一蔵は調整一巡して戻り試す、17年3月期増収増益予想で指標面に割安感

 一蔵<6186>(東2)は和装事業とウエディング事業を展開している。呉服市場では振袖など着物をファッションとして見直す動きが強まり、17年3月期は京都きもの学院の新規連結も寄与して増収増益予想である。株価は6月安値から切り返している。指標面の割安感も見直して戻りを試す展開だろう。

■和装事業とウエディング事業を展開

 和装事業(呉服の販売、振袖等の販売・レンタル、成人式の前撮り写真撮影、成人式当日の着付け・メイクサービス、着物の着方教室運営)、およびウエディング事業(結婚式場運営)を展開している。

 16年3月期の売上高構成比は和装事業65.1%(うち販売33.3%、レンタル9.5%、写真13.7%、加工7.9%、その他0.7%)、ウエディング事業34.9%である。16年3月期末の店舗数は和装事業64店舗、ウエディング事業3ヶ所である。なお和装事業は成人式用振袖の需要に季節要因があるため収益は下期に偏重する傾向がある。またウエディング事業は挙式・披露宴が春(3~5月)と秋(9~11月)に多く行われる傾向がある。

■和装事業はJTS事業本部とオンディーヌ事業本部の2チャネル

 和装事業は、JTS(Japanese Tradional Style)事業本部とオンディーヌ事業本部の2チャネルで、全国主要都市のオフィスビルやショッピングセンターなどに出店し、小売店舗、フォトスタジオ、着物の着方教室、それらを併設した店舗形態で運営している。16年3月期末店舗数はJTS事業本部32店舗(うち取扱代理店2店舗)、オンディーヌ事業本部32店舗(うち取扱代理店9店舗)である。

 JTS事業本部では主に古典柄系やブランド物の呉服、振袖等、着物全般を取り扱い、集客はダイレクトメール送付や「SAKURA学園」(17~20歳の女性を対象に、ヘアメイクやファッション情報、イベント、ミスコン等に参加できるWeb上のコミュニティ)会員への案内を主としている。

 販売チャネルは、直営店の一蔵(着物・関連商品販売、振袖レンタル、フォトスタジオでの撮影・着付け・メイク、着物ショールーム運営)、いち瑠(着物の着方教室)、銀座いち利(東京・銀座と大阪・心斎橋で産地直送着物販売)、ラブリス(首都圏ファッションビル中心の出店でアパレルブランドや有名モデルとタイアップした振袖専門店、16年6月アムールから名称変更)、取扱代理店、ECサイトいち利モール、および催事である。

 オンディーヌ事業本部では主に可憐系の振袖を取り扱い、集客は電話販促や「学祭・サークル応援NAVI」(大学等の学園祭や大学生等が組織するサークルを紹介するサイト)会員への案内を主としている。販売チャネルは直営店のオンディーヌ(振袖販売・レンタル、卒業式用袴等レンタル、フォトスタジオでの写真撮影・着付け・メイク)、取扱代理店、および特約店(美容室や写真館など特約店契約により、振袖フェア期間中に限定して当社製品を臨時で販売する店舗)である。

■和装事業は低価格やワンストップサービスなどが強み

 和装事業は、多種多様な約4万点の着物在庫、生産者からの直接買い取りによって実現した低価格、顧客ニーズを反映した商品およびワンストップサービス(自社所有フォトスタジオでの成人式の前撮り写真撮影、成人式当日の着付け・メイクサービス)、着物の着方教室の運営、悉皆(着物の丸洗い、シミ抜き、刺繍直し、仕立直しなど着物にまつわるお手入れ全般)サービス、新規顧客獲得からリピート需要に繋げるマーケティング力などを強みとしている。

 着物の着方教室では、着物の着方を教えるだけでなく、着物を着て名所に出掛けるなどのイベント開催を通じて着物を着る機会を提供し、着物ファンの拡大に努めている。着物の着方教室では年間参加者が6000名を超えている。

■呉服市場は着物をファッションとして見直す動き

 呉服市場(レンタル除く)は概ね2800億円~3000億円規模(矢野経済研究所推計)で推移している。産地工房の職人など作り手の高齢化、消費者のライフサイクルの変化などで縮小傾向が続いていたが、昨今は振袖を中心としたレンタル需要や着方教室をきっかけに、呉服販売が盛んになりつつある。

 以前は資産として高価な着物を所有し、特別な機会にのみ着用することが多い傾向にあったが、昨今ではファッションとして着て楽しむ消費者が増加(所有から使用への変化)する兆しがみられる。さらに訪日外国人旅行客が日本旅行のお土産として着物等を購入するなど、外国人による和文化への注目度が高まっている。また経済産業省は国内和装産業の振興を図るため「きものの日」の導入を検討している。

 和装事業の拡大に向けた中期戦略として、店舗網拡大、販売強化、原価低減を掲げている。消費者ニーズに基づく品揃え・サービスの充実、若年層の開拓による需要の掘り起こし、大都市圏中心とする店舗網拡大、低価格を実現するためのSPA(製造小売)モデルへの進化を推進する。呉服市場におけるシェア拡大を目指してM&Aも積極活用する。

 16年5月には京都きもの学院(大阪市)を子会社化した。京都きもの学院は関西地区において88教室(16年3月現在)を展開し、100名を超えるベテラン講師陣による、初心者から着付けのプロを目指す専門課程まで充実したカリキュラムを持ち、長年の和装文化の啓蒙実績と知名度を有する着物着付け教室である。ベテラン講師陣が得られることに加えて、毎年3000名を超える京都きもの学院の受講者向けに、当社商品・サービスを広く提供することが可能となる。

■ウエディング事業は直営結婚式場3ヶ所を運営、本物志向が強み

 ウエディング事業は直営結婚式場で、挙式・披露宴の企画・立案・運営、およびパーティドレス・ウェディングドレスのレンタルなどを行っている。本物感のあるファシリティのゲストハウスを特徴としている。

 運営する結婚式場は18~19世紀の英国風のCamelot Hills(キャメロットヒルズ)(埼玉県さいたま市)、ヨーロピアンクラシックスタイルのGLASTONIA(グラストニア)(愛知県名古屋市)、和魂洋才の建築様式の百花籠(愛知県名古屋市)の3ヶ所である。

 ブライダル関連市場のうち挙式披露宴・披露パーティ分野の市場(矢野経済研究所推計)は概ね1兆4000億円~1兆5000億円規模で推移している。少子化・晩婚化・未婚化などで婚姻組数の減少傾向が続いているが、成長戦略として3式場の収益力(単価×挙式数)向上を目指し、リノベーション、料理の質向上、プロジェクションマッピングなどの新サービス提供、インバウンド需要取り込みなどによる平日稼働率向上、広告戦略の高度化などに取り組んでいる。また滞在型リゾートウエディングとして沖縄での開発を開始し、18年開業を予定している。

■16年3月期は大幅増益、売上総利益率も上昇

 前期(16年3月期)非連結業績は売上高が前々期(15年3月期)比7.2%増の140億07百万円、営業利益が同33.4%増の10億38百万円、経常利益が同36.3%増の10億29百万円、純利益が同19.6%増の6億08百万円だった。

 売上総利益は同9.1%増加し、売上総利益率は62.0%で同1.1ポイント上昇した。内訳は和装事業が62.7%で同0.4ポイント上昇、ウエディング事業が60.8%で同2.2ポイント上昇した。販管費は同6.5%増加したが、販管費比率は54.6%で同0.4ポイント低下した。人件費や広告宣伝費などが増加したが増収効果で吸収した。ROEは16.3%で同6.6ポイント低下、自己資本比率は35.6%で同15.2ポイント上昇した。配当は年間35円(期末一括)で配当性向は24.2%だった。利益配分については安定した配当を継続して実施していくことを基本方針としている。

 セグメント別に見ると、和装事業は売上高が同8.2%増の91億14百万円、営業利益(連結調整前)が同12.3%増の6億18百万円、ウエディング事業は売上高が同5.5%増の48億93百万円、営業利益が同38.4%増の10億83百万円だった。和装事業は催事強化などの成果で振袖販売・加工や成人式前撮り写真撮影が伸長した。ウエディング事業は稼働率上昇や内製化強化などで大幅増益だった。少子化・晩婚化・未婚化などで婚姻組数が減少して競争が激化する中でも、積極的な広告宣伝やプロジェクションマッピングなどの新サービスが奏功した。施行組数は同7.6%増の1463組だった。

■17年3月期大幅増益予想

 今期(17年3月期)は京都きもの学院を子会社化したことに伴い、第2四半期から連結財務諸表を作成する。そして通期の連結業績予想(5月10日公表)は売上高が155億45百万円、営業利益が10億73百万円、経常利益が10億64百万円、純利益が6億75百万円としている。非連結の前期との比較で11.0%増収、3.4%営業増益、3.4%経常増益、11.0%最終増益となる。京都きもの学院とのシナジー効果も寄与して増収増益予想である。

 売上総利益率は同1.0ポイント上昇の63.0%、販管費比率は同1.5ポイント上昇の56.1%を想定している。販管費は京都きもの学院の新規連結のほか、中期成長に向けた人件費やファッションレンタル事業のプロモーション費などが増加する。配当予想は前期と同額の年間35円(期末一括)で予想配当性向は28.4%となる。

 セグメント別の計画は、和装事業の売上高が同15.1%増の104億89百万円、営業利益(連結調整前)が同22.5%増の7億58百万円、ウエディング事業の売上高が同3.3%増の50億55百万円、営業利益が同1.8%増の11億03百万円としている。

 和装事業では積極的な広告宣伝や催事のほか、顧客ニーズにマッチした商品やサービスを提供するためのマーケティングを強化する。また若年層開拓に向けて16年10月からファッションレンタル事業を開始する。ウエディング事業は専門的サービス内製化などで高品質・きめ細かなサービスの提供を推進する。またインバウンド挙式の増加で平日稼働率の向上に取り組む。

■株主優待制度は毎年3月末に実施

 株主優待制度は、毎年3月31日現在の1単元(100株)以上保有株主を対象として16年3月期末から開始した。

 優待内容は次の2点から1点を選択する。和装事業店舗で利用可能な優待券(税込10万円以上の場合1万円割引、10万円未満の場合5000円割引)、ウエディング事業の3つの結婚式場のチャペルコンサート&ディナー1人3000円割引券(1枚で2名まで利用可能)。

■株価は調整一巡して戻り試す

 株価の動きを見ると、地合い悪化が影響した6月24日の上場来安値752円から切り返して戻り歩調の展開だ。7月20日には884円まで上伸した。

 7月20日の終値882円を指標面で見ると、今期予想連結PER(会社予想連結EPS123円39銭で算出)は7~8倍近辺、今期予想配当利回り(会社予想の年間35円で算出)は4.0%近辺、前期実績PBR(前期非連結実績BPS913円02銭で算出)は1.0倍近辺である。時価総額は約48億円である。

 週足チャートで見ると戻りを押さえていた13週移動平均線を突破した。指標面の割安感も見直して戻りを試す展開だろう。(日本インタビュ新聞アナリスト水田雅展)

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