【小倉正男の経済コラム】決算シーズン:バランスシートは作戦と用兵の結実

■作戦も重要だが、用兵も劣らず大切

 いまや決算の季節である。決算は企業の通信簿であり、結果は厳粛に受け止めるべきものだ。
 株主、社員などステークホールダー(利害関係者)にとっても、経営者にとっても、重要なイベントになる。

 経営の要諦は、経営戦略(作戦)と人事(用兵・人使い)なのだが、その結果がいやおうなく決算に現れる。バランスシート&損益計算書は、作戦と用兵の結実にほかならない。

 その昔、富士通の秋草直之社長(当時)が、自社の業績悪化をメディアに質問されて、「(経営戦略はよかったのだが)業績が悪いのは社員が働かないからだ」と、返答して大きな話題となった。
 この事件が起きたのは不況期の2001年当時のことだったが、ある証券界の大物は、「社長が代わると、株価が上がるケースだな」と呟いたものである。

 「社長はよいが、社員が悪い」は、確かに通用する話ではない。作戦も重要だが、用兵もそれに劣らず大切だということに尽きる・・・。用兵、人使いができないと企業は旨くいかない。

■作戦も用兵も下手ではすべての不幸の始まり

 経営者のなかには、どういうわけか作戦も用兵も下手という人がいないではない。他人の意見を聞いて、それをうまく用いればよいのだが、それもまたできない。
 反対に作戦、用兵ともなんとか上手い人もいる。ただ、これらも運と勘でやっている面がある。いうほど安定性はない。

 前者のケース、――頭が固まっているのか、プライドが邪魔するのか。「人使い」どころか、「自分」を使えない。
 「イエス」としか言えない人で廻りを固めることになる。コーポレートガバナンスでいえば、チェック&バランスがない状態、いわば危険なステージに入っている。

 業績が悪化すれば、社員たちもよいことはない。社内の雰囲気はギスギスして、給料やボーナスは下がる。社員たちもクビを傾げるような命令に従わなければならない。理不尽なハラスメントめいたことも散見されるようになる。
 株主にとっても時価総額が下がる。株主もこのあたりはナーバスだ。よいことはなにひとつない。

■よい経営、よい決算のよい循環を

 社長を終わり、会長や相談役などに退いた経営者と話をすると、「あの時にこうすればよかった」とかという『しくじり』を聞くことがある。
 「今にして思えば、――」。社長の時期にやったこと、やらなかったことを後悔しての話である。

 こちらからすれば、「なんであの時にこうしなったのか」「こうしておけばよかったのに――」ということになる。傍目八目なのだが、傍目から見れば『しくじり』は少なくない。

 「たまたま経営者になったので、そこいらまで考えが至らなかった――」。そんな『しくじり』を聞いたことがある。確かに、たまたま経営者になったというケースはかなり一般的である。ただ、後悔しているだけまだしもよい経営者といえる。

 経営者のなかには、「社員が働かないから」などと強弁するケースもある。
 事実に基づくこともないではないだろうし、あるいはほとんどは事実に基づかないこともあるだろう。なかには苦しまぎれの強弁だったりする。
 なかなかできないのだが、事実を事実として認めることが度量になる。

 ――よい経営を行って、よい業績を残せば、世間からよい経営者としてリスペクトされる。今年の決算では、そうしたよい循環を見たいものである。

(小倉正男=『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社編集局で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事、日本IR協議会IR優良企業賞選考委員などを歴任して現職)

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