業績相場と逆業績相場が混在のなか白物家電関連の家電量販店株に「Buy in May」も一考余地=浅妻昭治

編集長の視点

<マーケットセンサー>

 またぞろ米国の相場格言「Sell in May,and go away(5月に売り逃げろ)」が気になってきた。トヨタ自動車<7203>(東1)の豊田章男社長が、決算発表で「潮目が変わった」と発言した通りに為替相場が一時、1ドル=105円台まで円高・ドル安になったばかりではない。ひとり勝ちのはずの米国市場でも、アップルの決算悪に加えて、小売企業の業績の下ぶれが続き、先行きの雲行きが怪しくなってきたからだ。いうならば、太平洋を挟んで日米両市場の「アップル・ショック」と「トヨタ・ショック」の合わせ技への懸念が強まってきたというところである。

 今年は、「Sell in May」の相場格言はそう話題にならなかった。強気相場が続いたからではない。逆にすでに4月相場で急激な円高と2度にわたる株価の急落があって、売り逃げるべき市場参加者はほとんどが買いポジションを手仕舞っていたからと推定される。いわば前倒の大幅調整、ボタンの掛け違いの根因はすべて大型連休前の4月27日、28日に開催された日銀の金融政策決定会合にある。追加金融緩和策の決定が、グローバルな市場コンセンサスとなっていたのが、「ゼロ回答」となって暗転してしまった。基本シナリオでは、追加緩和策決定で円安・ドル高が鮮明化し、折からの3月期決算会社の業績発表と呼応して業績相場が発進するはずだったのである。

 「ゼロ回答」のお陰で、4月27日に3月期決算を発表したアルプス電気<6770>(東1)の今期想定レートは1ドル=110円、1ユーロ=125円、対して5月12日に決算を開示したトヨタの今期想定レートは、同じく105円、120円と短期間にこれだけ円高・ドル安に振れ、トヨタの前期の過去最高業績から今期の営業利益が40%減と減益転換が予想される要因となった。前週末に決算発表のピークを通過して、これから個別銘柄ごとの業績精査が本格化する週明け以降に、この業績相場シナリオが、再度の円高・ドル安も重なって逆業績相場シナリオに激変しないことを祈るばかりである。

 ただ救いは、「トヨタ・ショック」が、業績面でのインパクトが大きく新聞の大見出しになった反面、株価的には瞬間風速的に危惧されたほどのショック安にはならなかったことである。足元の為替相場が、今期の想定為替レートより円安水準にあり、決算と同時に5000億円の自己株式取得も発表したことなども下支え要因となったようだが、それ以上にマーケットの一部に業績相場的な要素が混在しており、好決算を発表した銘柄の下値に実需筋の買い物が続いていることが働いていたと推定される。現に、トヨタと同時に決算を発表した銘柄では、寿スピリッツ<2222>(東1)、リロ・ホールディング<8876>(東1)、スクウエア・エニックス・ホールディングス<9684>(東1)などが、揃って年初来高値を更新した。こうした銘柄の持続性がどの程度あるかこれから見極めなくてはならないが、少なくとも3銘柄に共通しているディフェンシブ株特性は、仮に「Sell in May」が現実となったとしても、独自人気をキープする可能性も示唆してくれる。

 そこでディフェンシブ関連の隠れた好業績として注目したいのが、家電量販店株である。この家電量販店株は、今期業績が続伸予想と回復色を強めているものの地味で目立たず、株価は、前記の年初来高値更新の3銘柄と異なり年初来安値水準で低迷している銘柄が多いのである。ということは、低PER・PBR評価に甘んじ、配当利回りも市場平均を上回る2%超となる銘柄の少なくない。

 家電量販店株の業績続伸要因は、白物家電の人気復活である。省エネルギー・高機能の新製品が次々に投入され、冷蔵庫、洗濯機、レンジ・調理家電、理美容家電などの買い替え需要が拡大しており、来年4月の消費税増税が見送りとなった場合は、駆け込み需要の不発となってマイナスと作用する懸念はあるものの、日本電機工業会の今2016年度生産見通しでも4年連続の増加と予想され、これに家電量販店業界の不採算店舗閉鎖などの構造改革が相乗効果を発揮しているのである。家電量販店の店頭の賑わい、株価の活況は、2009年5月からスタートした家電エコポイント制度以来である。このときは買い替え需要の80%強をテレビが占め、エアコン、冷蔵庫などは少数にととどまっており、今回はそれだけエアコン、冷蔵庫、洗濯機などの潜在買い替え需要の大きさにつながってくるとも推定される。「Sell in May」とは真逆に家電量販店株には「Buy in May(5月に買い向かえ)」の一考余地も生じてくることになる。

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