「御用金相場」の「御用聞き投資」では日銀のETF買入れ額倍増を見直してTOPIX型関連株に出番倍増=浅妻昭治
- 2016/8/15 09:05
- 編集長の視点
<マーケットセンサー>
「官製相場」、「御用金相場」などの不協和音が、市場からブツブツと聞こえてくるが、相場そのものは甚だ分かりやすい。日本銀行が、上場投資信託(ETF)の買入れ額を年間6兆円に倍増してくれたから相場の下値不安は大きく後退して安心感が強まり、日々の相場でも前場に安い場面があったらそこは絶好の買い場となり、後場には日銀がフォローのETF買いをいれてくれるはずである。これに加えて前2015年度の運用実績が、5兆3098億円もの運用評価損となったGPIF(年金積立管理運用独立行政法人)にも失地回復のリカバリー・ショットが期待できるから、「鯨」主導相場の色彩はいっそう濃くなることになる。株高賛成の市場参加者は全員、日銀とGPIFには足を向けては寝れない。
この「鯨」で思い出すのは、「池の中の鯨」といわれた投資信託が、大量の組み入れ株を抱えて身動きがとれなくなったことを要因に発生した証券業界の「40年不況」である。半世紀も昔のことだ。不況脱出のため日経平均株価の1200円攻防局面で、投信の過剰保有株を買い取り需給改善を目指す保有機関が、日本共同証券、日本証券保有組合と2機関も設立された。筆者はそれなりに年は食っているものの、さすがにその現場には立ち会っていないが、かつてベテラン証券マンに聞いたところによれば、当時は、保有組合が日々どのような銘柄を買い取るか聞き耳を立て、先回り買い、追随買いするのが王道投資となっていたようだ。いわば「御用金相場」の「御用聞き投資」であった。
現在の日銀のETF買いでは、「40年不況」時とは異なって買い入れ銘柄について聞き耳を立てる必要はない。買い入れるのはETFそのものだから、ETFを買うかどうかの選択だけである。あとインデックス投資ではなく、個々の銘柄のアクティブ投資を選好する投資家は、指数構成ウエートの高い銘柄に絞り込む選別が残るだけだ。日経平均型のETFでは、ファナック<6954>(東1)、KDDI<9433>(東1)、ファーストリテイリング<9983>(東1)、ソフトバンクグループ<9984>(東1)などの値がさ株の構成ウエートが高く、TOPIX(東証株価指数)型では時価総額の大きいトヨタ自動車<7203>(東1)やメガバンク3行のウエートが高いだけに、こうした銘柄を外さない限り、相場全体の流れから置いていかれることはない。ただ、日銀のETF買入れ比率は、日経平均型の方が若干高いとされており、指数の値動きの良さや個別銘柄ごとの感応度は、日経平均型や値がさ株に軍配が上がる。
問題はこれからだ。というのも、黒田東彦日銀総裁が、前月7月末の記者会見で次回の金融政策決定会合(9月20日~21日開催)で異次元・三次元緩和策の「総括的な検証」を行うことを高らかに宣言したからだ。この「総括的な検証」は、今回の7月末の決定会合では見送ったマイナス金利の深掘り(引き下げ)を意味するのか、逆にマイナス金利を撤廃することを指すのか、市場の見方は分かれ、市場では結果として長期金利は上昇(債券価格は下落)し、為替相場は、円高・ドル安に振れる場面もあった。
マイナス金利は、今年1月の金融政策決定会合で初導入されたときから副作用についてブーイングが起こり、とくに銀行の収益性の低下、運用難による上場企業の年金債務負担の増加などが懸念され、メガバンクなど銀行株の株価も軒並み急落した。その副作用について前週末13日付けの日本経済新聞が、金融庁の調査として報道、マイナス金利政策の影響は、「3メガ銀行グループの2017年3月期決算で少なくとも3000億円程度の減益要因となる」として、この収益悪化が、銀行の貸し付け余力の低下につながりと分析した。この記事を読む限り、9月の日銀の「総括的な検証」では、マイナス金利の深掘りはなく、もしかしたらマイナス金利撤廃の黒田流のサプライズがあるかもしれないことになる。
こうなると日銀のETF買いに追随するうえで、俄然、注目を浴びるのはTOPIX型、なかでも指数構成ウエートの高い銀行株となる。米国市場でも、金利再引き上げの観測の強まりとともに長期金利が上昇含みとなり、利ザヤ拡大期待から金融機関株の動意が目立ってきている。ここは、「総括的な検証」の方向に聞き耳を立て、銀行株が一段の出遅れ訂正に動くかどうか試してみるのも一法となりそうだ。
■メガバンク3行が出遅れ訂正を強め上方修正・資本政策発動の地銀株も追随
銀行株の中心は、もちろん三菱UFJフィナンシャル・グループ<8306>(東1)、三井住友フィナンシャルグループ<8316>(東1)、みずほフィナンシャルグループ<8411>(東1)の3メガバンクとなる。日経平均型ETFとの連動するファーストリテイリングが、英国の「欧州連合(EU)離脱ショック」でつけた年初来安値から5割高し、ソフトバンクGが、超大型M&Aも加わって年初来高値をつけているのに対して、メガバンク3行の株価は、年初来安値から2割程度の底上げと出遅れ、低PER・PBR、高配当利回りの見直しからも上値余地がある。
また地銀株では、今3月期第1四半期(2016年4~6月期、1Q)決算の開示に合わせて、業績の上方修正や自己株式取得・消却などの資本政策を発表した銀行株が、再評価される展開も想定される。業績の上方修正では大垣共立銀行<8361>(東1)、百十四銀行<8386>(東1)、大分銀行<8392>(東1)、琉球銀行<8399>(東1)、自己株式取得では千葉銀行<8331>(東1)、山陰合同銀行<8381>(東1)、自己株式消却では第四銀行<8324>(東1)などをマークするところだろう。(本紙編集長・浅妻昭治)