【作家・吉田龍司の歴史に学ぶビジネス術】「インバウンド大国」への道、歴史のビジネスチャンス
- 2017/7/30 07:54
- 株式投資News
■老いる日本、生まれゆくアジア
この連載も今回で最終回となる。最後に大きな話をしたい。
2040年代後半の日本人口1億人割れが迫っている。
このとき、65歳以上の人口比率は4割にのぼると、多くの調査機関が推計している。もはや高齢化社会などという古くさい言葉では表現できないような「老人大国」への道が目の前にある。
前回でも言及したがモノづくり国家の看板も老朽化してしまった。日本は今やアジアのトップランナーでも何でもなくなった。
こうした中で大きな期待がかけられるビジネスがある。それがインバウンド(訪日外国人観光)ビジネスだ。
老いる日本を尻目に、世界の人口は膨脹が止まらない。2015年の地球の総人口は約73億人だが、国連の予想では2050年に96億人になるとされる。「地球100億人」時代の到来だ。
この人口増加の主役がアジアである。
インド、ベトナム、フィリピンなど、産業化が進展している都市部を中心に人口が急増している。「豊かな人々」が次から次へ誕生しているのだ。フィリピンやベトナムと日本との人口逆転も時間の問題になっている。
こうしたアジアを中心とした「100億人」のエネルギーを吸収し、訪日外国人を増やして人口減少をカバーする戦略、すなわち「観光立国」への転換が日本にとっても、株式市場にとっても今後の重要テーマになるだろう。
それは外国人訪問客8000万人以上を誇るフランス(人口6690万人)や、同1500万人のシンガポール(同550万人)のようなインバウンド大国化である。
交通・宿泊・飲食・娯楽など各分野への経済効果は計り知れない。
■観光客急増で破裂寸前の京都
2013年に初めて1000万人を突破した訪日外国人は急増の一途をたどり、2016年には2403万人に到達。政府は2020年までに訪日外国人4000万人突破、同消費額8兆円(2016年3兆7476億円)を目標としている。驚くべきスピードだ。
例えば観光コンテンツを豊富に持つ京都では、観光客急増に伴って、旅館・ホテル、人手、交通インフラなどの不足、つまりキャパオーバーの問題が叫ばれるようになった。京都は私の故郷でもあるが、石を投げれば国宝、重要文化財に当たるような都市だ。
折しも株式市場では任天堂や日本電産など京都銘柄の活躍が目覚ましいが、「地球100億人」を魅了する歴史・伝統・文化を持つ「KYOTO」は観光立国の大きなキーワードといえるだろう。
政府が進める「日本版IR(統合型リゾート)」というテーマは、どうもカジノの話が中心となりがちだ。もちろんIRもカジノも観光立国において重要な位置を占めるだろうが、大切なのはそこだけではない。
各地域は、京都のような歴史・伝統・文化コンテンツを広い視野で見つめ直し、大きな構想の中で産業としての観光業を考え直すべきではないだろうか。
東京・横浜・大阪に築かれるであろう日本版IRは。各地域へのインバウンドの波及を目指すハブとしての役割を担うことになる。
先日世界遺産となった沖ノ島初め、日本列島には京都のような歴史・伝統・文化の観光コンテンツが豊富に点在している。
IRからいかに各地域へ観光客を誘導するか、インフラを整えるか、地域連携はどこまで可能か。もっともっと大きな視点で総合的に、統合的に構想すべき問題であろう。
■「ANJINプロジェクト」に見出される希望
近年のインバウンド、地方活性の成功事例としては徳島県三好市が有名だ。官民を挙げた体験型観光地づくりに注力した結果、雲海を眺めるツアーなどが大ヒットしたのである。また、広島県安芸太田町では何と神楽の練習が外国人に注目され、人気を博しているという。
田舎の風景、昔ながらの生活様式、そして地元のお年寄りとの交流に観光客は惹きつけられているというのだ。
列島にはこうしたコンテンツが豊富に眠っている。
海外の旅行会社も京都、東京、北海道の観光地が飽和状態になっているだけに、各地方の観光資源掘り起こしを望んでいるだろう。
個人的に注目したい試みの一つに「ANJINプロジェクト」がある。
ANJINとは徳川家康の外交顧問として活躍した「青い目のサムライ」ことイギリス人の三浦按針(ウィリアム・アダムズ)のことだ。1980年代に全米で『将軍 SHOGUN』というテレビドラマ・映画が大ヒットしたことを機に、世界的に有名になった人物である。
この「ANJINプロジェクト」は按針ゆかりの地である大分県臼杵市、静岡県伊東市、神奈川県横須賀市、長崎県平戸市が連携し、2013年よりスタート。毎年持ち回りでイベントを開催し、按針の功績と各地域の魅力を世界にアピールしている。
按針の数奇な人生に関心を持つ外国人観光客は多く、彼の出生地であるメドウェイ市との相互交流も行われるようになった。異なる地域を結びつけ、新たな観光資源を呼び起こす。素晴らしいことだと思う。
日本は地球100億人を魅了できる歴史コンテンツを持つ国である……と記して結びとしたい。ご愛読有り難うございました。
(作家=吉田龍司 『信長のM&A、黒田官兵衛のビッグデータ』(宝島社)、『毛利元就』、『戦国城事典』(新紀元社)、「今日からいっぱし!経済通」(日本経営協会総合研究所)、「儲かる株を自分で探せる本」(講談社)など著書多数)