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アイビーシーは下値固め完了して基調転換、17年9月期先行投資負担だが中期成長シナリオに変化なし
- 2017/5/25 08:28
- アナリスト水田雅展の銘柄分析
アイビーシー<3920>(東1)はネットワークシステム性能監視ツールのリーディングカンパニーである。情報通信ネットワークが高度化・複雑化する中で性能監視ツールの重要性が増している。4月25日には次期製品「System Answer G3」出荷開始を発表した。17年9月期は先行投資負担で減益予想だが、第2四半期累計が計画超となり、通期予想にも上振れ余地がありそうだ。中期成長シナリオにも変化はないだろう。株価は下値固め完了して基調転換の動きを強めている。
■ネットワークシステム性能監視ツールのリーディングカンパニー
ネットワーク機器・システムの稼働状況や障害発生の予兆などを監視して、情報通信ネットワークシステム全体の性能状態を容易に可視化できるネットワークシステム性能監視ツール(ソフトウェア)のリーディングカンパニーである。国内システム性能・稼働監視ソフトウェア業界において、大手システムインテグレーターを除く専業首位クラスである。
■複雑化するネットワークシステムにおいて性能監視ツールの重要性が増す
ネットワークシステム性能監視ツールとは、ネットワークシステムを構成する様々なメーカーのネットワーク機器や仮想サーバーの状況を、俯瞰的かつきめ細やかに収集して表示・解析・通知を行うソフトウェアのことである。ネットワークシステム全体の稼働・性能状況を監視し、ネットワークシステムの障害発生を未然に防ぎ、ICTインフラの性能維持・改善さらにコスト削減を可能にする。
現在の情報通信ネットワークはクラウドコンピューティングやリソース仮想化など新たな技術が浸透し、ビッグデータの活用やデータ量の増大、ネットワーク環境やデバイスの多様化などが進展している。また最近ではコンピュータ・ネットワークシステムの特徴を生かしたブロックチェーン(分散台帳技術)が注目されている。
ネットワークシステムが高度化する一方で、システム環境変化による障害予兆の特定が困難になる問題が深刻化している。またネットワークシステム障害を介したサービス停止や通信遅延なども社会問題化している。そして高度化・複雑化かつブラックボックス化するネットワークシステムにおいて、ネットワークシステムの安定稼働や品質向上を実現するネットワークシステム性能監視ツールの重要性が一段と増している状況だ。
■自社開発の性能監視ツールおよび運用支援サービスを提供
マルチベンダーの機器で構成される複雑なネットワークシステム全体の稼働・性能状況を、精度の高いデータを取得して分析するネットワークシステム性能監視ツールの開発・販売および導入支援サービス、顧客のネットワークシステムに内在する問題点や課題を抽出して最適な改善策を提示する分析・性能評価サービス、ネットワークシステム設計・構築・運用支援のコンサルティングサービスを提供している。
16年9月期の事業別売上高構成比は、ネットワークシステム性能監視ソフトウェアに係る自社開発製品のライセンス(ソフトウェア使用権)販売が82%、自社製品導入支援やネットワークシステム構築に係るコンサルティングなどのサービス提供が12%、その他物販(他社製情報通信機器等の販売)が6%である。
■マルチベンダー対応製品の自社開発とデータ・ノウハウの蓄積が強み
問題・障害発生後に気付く従来型の手法ではなく、問題・障害の予兆をいち早く検知して問題・障害発生を未然に防ぐ新たな手法で、ネットワークシステム性能監視に必要なマルチベンダー対応ソフトウェアを自社開発し、様々な環境下でのデータおよび統計分析・解析ノウハウを蓄積してサービスをワンストップで提供していることを特徴・強みとしている。
様々なネットワーク関連機器を詳細に分析し、潜在的な問題点を洗い出して改善策を提示する。そして高度化・複雑化かつブラックボックス化しているネットワークシステム環境でも、安心安全なサービス提供によってネットワークインフラの品質向上とコスト削減を実現する。
継続的に自社開発製品の機能拡張を推進して、対応メーカー数と分析ポイント数は06年9月期末22社・339ポイントから、16年9月期末108社・3390ポイントまで拡張した。ほぼ全ての主要メーカーに対応している。一朝一夕で同社と同等の製品を作ることは困難であり、マルチベンダー対応の競争優位性を表す数字だ。
■主力製品は「System Answer G2」シリーズ
主力製品は11年7月リリースしたネットワーク性能監視ソフトウェア「System Answer G2」シリーズである。マルチベンダーのネットワーク機器や仮想サーバーで構成される膨大で複雑なネットワークシステムの性能情報を、1分間隔できめ細かく詳細なデータを収集し、瞬時に性能指標データを作成して可視化できる独自の性能監視専用ソフトウェアである。
マルチベンダー対応で幅広いメーカー機器の性能情報を可視化できる点が同業他社に対する圧倒的なアドバンテージとなり、官公庁・地方自治体、金融業、製造業、物流業、情報通信業、医療・文教分野など、業種・業態・規模を問わず採用され、累計販売実績は08年12月リリース「System Answer」シリーズと11年7月リリース「System Answer G2」シリーズの合計で、17年3月現在1200システム以上に達している。
また同社製品のように100社を超えるマルチベンダー対応で使い勝手の良い性能監視ソフトウェアは世界でも類がなく、自社エンジニアによる手厚い顧客サポート体制も好評のため、ライセンス販売における継続利用率は約9割と極めて高い。大手優良企業を中心とした顧客構成で、売上債権の貸倒実績が無く、安定的な財務体質を維持していることも特徴だ。
■中期成長に向けてサービス領域拡大
中期成長戦略として、付加価値を高めるためにM&A・アライアンスも活用したサービス領域の拡大や成長分野への進出、パートナー企業との連携強化による販売力の強化・サービス型販売の促進、情報監視機能を強化した次期製品の開発・市場投入を推進している。
サービス領域の拡大では、16年3月統合ログ管理市場で豊富な実績を誇るインフォサイエンス社「Logstorage」と連携して「System Answer G2 ログオプション」提供開始、16年4月ネットワーク品質の可視化による効果的なITシステム投資計画を支援する「System Answer G2 Quality Analyzer オプション」提供開始、16年4月アットマークテクノ社とIoTを活用した製造ライン統合管理ソリューションで協業、16年5月NRIセキュアテクノロジーズ社とセキュリティソリューションで協業した。
さらに16年9月アプリケーションパフォーマンス管理(APM)分野でラック社と協業して「Dynatrace」販売開始、16年11月特化型クラウドインテグレーションサービス(SCI)提供開始、16年11月リンクと協業、アマゾンウェブサービス(AWS)のパートナープログラムである「AWSパートナーネットワーク(APN)テクノロジーパートナー」に認定された。
17年2月にはコーソルとデータベース運用管理ソリューションで協業開始、17年4月にはネットフォースへ出資した。
■IoTやブロックチェーンなど成長分野にも進出
成長分野への進出では、16年4月IoT分野およびブロックチェーン分野への事業展開を目的としてSkeed社と合弁会社iBeed社設立、16年7月Skeed社との合弁を解消してiBeed社を完全子会社化、16年8月コンセンサス・ベイス社とブロックチェーン分野で業務提携した。
■パートナー企業との連携強化
パートナー企業との連携強化による販売力の強化では、伊藤忠テクノソリューションズ、富士通エフサス、日立システムズ、ユニアデックス、NECフィールディングなど、大手システムインテグレーターとの連携を強化して公共系システムや大手企業への販売促進を継続する。
サービス型販売の促進では、15年10月ITホールディングスグループのTIS社のITインフラ管理・運用支援マネージドサービス「MOTHER」の性能分析サービスに「System Answer G2」が採用された。また16年8月スカイアーチネットワークス社と協業開始した。
■次期製品「System Answer G3」を17年4月出荷開始
同社の製品開発は従来、システムが正しく動いているかどうかを監視し、問題が発生した際にどこで発生したのかを検知・把握する「死活監視」「状態監視」のための「保守ツール」から、性能上問題がないかどうかを分析し、障害が発生する前に問題点を検知して適切な対処を施す「性能監視」のための「収集ツール」へと発展してきた。
今後はコンピュータやネットワークシステムを維持・改善するための根拠ある「判断ツール」として活用できる「情報監視」機能を備えた製品が必要とされ、次期製品の開発を進めてきた。情報監視とは、コンピュータやネットワークシステム運用時に発生する数々の問題を、的確に判断するための情報や根拠をいち早く把握するための監視手法である。
そして4月25日、次期製品「System Answer G3」シリーズのプレスリリース版の出荷開始を発表した。コンセプトを「性能監視から情報監視へ」として、監視設定の自動化、監視の見落とし防止、派生アラートの集約、仮想化監視機能の強化、IPMIによるハードウェア監視、動的しきい値(ベースライン)監視の強化などの機能を盛り込んだ。
なお製品版の出荷は17年6月の予定である。6月7日~9日に幕張メッセで開催される「Interop Tokyo 2017」でお披露目する。
■ソフトウェアのライセンス販売で高収益のストック型ビジネスモデル
収益面では、主力の「System Answer G2」シリーズの継続利用率や複数年契約の比率が高く、ソフトウェアのライセンス販売が積み上がる高収益のストック型ビジネスモデルを特徴としている。
13年9月期から「System Answer G2」シリーズのライセンス販売にシフトしたことに伴い、販売先の規模が拡大して販売数も大幅に伸長し、売上原価におけるハードウェアの仕入が減少したため、13年9月期以降は売上総利益率が80%台と高水準で推移している。また顧客の検収時期の影響で、四半期別業績は第2四半期(1~3月)および第4四半期(7~9月)の構成比が高くなりやすいという季節要因がある。
利益配分については、今後の業績の推移や財務状況等を考慮したうえで将来の事業展開のための内部留保等を総合的に勘案しながら配当を検討することを基本方針としているが、現在は成長過程にあるため、事業上獲得した資金については事業拡大のための新規投資等に充当することを優先するとしている。
■17年9月期第2四半期累計は先行投資負担で減益だが計画超
今期(17年9月期)第2四半期累計(10月~3月)非連結業績は、売上高が前年同期比31.1%増の6億38百万円、営業利益が同29.0%減の84百万円、経常利益が同43.8%減の66百万円、純利益が同38.9%減の42百万円だった。
人材確保やシステム投資などの先行投資負担で減益だったが、新規大型案件の受注や更新案件の積み重ねなどで大幅増収基調に変化はなく、期初計画に対しても売上高は79百万円、営業利益は32百万円、経常利益は40百万円、純利益は26百万円、それぞれ上回った。
売上総利益は同14.5%増加し、売上総利益率は88.3%で同11.1ポイント上昇した。販管費は同31.1%増加したが、販管費比率は63.9%で同0.1ポイント低下した。人件費やオフィス関連費用が増加したが、大幅増収効果で販管費比率は低下した。なお販管費は期初計画をやや下回る水準だった。
売上高の内訳は、ライセンス販売が同6.2%増の4億06百万円、サービス提供が同63.9%増の1億04百万円、その他物販が同4.2倍の1億26百万円だった。主力のライセンス販売は、公共・文教分野の開拓、新規大型案件の複数受注、中小規模案件や更新案件の積み重ねなどで順調に推移した。サービス提供はライセンス販売の受注増加に伴って構築や運用サポートなどが順調に拡大している。その他物販は大型案件受注に伴って増加した。
四半期別の業績推移を見ると、売上高は第1四半期2億38百万円、第2四半期4億円、営業利益は58百万円の赤字、1億42百万円の黒字だった。
■17年9月期通期も先行投資負担だが大幅増収基調
今期(17年9月期)通期の非連結業績予想(11月14日公表)は、売上高が前期(16年9月期)比14.4%増の13億05百万円、営業利益が同19.1%減の2億36百万円、経常利益が同37.0%減の2億10百万円、そして純利益が同35.4%減の1億26百万円としている。
人材確保に伴う人件費の増加、本社オフィス増床に伴う関連費用の増加、新製品開発に係る動作検証環境整備のためのシステム導入費用の発生など、中期成長に向けた先行投資負担で減益予想だが、大幅増収基調に変化はない。クラウドサービスやビッグデータ市場の持続的な成長、さらにIoT関連市場の拡大も予想され、主力の「System Answer G2」シリーズのライセンス販売が好調に推移する。サービス提供では特化型クラウドインテグレーションサービス(SCI)の提供開始も寄与する。
通期会社予想に対する第2四半期累計の進捗率は売上高が48.9%、営業利益が35.6%、経常利益が31.6%、純利益が33.6%である。やや低水準の形だが、第2四半期累計が計画超だったことや、ストック型で第4四半期の構成比が高い収益特性などを考慮すれば、通期予想にも上振れ余地がありそうだ。
■ネットワークシステム性能・稼働監視ソフトウェア市場は拡大基調
パソコンや携帯電話・スマホ、高性能サーバーや大規模データセンター、さらに家電や自動車まで、あらゆる機器がネットワークで繋がる時代が到来し、ネットワークシステムが正しく稼働するように見守り、障害の発生を未然に防ぐことは企業や官公庁など、あらゆる組織にとって極めて重要な危機管理策の一つとなっている。
このためネットワークシステム性能・稼働監視ソフトウェア市場は拡大基調が予想される。通信事業者やデータセンター事業者の大規模なシステム更新案件、官公庁や地方自治体案件の増加に加えて、仮想環境に対応して稼働監視システムを見直す企業が増加している。
ネットワークシステム全体が一段と高度化・複雑化・ブラックボックス化している状況を考慮すれば、100社を超えるマルチベンダー対応に強みを持つ同社の競争優位性が一段と鮮明化することが予想される。事業環境は良好であり、中期成長シナリオに変化はないだろう。
■株価は下値固め完了して基調転換の動き
株価の動きを見ると、4月13日の直近安値777円から切り返し、5月23日には1188円まで上伸した。下値固めが完了して戻り歩調だ。
5月24日の終値1108円を指標面で見ると、今期予想PER(会社予想のEPS23円07銭で算出)は48倍近辺、前期実績PBR(前期実績のBPS250円06銭で算出)は4.4倍近辺である。時価総額は約61億円である。
週足チャートで見ると13週移動平均線に続いて26週移動平均線も突破した。基調転換を確認する動きだ。中期成長力を評価して出直り展開が期待される。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)