【相場展望】「木を見て森を見ない」個別株物色を徹底して波乱相場を乗り切り桜満開の春相場へアプローチ

 凄まじい世界同時株安である。米国のダウ・ジョーンズ工業株30種平均(NYダウ)は、過去最大の下げ(1175ドル安)、同2番目の下げ(1032ドル)と1週間に2日間も続けて大崩れし、日経平均株価も1071円安、508円安と第一波、第二波の急落に見舞われた。発端は、今年2月2日に発表された今年1月の米国の雇用統計で、民間部門の平均時給が急上昇し、連邦準備制度理事会(FRB)の利上げが加速されるとして長期金利の代表指標である米10年国債の利回りが、2.85%と2014年1月以来の水準まで急上昇したことにある。しかし、不可解なのは、これだけのショック安を蒙りながら、いまだにこの激変が、「コップの中の嵐」なのか、それとももっと底の深い「クライシス(危機)」の前触れなどかはっきりしないことである。この不可解さの不安心理の裏返しとして、日米の両市場での日々の日中値幅(高値と安値の差)は当然、大きくならざるを得なかったともいえる。

 日米株価の相次ぐ崩落のメカニズムは、米長期金利の上昇とともに、将来の株価の変動率を示すいわゆる「恐怖指数(VIX指数)」が急上昇し、同指数に連動してリスクパリティ戦略をとっているファンドが、アルゴリズム取引で一斉に売りを出したことによると分析された。これが当たっているなら、同ファンドの売りが一巡すれば、市場は、落ち着きを取り戻し正常化するはずである。市場の需給要因による暴落で、「コップの中の嵐」にしか過ぎないことになるからだ。

 これで思い出すのが、これまで数々あった暴落のなかでの1970年(昭和45年)4月30日に起こった「IOSショック」である。国際的な投資信託を運用していた巨大金融コングロマリットのIOSが経営危機に陥り、組み入れていた日本株が投げ売りされてくると懸念して日経平均株価は、8.7%の急落をした。IOSの日本株の組み入れは結局、10銘柄内外にしか過ぎないことがのちになって判明したが、投資家の疑心暗鬼により売りが売りを呼ぶ株価暴落につながった。まさに「コップの中の嵐」であったわけだ。また、これと類似のケースの1965年(昭和40年)の「証券不況」も、元凶の「池の中の鯨」といわれた投資信託に焦げ付いていた組み入れ株を買い取る保有組織を2機関を設立したことでほぼ底打ちをした。

 今回の世界同時株安も、この「IOSショック」や「証券不況」などと同様の市場内部要因に起因するものなら、運用資産が世界で1500億ドル~1750億ドルに達すると推定されるVIX連動型ファンドの売りが一巡するのを待てば、投資家の疑心暗鬼も雲散霧消することになる。だから2月相場のこれからの対処方法は、世界同時株安が「コップの中の嵐」か、それとも「リーマン・ショック」や「ブラック・マンデー」などのように、世界の金融システムや各国経済の脆弱化につながるクラッシュか見極めることが前提になる。今後とも、3連休明けの今週も含めて米国の長期金利状況、金融政策動向、株価推移などを注意深くウオッチしなければならないことはいうまでもない。

 ただ、この見極めのメドがつくのは、早ければ2月5日にFRBの新議長に就任したばかりのパウエル議長の議会証言が予定される2月28日、遅ければ米国の政策金利が決定される次回FOMC(公開市場委員会)が開催される3月20日~21日との観測がもっぱらだ。このメドがつくまでは、予断を持たずに対応する必要がある。しかし、北浜(大阪市場)の相場アノマリーに「戎天井、彼岸底」とする相場観がある。「コップの嵐」か「クライシスの深刻化」か、見極めのメドがつくこの時期は、この「彼岸」に当たり、ちょうど桜の開花時期と重なることになる。相場アノマリー通りなら、桜の蕾が膨らみ始めるころには、春相場の助走が始まる。ということは、ここからの2月相場は、この助走に一足速く跳び出す可能性のある銘柄をセレクトし、「木を見て森を見ない」個別株物色を徹底することが、満開の桜を満喫するためのもっとも望ましいアプローチになるはずだ。超弱気にも超強気にも傾かない「クールヘッド バット ウォームハート(冷静な頭脳と温かい心)」で波乱相場を乗り切りたい。

■業績上方修正・増配・自己株式取得をベースに有望候補をセレクトしIPO株も先取り妙味

 現に、この「木を見て森を見ない」個別株物色は、今回の暴落の最中にあってもその健在振りを示していた。折からの3月期決算会社の第3四半期業績の発表とダブって、通期業績の上方修正や好決算を発表した銘柄にストップ高や昨年来高値を更新するなど逆行高した銘柄が続いたのである。その多くは、好決算のほか増配などの株主還元策を積極的にアピールした銘柄であった。決算発表は、前週末9日現在の発表率が約87%とほぼ一巡したが、業績発表済みの銘柄を再リサーチすることによって、「木を見て森を見ない」個別株物色のターゲット銘柄が発掘できることになる。

 具体的な候補株には、3つのグループがリストアップされそうだ。第1のグループは、業績の上方修正で低PERが顕著になり、増配で配当利回りも市場平均を大きく上回る銘柄群だ。代表は大手商社株で、自己株式取得・消却、上方修正、増配と4拍子揃った三井物産<8031>(東1)を筆頭に丸紅<8002>(東1)、住友商事<8053>(東1)、三菱商事<8058>(東1)と続く。中堅商社、専門商社も負けてはいない。双日<2768>(東1)、兼松<8020>(東1)、神鋼商事<8075>(東1)、菱電商事<8084>(東1)、加賀電子<8154>(東1)などは、むしろ値ごろ妙味では大手商社株を上回る銘柄も少なくない。

 第2のグループは、同様のスタンスで狙える中小型株である。コード番号順に奥村組<1833>(東1)、浅沼組<1852>(東1)、朝日工業社<1975>(東1)、三菱瓦斯化学<4182>(東1)、綜研化学<4972>(JQS)、ユシロ化学<5013>(東1)、黒崎播磨<5352>(東1)、JFEコンテイナー<5907>(東2)、日東工器<6151>(東1)、兼松エンジニアリング<6402>(東2)、パンチ工業<6165>(東1)、昭和真空<6384>(JQS)、三菱自動車<7211>(東1)、ティラド<7236>(東1)、新家工業<7305>(東1)、南陽<7417>(東2)、スズデン<7480>(東1)、リックス<7525>(東1)、ハピネット<7552>(東1)、長野計器<7715>(東1)、シチズン時計<7762>(東1)、バンダイナムコホールディングス<7832>(東1)、レーサム<8890>(JQS)、日本石油輸送<9074>(東1)などが上げられる。

 第3のグループは、究極のディフェンシブ株とも位置付けられる銘柄群だ。日本銀行や年金積立金管理運用独立法人(GPIF)の公的マネーが大株主に名を連ねて、需給が大崩せずしかも業績の上方修正や増配を発表した銘柄だ。具体的にはテルモ<4543>(東1)、アルプス電気<6770>(東1)、アドバンテスト<6857>(東1>、太陽誘電<6976>(東1)、コナミホールディングス<9766>(東1)などが該当する。

 このほか穴株として要注目なのが、昨年12月26日以来ほぼ1カ月半ぶりに再開される新規株式公開(IPO)株である。2月8日に予定していた世紀はIPOが中止となったが、2月23日にMマート<4380>(東マ)、2月28日にジェイテックコーポレーション<3446>(東マ)、3月2日にSERIOホールディングス<6567>(東マ)、3月15日に神戸天然物化学<6568>(東マ)、3月16日に日総工産<6569>(東証・所属部未定)がそれぞれIPOの予定である。「上値にシコリがなく、値動きが軽い」というIPO株投資のセールストークを踏襲すれば、波乱相場下での「救世主銘柄」に浮上して全員参加型の好ダッシュも想定範囲内となってくる。(本紙編集長・浅妻昭治)

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