- Home
- アナリスト水田雅展の銘柄分析
- インフォコムは17年3月期第1四半期営業増益で通期も営業増益予想
インフォコムは17年3月期第1四半期営業増益で通期も営業増益予想
- 2016/7/29 08:01
- アナリスト水田雅展の銘柄分析
インフォコム<4348>(JQS)はITサービスや電子書籍配信サービスを主力としてIoT領域の事業創出も積極推進している。17年3月期第1四半期は特別損失計上で最終減益だが、電子書籍配信サービスが牽引して営業増益だった。第4四半期の構成比が高い収益構造であり、通期も営業増益で連続増配予想である。株価は第1四半期業績を受けて急落した。低進捗率や最終減益が嫌気された可能性があるが、過剰反応で急落場面は絶好の投資機会となりそうだ。
■ITサービス事業とネットビジネス事業を展開
帝人<3401>グループで、企業向けITサービス(医療機関・製薬企業向けヘルスケア事業、一般企業向けSIのエンタープライズ事業、ERPソフト「GRANDIT」や緊急連絡・安全確認サービスなどのサービスビジネス事業)、および一般消費者向けネットビジネス(子会社アムタスの電子書籍配信サービス、eコマース、各種デジタルコンテンツの提供)を展開している。
14年9月新規事業の発掘を目的として米国シリコンバレーに連結子会社のコーポレートファンド(総額20億円規模、通称インフォコムファンド)を設立し、16年3月期末時点で投資実績は20社超となっている。
また中期成長に向けてグループ再編や戦略的M&A・アライアンスを積極推進している。13年9月医薬品業界CRM事業強化に向けてミュートスと合弁会社インフォミュートスを設立、14年3月EC事業運営効率化に向けて、アムタスグループ内で食品EC事業を展開するドゥマンを連結子会社化、連結子会社イー・ビー・エスのアパレルEC事業をドゥマンに統合した。
なお16年3月期のセグメント別売上高構成比はITサービス59%、ネットビジネス41%、営業利益構成比(連結調整前)はITサービス56%、ネットビジネス44%だった。
■中期経営計画でGRANDIT、ヘルスケア、電子書籍配信を重点3事業
中期経営計画では、完全Web-ERPソフト「GRANDIT」のサービスビジネス事業、医療機関・製薬企業向けヘルスケア事業、電子書籍配信サービスなどのネットビジネス事業を重点3分野と位置付け、経営目標数値には17年3月期売上高550億円、営業利益50億円、21年3月期売上高1000億円、営業利益100億円を掲げている。
■GRANDITはクラウド対応、ヘルスケアは地域包括ケア対応を強化
ITサービスでは、完全Web-ERPソフト「GRANDIT」(コンソーシアム方式により、業界を代表するSI企業のノウハウを集大成したWeb-ERP)の導入企業数850社超、3800サイト超で、緊急連絡・安全確認サービス「エマージェンシーコール」は導入企業数800社超、登録従業員数200万人超の規模に達している。15年9月には企業・団体向けに特化したMVNO(仮想移動体サービス事業者)サービスを開始した。
サービスビジネス事業では中期成長に向けて完全Web-ERPソフト「GRANDIT」のクラウド対応を強化している。なお「GRANDIT」の開発・販売を推進するGRANDITコンソーシアム(03年10月設立)は、16年4月時点でプライムパートナー14社、ビジネスパートナーを加えると57社で構成され、16年5月にはパシフィックシステムがビジネスパートナーとして加盟した。16年6月にはグループ経営管理機能を強化した「GRANDIT」新バージョンを投入した。
ヘルスケア事業では帝人との連携も強化しながら、厚生労働省「地域包括ケア」に対応した医療ITからヘルスケアサービスへの展開を強化している。
15年3月ヘルスケア事業の一環としてアスリート支援サービス「ATHLETE STORIES(アスリートストーリーズ)」を開始、15年8月トレーナー向けアプリも提供開始した。15年11月医療事務受託の国内大手で介護サービス事業も展開しているソラスト社(旧日本医療事務センター)とヘルスケア事業分野において業務・資本提携、リゾートソリューション<5261>とのメンタルヘルスケア事業で協業開始した。
7月7日には災害・救急自動車映像伝送システム「V-FAST」が、北海道千歳市消防本部の救急医療システムとして、また京都府災害拠点病院の指定を受けている洛和会音羽病院の救急医療システムとして採用されたと発表している。
■ネットビジネスは主力の電子書籍配信「めちゃコミック」が伸長
ネットビジネスの電子書籍配信サービスでは、06年11月開始のスマートフォン・フィーチャーフォン向け電子書籍配信サービス「めちゃコミック」が国内トップクラスの地位を強固にしている。16年5月の月間サイト来訪ユニークユーザー数は約800万人に達し、16年4~6月期の売上高は40億円を突破して過去最高となった。13年11月開始のマルチデバイス対応電子書籍配信サービス「ekubostore(エクボストア)」も拡大基調である。
電子書籍配信サービスの分野では、コンテンツ拡充と海外展開による事業拡大を推進する。14年10月シフトワンと共同で次世代電子コミック「モーションコミック」を開始した。15年2月アムタスが、中国でコミック関連事業を展開している厦門優莱柏網絡科技有限公司(ユーラボ社)、および恋愛・乙女系アプリ配信を展開しているKOYONPLETE(コヨンプリート社)(東京都)と業務提携した。コヨンプリート社に関しては第三者割当増資も引き受けた。
15年9月中国およびアジア地域でのアニメ・マンガ版権の保護や産業の良質な発展の促進を目的として、アムタス、少年画報社(東京都)、業務提携先の中国・ユーラボ社、および中国通信事業者のアニメ・マンガ関連部門、中国政府機関などと共同で、アジア版権保護連盟を設立した。
中国政府機関も参画することで版権侵害行為の取り締まりから法的手続きまで行うことができ、出版・版権元および運用企業の利益と権利を守ることが可能になる。中国アニメ・マンガ市場における版権保護と市場育成を進め、将来的には加盟企業・団体を増やすとともに、対象地域を拡大する予定としている。
ソーシャルゲームについては15年4月に自社タイトルの開発・配信を終了し、国内外の人気ミニゲームの流通に特化している。
7月5日には食品通信販売サイト「オーガニックサイバーストア」を運営するドゥマンが、法人向け手土産ECサイト「カシクル」のサービス開始を発表した。
■IoT領域の事業創出を積極推進
IoT領域の事業創出も積極推進する。15年12月米EverySense社(14年7月IoTおよびM2M領域における共同開発を目的として当社、光電製作所、コーデンテクノインフォの3社共同で設立)が世界初のIoTデータ交換取引所を日本に開設した。また米Afero社と事業提携した。16年3月IoTで漁業支援を行う共同研究開発プロジェクトのスタートを発表した。
16年4月には、一般社団法人インターネット協会のIoT推進委員会IoT実証実験ワーキンググループが推進するIoTソリューションの有効性実証実験に参画し、当社を含む7社でオフィス内環境モニタリング実証実験をスタートした。
7月11日には米EverySense社が、IoTを通じて取得した測定データを提供する「情報仲介システム」の中核的な仕組みに関する日本国内の特許を取得したと発表している。
■ITサービス事業は第4四半期の構成比が高い収益構造
四半期別推移を見ると、15年3月期は売上高が第1四半期81億99百万円、第2四半期104億98百万円、第3四半期94億11百万円、第4四半期122億01百万円、営業利益は2億26百万円の赤字、8億16百万円、3億99百万円、26億17百万円だった。16年3月期は売上高が86億88百万円、100億47百万円、90億39百万円、125億42百万円、営業利益が1億54百万円、10億49百万円、8億78百万円、23億46百万円だった。
ITサービス事業は年度末の第4四半期の構成比が高い収益構造である。16年3月期は営業利益と経常利益が上場来最高を更新した。売上高は米国子会社譲渡、ゲーム子会社清算、eコマース子会社アパレル系事業譲渡などで15年3月期比横ばいだったが、GRANDIT事業の堅調推移、売上構成変化による収益性改善、ヘルスケア事業の業績回復、電子書籍配信サービス事業の好調、ソーシャルゲーム事業の自社開発終了などの効果が寄与した。
売上総利益は同1.5%増加し、売上総利益率は45.4%で同0.7ポイント上昇した。販管費は同3.9%減少し、販管費比率は34.4%で同1.4ポイント低下した。特別損失では事業構造改革の一環として新横浜データセンター(DC)によるサービス提供を終了(17年6月末目途)することに伴って、事業再編損25億45百万円を計上した。ROEは3.5%で同7.4ポイント低下、自己資本比率は66.5%で同6.5ポイント低下した。配当は同3円50銭増配の年間22円(期末一括)で配当性向は82.6%だった。
セグメント別に見ると、ITサービスは売上高が同4.9%減の237億37百万円、営業利益が同3.0%増の24億71百万円だった。ネットビジネスは売上高が同8.1%増の165億79百万円、営業利益が同62.0%増の19億56百万円だった。なお電子書籍配信サービスの売上高は150億円を突破した。
■17年3月期第1四半期は営業増益
7月26日発表した今期(17年3月期)第1四半期(4~6月)の連結業績は売上高が前年同期比2.5%増の89億06百万円、営業利益が同5.1%増の1億61百万円、経常利益が同3.7%減の1億66百万円、純利益が同35.8%減の55百万円だった。ITサービスの下期偏重が強まったため全体として小幅な伸びにとどまったが、電子書籍配信サービスの大幅伸長が牽引して増収営業増益だった。
売上総利益は同4.6%増加し、売上総利益率は44.1%で同0.9ポイント上昇した。販管費は同4.5%増加し、販管費比率は42.3%で同0.8ポイント上昇した。営業外では為替差損益が悪化(前期は差益5百万円、今期は差損17百万円)した。また特別損失で子会社株式売却損2億73百万円を計上したため最終減益だった。
セグメント別に見ると、ITサービスは売上高が同5.5%減の43億31百万円、営業利益が3億36百万円の赤字(前年同期は1億80百万円の赤字)だった。ヘルスケアおよび企業向けパッケージ製品の下期偏重が強まり、地域包括ケアおよびIoT関連への先行投資負担も影響した。ネットビジネスは売上高が同11.5%増の45億74百万円、営業利益が同49.2%増の4億98百万円だった。電子書籍配信サービスの売上高は41.6億円で同16.6%増加した。
■17年3月期2桁営業増益・大幅最終増益・増配予想
今期(17年3月期)通期の連結業績予想は前回予想(4月28日公表)を据え置いて、売上高が前期(16年3月期)比11.6%増の450億円、営業利益が同12.9%増の50億円、経常利益が同9.7%増の50億円、純利益が同4.1倍の30億円としている。配当予想は中間配当を実施し、同3円増配の年間25円(第2四半期末10円、期末15円)としている。予想配当性向は22.8%となる。
セグメント別には、ITサービスの売上高が同5.4%増の250億円で営業利益が同5.3%増の26億円、ネットビジネスの売上高が同20.7%増の200億円で営業利益が同23.1%増の24億円の計画としている。ITサービスではヘルスケアおよび企業向けSI・パッケージ販売が好調に推移し、新事業に係る先行投資などを吸収する。ネットビジネスでは電子書籍配信サービスが一段と拡大する。電子書籍配信サービスの売上高は180億円を目指す。
なお通期会社予想に対する第1四半期の進捗率は売上高が19.8%、営業利益が3.2%、経常利益が3.3%、純利益が1.8%と低水準の形だが、ITサービスの第4四半期の構成比が高い収益構造のためネガティブ要因とはならない。
また新横浜DCによるサービス提供終了によって、運用コスト低減や、固定資産である建物・設備劣化に対する改修・新規投資の抑制など、データセンターのコモデティ化による売上減少回避なども含めて、10年間で約40億円の費用削減効果が得られる見込みとしている。
Web-ERPソフト「GRANDIT」のサービスビジネス事業、医療機関・製薬企業向けヘルスケア事業、ネットビジネス事業の重点3分野の成長が加速し、IoT領域の事業創出も寄与して収益拡大基調が期待される。
■株主優待制度は毎年9月末に実施
株主優待制度については毎年9月30日現在で1単元(100株)以上保有株主を対象として、連結子会社ドゥマンが運営する食品通信販売サイト「オーガニックサイバーストア」で利用可能なポイント(1ポイントを1円として利用)を保有株数と保有年数に応じて贈呈する。たとえば保有株数1000株以上で保有年数3年以上の場合は6000ポイントを贈呈する。
■株価は急落したが過剰反応
株価の動きを見ると、第1四半期業績を受けて急落し、7月28日には1350円まで調整した。低進捗率や最終減益が嫌気された可能性があるが過剰反応だろう。
7月28日の終値1360円を指標面で見ると、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS109円73銭で算出)は12~13倍近辺、今期予想配当利回り(会社予想の年間25円で算出)は1.8%近辺、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS769円42銭で算出)は1.8倍近辺である。なお時価総額は約392億円である。
週足チャートで見ると26週移動平均線が戻りを押さえる形だが、52週移動平均線がサポートラインとなりそうだ。急落場面は絶好の投資機会となりそうだ。(日本インタビュ新聞アナリスト水田雅展)