【小倉正男の経済コラム】トランプ氏を抜きには語れない「新年の世界景気」

■トランプ氏の大判振る舞い

 新年の世界景気を占うとすれば、アメリカの次期大統領であるトランプ氏の政策を抜きにして語れない。

 トランプ氏の政策は、牽引車が不在だった世界経済に「主役はアメリカだ」、いや「主役は俺だ」と名乗りを上げたようなものだ。
 問題や相矛盾するような点は少なくない。しかし、世界経済の「主役は俺だ」というのは、このところ見られなかった新事態である。

 まずは減税、富裕層を中心とする所得税減税、さらに法人税減税が取り沙汰されている。10年間で6兆ドルの大型減税が打ち上げられている。法人税は35%から15%に大幅な減税が行われる――。

 海外に移転したアメリカ企業を本国に呼び戻す。加えて、外国企業をアメリカに呼び込む。

 さらには10年間で1兆ドルという国内インフラ投資、それに国防への投資などが謳われている。このあたりはケインズ政策めいており、おカネをばら撒いて雇用を増やすということになる。トランプ氏の大判振る舞いというしかない。

■トランプ氏は財政赤字を無視

 オバマ大統領は、「財政の崖」、すなわち巨額の財政赤字に縛られ、何もできなかった。「世界の警察官」を自らあっさりと放棄した。財政赤字の拡大を見過ごせない。臆病なほど何もやらない。オバマ大統領はそんなジレンマを抱えていた。

 トランプ氏は、財政赤字など眼中にないという立場だ。景気がよくなれば、税収が上がるという楽観論である。

 仮に財政赤字が拡大しても、基軸通貨であるドルを持っており、国債増発で乗り切れる。アメリカにデフォルトはない――。
 根拠があるのかどうかはわからないのだが、強気の楽観論である。

 財政が悪いのに大型減税をやり、インフラ投資を行うとすれば、とりあえず財政赤字は大幅に膨らむ。ただし、景気がよくなれば、税収が上がり、財政赤字を減らすことができる。
 その綱引きになるが、はたしてどうなるものやら・・・。

■新しいバブルが勃発する

 リーマンショック時は、「100年に1度」の金融危機と騒がれたものだ。この時も世界はインフラ投資などケインズ政策が必要だといわれた。

 結局、リーマンショック時は、中国が劣悪な国内インフラの近代化に乗り出し、大判振る舞いを行った。いわば、中国は世界経済の「白馬の騎士」となり、GDPで世界2位の経済大国に躍り出た。
 中国のバブルの勃発である。中国のバブルは、世界の景気を一時的に支えたわけである。

 だが、中国はいま高成長が終わり、いわばバブル崩壊状況で、息切れをきたしている。世界経済を支えたり、救ったりできる立場にはない。アメリカも、オバマ大統領には世界経済を引っ張る気概はなかった。

 主役不在の世界経済にトランプ氏が、「俺が主役だ」と名乗りを上げた。世界の景気はアメリカが引っ張る、言葉を換えれば「バブルを起こす」ことも辞さないということになりかねない。長期金利は上がり、新年は金利がさらに上昇するとみられている。

 トランプ氏の政策が、アメリカを偉大な国に復活させるのか。あるいはアメリカはついには偉大な国から滑り落ちることになるのか。どちらに転がるのか――。
 新年はリスクを持ちながらトランプ氏の政策が始動する。

(『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社編集局で企業情報部長、金融証券部長、日本IR協議会IR優良企業賞選考委員などを歴任して現職)

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