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一蔵は好業績や割安感を評価して15年12月高値目指す流れに変化なし
- 2016/9/27 06:59
- アナリスト水田雅展の銘柄分析
一蔵<6186>(東2)は和装事業とウエディング事業を展開している。呉服市場では振袖など着物をファッションとして見直す動きが強まっている。17年3月期業績予想は第2四半期累計を増額修正した。そして通期も増額余地がありそうだ。株価は9月の戻り高値から一旦反落したが素早く切り返している。好業績や指標面の割安感を評価して、15年12月IPO直後の上場来高値を目指す流れに変化はないだろう。
■和装事業とウエディング事業を展開
和装事業(呉服の販売、振袖等の販売・レンタル、成人式の前撮り写真撮影、成人式当日の着付け・メイクサービス、着物の着方教室運営)、およびウエディング事業(結婚式場運営)を展開している。
16年3月期の売上高構成比は和装事業65.1%(うち販売33.3%、レンタル9.5%、写真13.7%、加工7.9%、その他0.7%)、ウエディング事業34.9%だった。16年3月期末の店舗数は和装事業64店舗、ウエディング事業3ヶ所だった。なお和装事業は成人式用振袖の需要に季節要因があるため収益は下期に偏重する傾向がある。またウエディング事業は挙式・披露宴が春(3~5月)と秋(9~11月)に多く行われる傾向がある。
■和装事業はJTS事業本部とオンディーヌ事業本部の2チャネル
和装事業は、JTS(Japanese Tradional Style)事業本部とオンディーヌ事業本部の2チャネルで、全国主要都市のオフィスビルやショッピングセンターなどに出店し、小売店舗、フォトスタジオ、着物の着方教室、それらを併設した店舗形態で運営している。16年3月期末店舗数はJTS事業本部32店舗(うち取扱代理店2店舗)、オンディーヌ事業本部32店舗(うち取扱代理店9店舗)である。
JTS事業本部では主に古典柄系やブランド物の呉服、振袖等、着物全般を取り扱い、集客はダイレクトメール送付や「SAKURA学園」(17~20歳の女性を対象に、ヘアメイクやファッション情報、イベント、ミスコン等に参加できるWeb上のコミュニティ)会員への案内を主としている。
販売チャネルは、直営店の一蔵(着物・関連商品販売、振袖レンタル、フォトスタジオでの撮影・着付け・メイク、着物ショールーム運営)、いち瑠(着物の着方教室)、銀座いち利(東京・銀座と大阪・心斎橋で産地直送着物販売)、ラブリス(首都圏ファッションビル中心の出店でアパレルブランドや有名モデルとタイアップした振袖専門店、16年6月アムールから名称変更)、取扱代理店、ECサイトいち利モール、および催事である。
オンディーヌ事業本部では主に可憐系の振袖を取り扱い、集客は電話販促や「学祭・サークル応援NAVI」(大学等の学園祭や大学生等が組織するサークルを紹介するサイト)会員への案内を主としている。販売チャネルは直営店のオンディーヌ(振袖販売・レンタル、卒業式用袴等レンタル、フォトスタジオでの写真撮影・着付け・メイク)、取扱代理店、および特約店(美容室や写真館など特約店契約により、振袖フェア期間中に限定して当社製品を臨時で販売する店舗)である。
■和装事業は低価格やワンストップサービスなどが強み
和装事業は、多種多様な約4万点の着物在庫、生産者からの直接買い取りによって実現した低価格、顧客ニーズを反映した商品およびワンストップサービス(自社所有フォトスタジオでの成人式の前撮り写真撮影、成人式当日の着付け・メイクサービス)、着物の着方教室の運営、悉皆(着物の丸洗い、シミ抜き、刺繍直し、仕立直しなど着物にまつわるお手入れ全般)サービス、新規顧客獲得からリピート需要に繋げるマーケティング力などを強みとしている。
着物の着方教室では、着物の着方を教えるだけでなく、着物を着て名所に出掛けるなどのイベント開催を通じて着物を着る機会を提供し、着物ファンの拡大に努めている。着物の着方教室では年間参加者が6000名を超えている。
■呉服市場は着物をファッションとして見直す動き
呉服市場(レンタル除く)は概ね2800億円~3000億円規模(矢野経済研究所推計)で推移している。産地工房の職人など作り手の高齢化、消費者のライフサイクルの変化などで縮小傾向が続いていたが、昨今は振袖を中心としたレンタル需要や着方教室をきっかけに、呉服販売が盛んになりつつある。
以前は資産として高価な着物を所有し、特別な機会にのみ着用することが多い傾向にあったが、昨今ではファッションとして着て楽しむ消費者が増加(所有から使用への変化)する兆しがみられる。さらに訪日外国人旅行客が日本旅行のお土産として着物等を購入するなど、外国人による和文化への注目度が高まっている。また経済産業省は国内和装産業の振興を図るため「きものの日」の導入を検討している。
和装事業の拡大に向けた中期戦略として、店舗網拡大、販売強化、原価低減を掲げている。消費者ニーズに基づく品揃え・サービスの充実、若年層の開拓による需要の掘り起こし、大都市圏中心とする店舗網拡大、低価格を実現するためのSPA(製造小売)モデルへの進化を推進する。呉服市場におけるシェア拡大を目指してM&Aも積極活用する。
16年5月には京都きもの学院(大阪市)を子会社化した。京都きもの学院は関西地区において88教室(16年3月現在)を展開し、100名を超えるベテラン講師陣による、初心者から着付けのプロを目指す専門課程まで充実したカリキュラムを持ち、長年の和装文化の啓蒙実績と知名度を有する着物着付け教室である。ベテラン講師陣が得られることに加えて、毎年3000名を超える京都きもの学院の受講者向けに、当社商品・サービスを広く提供することが可能となる。
9月15日には10代女性向け双方向型情報プラットフォームの企画・構築・運営を行う子会社ChouChou(仮、シュシュ)を設立(仮、10月3日)すると発表した。10代女性に役立つライフスタイルに関する情報を提供する。
■ウエディング事業は直営結婚式場3ヶ所を運営、本物志向が強み
ウエディング事業は直営結婚式場で、挙式・披露宴の企画・立案・運営、およびパーティドレス・ウェディングドレスのレンタルなどを行っている。本物感のあるファシリティのゲストハウスを特徴としている。
運営する結婚式場は18~19世紀の英国風のCamelot Hills(キャメロットヒルズ)(埼玉県さいたま市)、ヨーロピアンクラシックスタイルのGLASTONIA(グラストニア)(愛知県名古屋市)、和魂洋才の建築様式の百花籠(愛知県名古屋市)の3ヶ所である。
ブライダル関連市場のうち挙式披露宴・披露パーティ分野の市場(矢野経済研究所推計)は概ね1兆4000億円~1兆5000億円規模で推移している。少子化・晩婚化・未婚化などで婚姻組数の減少傾向が続いているが、成長戦略として3式場の収益力(単価×挙式数)向上を目指し、リノベーション、料理の質向上、プロジェクションマッピングなどの新サービス提供、インバウンド需要取り込みなどによる平日稼働率向上、広告戦略の高度化などに取り組んでいる。また滞在型リゾートウエディングとして沖縄での開発を開始し、18年開業を予定している。
■和装事業、ウエディング事業とも好調
16年3月期(非連結)は15年3月期比7.2%増収、33.4%営業増益、36.3%経常増益、19.6%最終増益だった。和装事業、ウエディング事業とも好調だった。売上総利益は同9.1%増加し、売上総利益率は62.0%で同1.1ポイント上昇した。和装事業が62.7%で同0.4ポイント上昇、ウエディング事業が60.8%で同2.2ポイント上昇した。販管費は同6.5%増加したが、販管費比率は54.6%で同0.4ポイント低下した。人件費や広告宣伝費の増加を増収効果で吸収した。またROEは16.3%で同6.6ポイント低下、自己資本比率は35.6%で同15.2ポイント上昇した。配当は年間35円(期末一括)で配当性向は24.2%だった。利益配分については安定した配当を継続して実施していくことを基本方針としている。
セグメント別に見ると、和装事業は売上高が同8.2%増の91億14百万円、営業利益(連結調整前)が同12.3%増の6億18百万円、ウエディング事業は売上高が同5.5%増の48億93百万円、営業利益が同38.4%増の10億83百万円だった。和装事業は催事強化などの成果で振袖販売・加工や成人式前撮り写真撮影が伸長した。ウエディング事業は稼働率上昇や内製化強化などで大幅増益だった。少子化・晩婚化・未婚化などで婚姻組数が減少して競争が激化する中でも、積極的な広告宣伝やプロジェクションマッピングなどの新サービスが奏功した。施行組数は同7.6%増の1463組だった。
■17年3月期第1四半期順調で第2四半期累計予想を増額修正
今期(17年3月期)第1四半期(4~6月)連結業績は、売上高が35億30百万円、営業利益が2億89百万円、経常利益が2億87百万円、純利益が1億82百万円だった。前年同期は四半期連結財務諸表を作成していないため比較はできないが、順調に推移して利益は期初時点の第2四半期累計の計画を大幅に上回った。売上総利益率は61.8%、販管費比率は53.6%だった。
セグメント別に見ると、和装事業は売上高が22億39百万円で営業利益(連結調整前)が1億97百万円だった。積極的な催事開催が奏功し、特に振袖の販売、成人式の前撮り写真撮影などの受注が大幅伸長した。子会社化した京都きもの学院75店舗および取扱代理店(一蔵2店舗、オンディーヌ9店舗)を含む16年6月末時点の総店舗数は全国139店舗となった。ウエディング事業は売上高が12億90百万円で営業利益が2億96百万円だった。来館数、挙式・披露宴の成約件数とも堅調に推移した。
和装事業の受注が想定以上のため、8月15日に第2四半期累計(4~9月)連結業績予想の増額修正を発表した。前回予想(5月10日公表)に対して、売上高は2億44百万円増額して前年同期(非連結)比11.4%増の71億67百万円、営業利益は2億25百万円増額して同51.5%増の4億06百万円、経常利益は2億32百万円増額して同54.0%増の4億05百万円、純利益は1億41百万円増額して同52.8%増の2億49百万円とした。
■17年3月期通期据え置きだが増額余地
今期(17年3月期)通期の連結業績予想(京都きもの学院を子会社化したことに伴って第2四半期から連結財務諸表を作成)は、前回予想(5月10日公表)を据え置いて、売上高が前期(16年3月期非連結)比11.0%増の155億45百万円、営業利益が同3.4%増の10億73百万円、経常利益が同3.3%増の10億64百万円、純利益が同11.1%増の6億75百万円としている。京都きもの学院とのシナジー効果も寄与して増収増益予想である。
売上総利益率は同1.0ポイント上昇の63.0%、販管費比率は同1.5ポイント上昇の56.1%を想定している。販管費は京都きもの学院の新規連結のほか、中期成長に向けた人件費やファッションレンタル事業のプロモーション費などが増加する。配当予想は前期と同額の年間35円(期末一括)で予想配当性向は28.4%となる。
セグメント別計画は、和装事業の売上高が同15.1%増の104億89百万円(販売が同0.5%減の46億37百万円、レンタルが同35.4%増の17億99百万円、写真が同5.8%増の20億34百万円、加工が同4.8%増の11億53百万円、その他が同16.7%増の1億16百万円、京都きもの学院が7億50百万円)、営業利益(連結調整前)が同22.5%増の7億58百万円(うち京都きもの学院15百万円)、ウエディング事業の売上高が同3.3%増の50億55百万円、営業利益が同1.8%増の11億03百万円としている。
和装事業では積極的な広告宣伝や催事のほか、顧客ニーズにマッチした商品やサービスを提供するためのマーケティングを強化する。また若年層開拓に向けて16年10月からファッションレンタル事業を開始する。ウエディング事業は専門的サービス内製化などで高品質・きめ細かなサービスの提供を推進する。またインバウンド挙式の増加で平日稼働率の向上に取り組む。
通期会社予想に対する修正後の第2四半期累計の進捗率は売上高46.1%、営業利益37.8%、経常利益38.1%、純利益36.9%である。低水準の形だが、和装事業は成人式用振袖の需要に季節要因があり、収益は下期に偏重する傾向があることを考慮すれば、通期予想にも増額余地がありそうだ。
■株主優待制度は毎年3月末に実施
株主優待制度は、毎年3月31日現在の1単元(100株)以上保有株主を対象として16年3月期末から開始した。
優待内容は次の2点から1点を選択する。和装事業店舗で利用可能な優待券(税込10万円以上の場合1万円割引、10万円未満の場合5000円割引)、ウエディング事業の3つの結婚式場のチャペルコンサート&ディナー1人3000円割引券(1枚で2名まで利用可能)。
■株価は上場来高値を目指す流れに変化なし
株価の動きを見ると、9月2日の戻り高値1133円から一旦反落したが、16日の直近安値980円から素早く切り返しの動きを強めている。23日と26日には1058円まで上伸した。
9月26日の終値1058円を指標面で見ると、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS123円39銭で算出)は8~9倍近辺、今期予想配当利回り(会社予想の年間35円で算出)は3.3%近辺、前期実績PBR(前期実績の非連結BPS913円02銭で算出)は1.2倍近辺である。時価総額は約58億円である。
週足チャートで見ると13週移動平均線近辺から切り返してサポートラインを確認した形だ。好業績や指標面の割安感を評価して、15年12月IPO直後の上場来高値1259円を目指す流れに変化はないだろう。
(日本インタビュ新聞アナリスト水田雅展)