどまり、切り替えの9割弱が首都圏と関西圏に集中しているようだ。ただし3月25日時点と比べると合計切り替え件数は1週間で約15万件増加した。

 そして東京ガス<9531>が約24万件、大阪ガス<9532>が約11万件、JXエネルギー<JXホールディングス5020>が約10万件など、切り替え件数で見れば、都市ガスと電気のセット割引やガソリンと電気のセット割引、さらに自前の発電設備と既存の営業網を有効活用できる大手都市ガスや石油元売りが圧倒的にリードしている。消費者の理解が進み、電力契約先を切り替える動きが今後本格化すると予想される中で、早くも東京ガスの一人勝ちとの見方も出始めている。

■電力自由化の流れ(発電・送配電・小売の分離と自由化)

 電力というのは発電所~送電線~変電所~配電線の経路をたどって、工場・オフィスビル・商業施設・一般家庭・小規模店舗などの消費者に供給されている。電力小売全面自由化後も、この物理的な電力供給の仕組みに原則変更はない。

 電力供給システムを大別すると、発電部門(水力・火力・原子力・太陽光・風力・地熱などの発電所を運営して電気をつくる部門)、送配電部門(発電所から消費者まで繋がる送電線・変電所・配電線などの送配電ネットワークを管理して、物理的に電気を消費者に届ける部門)、小売部門(消費者に対して料金メニュー設定や契約・検針・集金手続などのサービスを提供し、電気を販売する部門)に分類される。

 このうち発電部門の自由化は、1995年に独立系発電事業者(IPP)の参入が認められ、自前の大型発電設備を備えた石油・ガスなどエネルギー関連企業や鉄鋼など大手製造業が、電力会社に卸電力を供給する電力卸売事業者として市場参入した。また発電した電気を市場で売る制度も整えられ、一般社団法人日本卸電力取引所(JEPX、2003年11月設立、取引会員2016年4月1日現在144社)においてスポット電力が取引されている。

 電力小売の自由化は1995年に特定の供給地点における電力小売事業が制度化され、2000年以降に電気事業法改正で自由化の範囲が段階的に拡大されてきた。最初は2000年3月、特別高圧区分(2000kW以上)の大規模需要家(大規模工場・デパート・ホテル・オフィスビルなど)が電力会社を自由に選択し、新規参入した「新電力」から電力を購入することが可能になった。2004年4月には高圧区分のうち500kW以上、2005年4月には高圧区分のうち50kW以上と、電力小売自由化の範囲が中規模需要家(中規模工場・スーパーマーケット・中小ビルなど)にも拡大された。

 そして一般家庭や小規模店舗向けを含めた電力小売を全面自由化する改正電気事業法が2014年6月成立し、2016年4月から低圧区分(50kW未満)の小規模需要家(一般家庭・商店・コンビニエンスストアなど)にも小売自由化の範囲が拡大された。これが電力小売全面自由化の流れである

 なお送配電部門については自由化が見送られている。電気というエネルギーの特性上、需要(消費)と供給(発電)は送配電ネットワーク全体で一致させないと、ネットワーク全体の電力供給が不安定な状態になる。送配電部門は送配電ネットワーク全体で電力のバランスを調整し、停電を防いで電気の安定供給を担う要となる部門のため、電力小売全面自由化後も引き続き政府が許可した企業(各地域の電力会社)が担当する。

 ただし電力会社の事業として運営されると自社に有利な事業展開となる可能性があるため、15年6月成立の改正電気事業法では、20年に電力会社の送配電ネットワーク部門を分離して第三者機関が送配電事業を運営するという、いわゆる「発送電分離」が盛り込まれた。

 この流れに備えて東京電力は、2016年4月1日付で持株会社の東京電力ホールディングス<9501>に移行し、傘下に燃料・火力発電事業会社の東京電力カフュエル&パワー、一般送配電事業会社の東京電力パワグリード、小売電気事業会社の東京電力エナジーパートナーの3社を置く体制となった。

■競争原理の導入で電気料金の低下や多彩な新サービスを期待

 電力小売の全面自由化は発電・送配電・小売を分離して競争を促進する流れの一部である。その狙いは小売事業への参入者が増えることで、各社がサービスを競い合う競争原理を導入し、電気とガス,電気とガソリン、電気と携帯電話、電気とCATVといった組み合わせによるセット割引、あるいはポイント付与サービスなど、さまざまな料金・サービスメニューを通じて、電気料金の低下や多彩な新サービスの創出に繋げることにある。

 2016年4月以降は、一般家庭を含む全ての消費者が各々のニーズに合わせて、電気購入先を従来の各地域の電力会社だけではなく、新規参入した小売事業者を含めて多彩な料金・サービスメニューの中から自由に選択できる。もちろん特段の手続をしなかった場合でも、競争が十分に進展するまでの間(少なくとも2020年3月まで)は、現在契約している各地域の電力会社から、今までどおり政府の規制を受けた一般的な料金メニューで電気が供給される。

 消費者が契約した新規参入小売事業者が必要とする電力量を調達できなかった場合でも、送配電部門事業者(各地域の電力会社)が補って消費者に安定的に電力が届くように調整する。どの小売事業者から電気を購入しても、それぞれの専用送配電線を新たに敷設するわけではなく、従来と同じ送配電ネットワークを通して電気が供給される。小売事業者によって料金・サービスメニューに違いはあるが、同じ送配電ネットワークを通る電気に事業者別の色や番号が付いているわけではなく、電気の品質や信頼性(停電の可能性など)は従来と変わらない。

■さまざまな業種から参入だが淘汰の可能性

 経済産業省資源エネルギー庁によると2016年4月7日現在、合計279事業者が小売電気事業者として登録されている。

 各地域の電力会社以外に、石油・ガス・燃料・再生可能エネルギー関連企業、移動体通信・CATV関連企業、商社、電鉄、住宅・鉄鋼・製紙・機械・電機メーカーなど、さまざまな業種から、本業とのシナジー効果や新たな収益源の創出を目指して電力小売事業に新規参入している。各地域の電力会社も多彩な料金メニューを設定するだけでなく、既存の営業エリア以外への越境販売を開始する。

 新規参入した電力小売事業者「新電力」の多くは、既存事業における顧客囲い込みも狙った戦略と考えられるが、単に電気を仕入れて販売するだけでは利幅の小さい価格競争に陥りかねない。また一般家庭や小規模店舗の契約獲得競争には多額の広告宣伝費や営業費も必要となる。

 電気と都市ガス、電気とガソリン、電気と携帯電話、電気とCATVといったセット割引、あるいはポイント付与サービスなど、お得感のある料金・サービスメニューを提供し、自前の発電設備や既存の営業網を有効活用できる企業は限られている。時間の経過とともに淘汰が進む可能性が高いだろう。

■電力小売自由化は東京ガス一人勝ちの見方も

 また2016年4月1日時点で電力契約先を新規参入の電力小売事業者に切り替えた世帯は約53万件だが、東京ガス<9531>が約24万件、大阪ガス<9532>が約11万件、JXエネルギー<JXホールディングス5020>が約10万件、東急パワーサプライ<東京急行電鉄9005>が約3万件となったようだ。

 切り替え件数で見れば、都市ガスと電気のセット割引、ガソリンと電気のセット割引、さらに自前の発電設備と既存の営業網を有効活用できる大手都市ガスや石油元売りが圧倒的にリードしている。そして一般消費者の理解が進み、電力契約先を切り替える動きが今後本格化すると予想される中で、早くも東京ガスの一人勝ちとの見方も出始めている。

 なお2015年6月には改正ガス事業法も成立し、2017年にガス小売を全面自由化することや、2022年に東京ガス、大阪ガス、東邦ガスの大手ガス3社に導管部門の別会社化を義務付けることが盛り込まれている。首都圏、関西圏、中部圏を中心に、電力会社とガス会社の顧客争奪・囲い込み競争が一段と激化しそうだ。

 その他ではスマートメーター関連、スマートメーター設置業務関連なども注目される。

関連銘柄

ミサワホーム<1722>、長谷工コーポレーション<1808>、大和ハウス工業<1925>、エプコ<2311>、エスプール<2471>、ローソン<2651>、日本アジアグループ<3751>、王子ホールディングス<3861>、日本製紙<3863>、サニックス<4651>、昭和シェル石油<5002>、東燃ゼネラル石油<5012>、出光興産<5019>、JXホールディングス<5020>、新日鐵住金<5401>、タクマ<6013>、荏原製作所<6361>、東光高岳<6617>、大崎電気工業<6644>、パナソニック<6752>、日立造船<7004>、川崎重工業<7012>、伊藤忠商事<8001>、丸紅<8002>、三井物産<8031>、三菱商事<8058>、岩谷産業<8088>、ミツウロコグループホールディングス<8131>、シナネン<8132>、伊藤忠エネクス<8133>、日本瓦斯<8174>、オリックス<8591>、東京急行電鉄<9005>、U-NEXT<9418>、NTT<9432>、KDDI<9433>、NTTドコモ<9437>、東京電力<9501>、中部電力<9502>、関西電力<9503>、中国電力<9504>、北陸電力<9505>、東北電力<9506>、四国電力<9507>、九州電力<9508>、北海道電力<9509>、沖縄電力<9511>、イーレックス<9517>、東京ガス<9531>、大阪ガス<9532>、東邦ガス<9533>、西部ガス<9536>、静岡ガス<9543>、北海道ガス<9534>、京葉瓦斯<9539>、エイチ・アイ・エス<9603>、ソフトバンクグループ<9984>など

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