ラクーンは地合い悪化の影響で売られ過ぎ感、利用企業数増加基調で17年4月期増益予想

 ラクーン<3031>(東1)は、BtoB電子商取引スーパーデリバリー運営を主力として、クラウド受発注COREC事業、BtoB掛売り・請求書決済代行サービスPaid事業、売掛債権保証事業など周辺領域への展開を加速している。利用企業数が増加基調で17年4月期増益予想である。FinTech関連としても注目される。株価は地合い悪化の影響も受けたが売られ過ぎ感を強めている。好業績を見直す動きが期待される。

■企業間ECサイト「スーパーデリバリー」運営が主力

 アパレル・雑貨分野企業間(BtoB)電子商取引(EC)スーパーデリバリー運営を主力として、クラウド受発注ツールCOREC(コレック)事業、BtoB掛売り・請求書決済代行サービスPaid(ペイド)事業、売掛債権保証事業など周辺領域へ事業を拡大している。

 15年8月にはスーパーデリバリーの越境ECサービス(海外販売)「SD export」を開始した。商品販売するメーカー側の配送業務を簡潔にするためディーエムエス(DMS)の物流代行サービスを利用し、134ヶ国以上の小売店・企業への卸販売が可能となる日本最大級の輸出販売サービスである。

 16年4月期セグメント別売上高構成比(連結調整前)は、EC事業(スーパーデリバリーとCOREC)60.8%、Paid事業13.6%、売掛債権保証事業25.6%だった。なお16年6月にはスーパーデリバリーが第1回日本サービス大賞にて「地方創生大臣賞」を受賞している。

■新サービスを積極投入

 15年11月国内生産インフラサービス「SD factory」を開始した。日本国内のアパレル関連工場やパタンナーと、アパレルメーカーやデザイナーをマッチングするサービスである。15年12月には偕成社、ほるぷ出版がスーパーデリバリーで絵本販売を開始、16年3月徳間書店など新たに8社の出版社が出展、16年4月CCCメディアハウスが出展した。

 16年2月には日本未上陸ブランドを含むイタリアのメンズファッションブランドへの共同発注を開始した。スーパーデリバリーの会員小売店向けの新しい販売企画「SD Selection」の第一弾である。

 16年3月、越境ECサービス「SD export」の新たな決済手段としてPayPalが提供する決済サービス「ペイパル」の対応を開始、日本から韓国への海外配送代行サービス「Malltail(モールテール)」を展開するgroowbitsと業務提携した。また「COREC API」を開始した。CORECユーザー各社が導入している販売管理、倉庫管理、会計管理などのシステムに自動でデータを取り込むことが可能になる。

 16年7月にはスーパーデリバリーで小売以外の事業者への販売を開始した。スーパーデリバリーで扱う商品数や商品ジャンルの拡大に伴って什器・梱包資材・販促用商品などの商材も多数出品され、それらの商材を求める小売以外の事業者からサービス利用を希望する声が増えてきたため、これまで利用対象外としていた飲食業・理美容業・宿泊業・教育関連など小売以外の事業者にもサービスを拡げることとした。

 16年8月には連結子会社トラスト&グロースが中小企業を対象とした業界初のネット完結型売掛保証サービス「URIHO(ウリホ)」を開始した。

 16年10月には越境ECサービス「SD export」における海外小売店の登録数が1万件を突破した。15年8月サービス開始時約1000件から約1年での1万件達成である。国別構成比は台湾、香港、アメリカ合衆国、オーストラリア、イギリス、カナダの順となっている。取扱商品数も新規メーカーの参入によって、サービス開始時約7万点から現在約15万点に増加している。

■Paid事業はFintech分野にも事業展開

 11年10月開始したBtoB掛売り・請求書決済代行サービスPaid事業はサービス改良によって業種・業態を問わず、あらゆるBtoB向けサービスへの導入を推進している。

 16年9月にはChatWorkのビジネスチャットツール「チャットワーク」へ、16年10月にはfavyの飲食店向けサービスへのPaidサービス提供を開始した。また16年10月にはインターファクトリーのクラウドECプラットフォーム「ebisumart」と連携した。11月1日にはネットショップ「リリパ」を運営するメガバックスへのPaidサービス提供開始を発表している。

 なお15年12月一般社団法人Fintech協会に加入、コミュニケーションアプリ「LINE」の公開型アカウント「LINE@」対応開始、16年2月SBIインベストメントのFinTechファンドに1億円出資した。

■利用企業数は増加基調

 16年4月期のスーパーデリバリー流通額は15年4月期比0.6%増の95億87百万円で、16年4月期末スーパーデリバリー会員小売店数は15年4月期末比8002店舗増加の5万2372店舗、出展企業数は同73社増加の1138社、商材掲載数は同10万2923点増加の55万9272点となった。有名アパレル関連企業の出展、アライアンス戦略、越境ECサービスのSDexport開始などで利用企業数が増加基調である。

 CORECユーザー数は、15年4月2000社(バイヤー1191社、サプライヤー809社)を突破、15年7月3000社(バイヤー1836社、サプライヤー1164社)を突破、16年2月5000社(バイヤー3094社、サプライヤー1923社)を突破、16年4月期末時点で5903社となった。

 連携サービス増加、受注登録やレポート作成などの機能追加、サプライヤーによるバイヤー誘致増加などの成果でユーザー数が増加基調である。業種別に見ると飲食関連が全体の23%を占めている。農業の6次産業化を進める農家・農園などの生産者と飲食店で受注・発注に利用するケースが増加している。

 Paid加盟企業数は16年4月期末に1700社を超え、16年4月期のグループ内含む取引高は同27.7%増加して134億04百万円となった。売掛債権保証事業の16年4月期末グループ内含む保証残高は同41.0%増加の91億23百万円となった。

■月額課金システム利用料が積み上がるストック型収益構造

 スーパーデリバリー流通に係る売上高に関して、15年4月期から商品仕入高を売上高と相殺して表示する方法(純額表示)に変更した。この変更によってスーパーデリバリー流通に係る売上高は出展企業から徴収するシステム利用料売上となっている。従来の総額表示に比べて見掛け上の売上高は減少しているが利益に変更はない。

 四半期別推移を見ると、15年4月期は売上高が第1四半期4億90百万円、第2四半期5億06百万円、第3四半期5億22百万円、第4四半期5億38百万円、営業利益は57百万円、93百万円、1億04百万円、82百万円、16年4月期は売上高が5億33百万円、5億44百万円、5億64百万円、5億87百万円、営業利益が87百万円、96百万円、97百万円、1億13百万円だった。出展企業と会員小売店の増加に伴って月額課金システム利用料売上が積み上がるストック型収益構造である。

 16年4月期は利用企業数が順調に増加し、Paid事業の黒字化なども寄与して15年4月期比増収増益だった。売上総利益は同6.3%%増加したが、売上総利益率は82.7%で同2.0ポイント低下した。販管費は同3.7%増加したが、販管費比率は65.4%で同3.0ポイント低下した。ROEは14.4%で同1.3ポイント上昇し、自己資本比率は35.7%で同0.1ポイント上昇した。

 配当は年間4円50銭(期末一括)で配当性向は32.5%だった。配当の基本方針は、将来の事業展開と経営体質の強化に備えるための内部留保の充実等を勘案しながら、業績を反映した水準で利益還元を実施するとしている。

 セグメント別(連結調整前)に見ると、EC事業は売上高が同2.3%増の15億83百万円、営業利益が同4.5%減の2億23百万円だった。国内流通額を四半期別に見ると第1四半期3%減、第2四半期4%減、第3四半期2%減に対して、第4四半期2%増となり復調傾向としている。Paid事業は売上高が同30.9%増の3億52百万円、営業利益が20百万円の黒字(前々期は16百万円の赤字)で黒字化した。売掛債権保証事業は売上高が同17.3%増の6億66百万円、営業利益が同50.7%増の1億11百万円だった。

■17年4月期第1四半期は増収増益

 今期(17年4月期)第1四半期(5~7月)連結業績は、売上高が前年同期比6.8%増の5億69百万円、営業利益が同8.2%増の94百万円、経常利益が同8.7%増の93百万円、純利益が同5.0%増の57百万円だった。EC事業は人件費増加などで減益だったが、Paid事業と売掛債権保証事業の収益拡大が寄与した。売上総利益は同12.6%増加し、売上総利益率は85.3%で同4.4ポイント上昇した。販管費は同13.7%増加し、販管費比率は68.7%で4.2ポイント上昇した。

 セグメント別(連結調整前)に見ると、EC事業は売上高が同2.5%増の3億92百万円、営業利益が同21.2%減の44百万円だった。流通額の増加で増収だったが、人件費の増加、広告宣伝費の増加、租税公課の増加などで減益だった。スーパーデリバリーの会員小売店数は16年4月期末比3973店舗増加の5万6345店舗、出展企業数は8社増加の1146社、商材掲載数は1万6074点増加の57万5346点となった。流通額は前年同期比4.4%増の23億73百万円だった。国内流通額は前4半期(2~4月)比で増加し、海外流通額(SD exportと日本語版サイトでの海外向け流通額の合算)も増加した。CORECのユーザー数は6975社となった。

 Paid事業は売上高が同20.2%増の95百万円、営業利益が1百万円の黒字(前年同期は0百万円の赤字)だった。取扱高の増加で大幅増収となり、営業損益が改善した。加盟企業数は1800社を超え、取扱高は同22.0%増の36億52百万円(グループ内取扱高16億52百万円を含む)となった。売掛債権保証事業は売上高が同11.6%増の1億79百万円、営業利益が同2.2倍の50百万円だった。売掛保証サービスの保証残高が減少したが、事業用家賃保証サービスの保証残高が増加し、保証履行額の減少で原価率が改善して増益だった。保証残高は同0.9%減の90億41百万円(グループ内保証残高11億61百万円を含む)だった。

■17年4月期は先行投資負担を吸収して増収増益予想

 今期(17年4月期)通期の連結業績予想(6月10日公表)は、売上高が前期(16年4月期)比12.1%増の25億円で、営業利益が同6.7%増の4億20百万円、経常利益が同14.2%増の4億20百万円、純利益が同4.4%増の2億50百万円としている。配当予想は未定としている。

 成長スピードを加速するための先行投資期間と位置付けて、経営基盤強化に向けた集中投資を計画しているため、人件費、広告宣伝費、開発費などが増加して小幅増益予想としている。ただしスーパーデリバリー国内流通額の復調、越境ECサービスSDexportの規模拡大、COREC、Paid事業、売掛債権保証事業の順調な拡大で、先行投資負担を吸収して増益予想である。通期会社予想に対する第1四半期の進捗率は売上高22.8%、営業利益22.4%、経常利益22.2%、純利益22.8%とやや低水準の形だが、ストック型収益構造のためネガティブ要因とはならない。収益拡大基調に変化はないだろう。

■株価は地合い悪化の影響で売られ過ぎ感

 株価の動きを見ると、10月17日の戻り高値565円から反落し、地合い悪化の影響も受けて11月9日444円までした押す場面があった。ただし売られ過ぎ感を強めている。

 11月9日の終値466円を指標面で見ると、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS14円25銭で算出)は32~33倍近辺、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS101円17銭で算出)は4.6倍近辺である。時価総額は約85億円である。

 週足チャートで見ると26週移動平均線を割り込んだが、日足チャートで見ると25日移動平均線に対するマイナス乖離率が10%を超えて売られ過ぎ感を強めている。好業績を見直す動きが期待される。
(日本インタビュ新聞アナリスト水田雅展)

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