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【小倉正男の経済コラム】トランプ氏のTPP離脱:アメリカどころか世界をブッ壊す?
- 2016/11/26 20:46
- 小倉正男の経済コラム
■アメリカをブッ壊す
次期大統領のトランプ氏が、TPP(環太平洋経済連携協定)からの離脱を明言した。トランプ氏は、多国間貿易協定ではなく、2カ国間貿易協定を結ぶとしている。
トランプ氏は、大統領選挙中に「2カ国間貿易協定では、最もタフで賢い交渉担当者を任命する」と語っていた。どうやら、そうしたことが現実味を帯びている。
大統領選挙中とは違うトランプ氏を期待する面がないではなかった。だが、「君子豹変」とはならなかった。
トランプ氏の「孤立主義」「保護主義」は“筋金入り”ということが鮮明になった。
共和党、民主党とも、これまでは大枠で「自由貿易主義」をアメリカの国益・国是として追及してきた。トランプ氏は、このアメリカの国益・国是を捨てるというのである。
共和党どころか、アメリカをブッ壊す、ということか――。いや、アメリカどころではないかもしれない。下手をすれば、世界をブッ壊す事態になりかねない。もちろんそうならないことを期待したいのだが。
■「戦後」をブッ壊す
多国間貿易協定であるTPPにしても、2カ国間貿易協定にしても、アメリカによる「ルール変更」の面がないではない。そうした動き自体がアメリカの衰退を映しているのは間違いない。
大店の3代目が、お店がうまくいかないので店子の家賃を値上げするのに似ているのではないか。あるいは、傾いたヤクザが上納金をかさ上げするようなものか。ともあれ、「ルール変更」しろというわけである。
それはともかく多国間貿易協定もそうだが2カ国間貿易協定も、自由貿易主義を基本とするのか、保護主義を基本とするのかで大きく異なる。「ルール変更」は同じだが、ベクトルが異なる。
TPPは、関税を下げるなど、どちらかといえば適者生存の自由貿易主義を基調としているのではないか。
だが、トランプ氏の唱える2カ国間貿易協定は、高関税の保護主義をベースにしている。これは身も蓋もないというか、――トランプ氏による自由貿易主義という戦後の世界の枠組みをブッ壊すという動きにほかならない。
しかもアメリカの「ラストベルト」(さびついた工業地帯)の雇用と製造業を取り戻すというのだから、適者生存というよりゾンビ生存の「ルール変更」に近い可能性がある。
■世界をブッ壊す
トランプ氏は、アメリカの製造業は工場を海外に移すな、中国などの海外の工場は閉鎖して国内に戻れ、と呼びかけている。これも前代未聞である。
――国家権力が、民間経済にこうしろとか指示を出すなどありえない。国家権力の民間経済への介入は社会主義として嫌われてきたのがアメリカである。
これもグローバリズム否定、れっきとした国家権力の民間経済介入であり、アメリカの根本をブッ壊す発言である。
トランプ氏が唱える2カ国間貿易協定に話を戻せば、世界をブッ壊すことにならないか。
関税をお互いに掛け合って、マーケットを統制しようとしても、おそらくよいことなどひとつもない。
モノやサービスの値段は高くなり、インフレを呼ぶ。高いモノやサービスは売れない。売れなければ、生産者=供給者は賃金を上げられない。世界経済は収縮し、スタグフレーションに突入しかねない。
トランプ氏にブッ壊されるほど世界やアメリカはヤワではないと思いたいものだが・・・。
(『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシス・マネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社編集局で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長、日本IR協議会IR優良企業賞選考委員などを歴任して現職)(情報提供:日本インタビュ新聞社=Media-IR)