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【小倉正男の経済コラム】トランプ大統領は『ドル安(円高)プレジデント』か?
- 2018/3/13 15:11
- 小倉正男の経済コラム
■金利上昇でもドル安(円高)
トランプ大統領は、その政策が明らかになるにつれて、「ドル安」ファクターであることが定着している。
開示された雇用統計では、この2月の非農業部門の雇用者は31・3万人と高水準にあることが発表された。ほぼ完全就業状態のなかで、旺盛な雇用増となっている。
ともあれ雇用の強さが確認された。アメリカの景気はかなりよいということの証明であり、インフレを防止するために金利はどうあれ上昇するとみられている。
しかし、金利が上昇の方向なのに、為替はドル高にならないどころか、ドル安になっている。これまでは金利上昇はドル高ファクターだったのだが、いまはドル安ファクターになっている。
賃金の伸びが予想を下回り、金利上昇のペースが少し緩和されるという見方により、一気のドル安は避けられたが・・・。しかし、金利の先高は変わらない。ところがトレンドはドル安である。
■トランプ大統領の政策により財政赤字懸念でドル安に
これはトランプ大統領の政策によって、そうした変化が起こっている――。
法人税減税、個人減税、インフラ投資、軍拡投資、これらは財政の巨額赤字を呼び込みかねない。大量の国債発行を行う可能性が生み出される。大量の国債を消化するには金利上昇が必要になる。マーケットは、そう読みこんでいる。
そんなことで、アメリカは巨額財政赤字で国債格付けが低下すると懸念されるにいたっている。いわばアメリカの国力低下が予見されている。
金利上昇はいまやドル安ファクターになっている。日本にとってみれば、アメリカの金利高は、円高に作用する状態をつくっている。
■保護主義=貿易戦争もドル安(円高)ファクター
鉄鋼25%、アルミ10%という高関税を輸入品に課すというトランプ大統領の「保護主義」もドル安ファクターである。
輸入品は高関税分が値上げされる勘定になる。国内企業も同等の値上げを行うとすれば、鉄鋼、アルミを購入して製品に加工する企業にとってはコスト増要因となる。その分はインフレになる。
コスト増を背負わされた企業は製品加工を諦めて、アメリカを去ることにもなりかねない。
高関税を課せられた相手国が、報復関税を実施すれば、すなわち「貿易戦争」になれば貿易そのものがどんどん縮小していく。アメリカにとっても、もちろん世界にとっても利益はなにひとつない。
この「保護主義」=貿易戦争でもドルは売られ、円が買われる動きとなっている。
トランプ大統領が、「貿易戦争は楽勝だ」とか強がって発信するたびにドル安になる寸法である。反対に「保護主義」が後退するとドル高になる。保護主義は、どこからみてもドル安ファクターということになる。
■トランプ大統領は“ドル安(円高)プレジデント”
トランプ大統領と金正恩委員長の「米朝トップ会談」は、いまのところドル高に作用している。日本の地政学的なリスクが低下し、円安がもたらされている。
円はどういうわけか、トランプ大統領と金正恩委員長の対立や緊張が激化すると買われる傾向となっている。緊張が緩和すると円は売られる。
いまは緊張が緩和しているわけだから、円安のファクターである。ただし、アメリカの財政赤字拡大、金利上昇、貿易戦争といった懸念が横たわっているから、トータルでは「ドル安円高」に振れている。
「米朝トップ会談」もいまは“ハネムーン”みたいな時期であり、夢ばかりが先行している。しかし、会談してみたら破綻してケンカ状態に後戻りすれば、一転してたちまちドル安のファクターになりかねない。
「米朝トップ会談」は、夢は夢でも、悪夢になることもありうる。
先々はなんとも読めないわけだが、後年にはトランプ大統領は“ドル安(円高)プレジデント”と呼ばれることになるのではないか。そんな心配がよぎっているのが昨今である。
(『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(ともに東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(ともにPHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事(1971年~2005年)を経て現職。2012年から「経済コラム」連載。)