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【小倉正男の経済羅針盤】『炉心溶融』隠ぺいというコンプライアンス違反
- 2016/6/22 10:03
- 小倉正男の経済コラム
■「炉心溶融」を伝えたのは地元の地方紙
「炉心溶融」、これをひた隠しに隠した東電の罪は深すぎる――。情報を出さずに隠ぺいして人々の命を危険にさらした。日本人のほとんど半分ぐらいが、生死を分ける危機にあった。
もちろん、「トモダチ作戦」に従事したアメリカ空母も危険にさらされたのは想像できるところである。
原発事故の当時、東京の大手新聞も「炉心溶融」という記事は書かなかった。今頃になって、東電や民主党(当時)の批判をしているが、厳しく広げて言えば、これも同罪に近いのではないか。少し厳しすぎるかもしれないが、記者クラブでお国の情報を流しているクセが付きすぎているのではないか。
あの当時、「炉心溶融」をいち早く活字にしたのは、「福島民友」とか「福島民報」といった地元の地方紙である。私は、あのとき、福島民友をネットで読んで、ゾッとしたことを覚えている。これは東京など首都圏も危ないかもしれない、鹿児島あたりに避難する必要があるのではないか、と。
■「情報なし」=国民よ、東電の株主よ、それでよいのか
当時の民主党政権も褒められたものではなかった。「直ちには――」とか、安全・安心を強調した。動揺は避けられたが、事実・現実を十分に国民に伝えていたといえるだろうか。
あの時、私や私の家族は首都圏に残ったが、最悪の場合はどうなっていただろうか。最悪のケースを想定した現実・事実を情報として知らされなければ、人間は生き残ることができない。
株でいえば、東電の株主もゾッとしたはずである。ここでも情報は何もなかった。
東電株というのは、お金持ちの老人たちが大量に所有している傾向があった。業績が安定していて高配当、潰れる心配がなく利回りが高い――。当然ながら値がさ株だったが、いまは低位株でしかない。
株主にも情報は出されず、現実を知らされなかった。値がさ株はほとんど紙屑のような価値に下がった。株主たちよ、お金持ちだからといって諦めることはない。もっと怒ってよいのではないか。
■最大級のコンプライアンス違反=「炉心溶融」隠ぺい
コンプライアンスにも大小というか、程度の問題がある。
だが、東電の「炉心溶融」隠ぺいは、株主のみならず、日本人あるいは日本に住んでいる人々に対して最大級のコンプライアンス違反行為だったのではないか。
舛添要一氏の問題でも、不適切だが適法、適切とはいえないが法には触れない、といった事態があった。
「炉心溶融」隠ぺいも、不適切だが法には触れないという類のコンプライアンスなのだろうか・・・。
これをコンプライアンスに反するものとして問題にできないとすれば、日本のコンプライアンスとは「飾り」のようなものでしかないということになる。
(経済ジャーナリスト 『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(PHP研究所)など著書多数。東洋経済新報社編集局・金融証券部長、企業情報部長,名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事など歴任して現職)