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【小倉正男の経済コラム】中朝会談=核とICBMを持ったジレンマ
- 2018/3/30 15:37
- 小倉正男の経済コラム
写真=北朝鮮「労働新聞」HPより
■核とミサイルを持っても恐怖は変わらないという相矛盾
習近平国家主席と金正恩委員長の中朝会談(3月25~28日)が行われているというのに日本は朝から晩まで森友学園問題にからむ“佐川宣寿証人喚問”ばかりだった。
北朝鮮の金一族としては3代目の金正恩委員長にいたるまで、核とICBMを持てばアメリカに潰されないようになる、とそれを遮二無二進めてきた。
金一族による世襲という「国体」を護持できて安全を確保できる“宝剣”が、核とミサイルを持つことであると思い込んできたわけである。
しかし、いざ核とミサイルを持つ、あるいは持つ寸前になっているとなれば、恐怖感も出てくる。
アメリカとしては持たれては困るのだから、それこそ本気で潰しにかかる。北朝鮮としては、持つ寸前、あるいは持てば持つたで、怖いのはひとしおだ。
持たないと怖い――、だが持てばそれはそれでまた怖い――。いまの北朝鮮はちょうどそこにある。相矛盾するが、世の中はそうしたものである。
超音速ステルス爆撃機B1Bにいつ襲われるかわからない状態にあるのだから、金正恩委員長としてもおちおち眠れないのではないか。
■後ろ盾=相矛盾するがそれが現実
日本のメディアからは、中朝会談で金正恩委員長は習近平国家主席に後ろ盾をお願いしに出向いたといった見方が出されている。
米朝会談を控えて、金正恩委員長としては、“後顧の憂い”を取り除いておきたいのは山々だろうがそう簡単ではない。
北朝鮮が、核とICBMを持つという行動を取るというのは、後ろ盾は要らない、自立してアメリカに当たるという表明である。いまさら、後ろ盾うんぬんというのは、これまた相矛盾するわけなのだが、それも現実ということなのかもしれない。
ただし、中国が後ろ盾になってくれるかどうかといえば、そう甘いものではないだろう。中国の意に逆らって核とミサイルを自ら持とうとしたのだから、「後ろ盾、はい、はい、わかりました」、とふたつ返事で中国が北朝鮮を後見してくれるとは思えない。
ただし、習近平主席にとっては、金正恩委員長がいざとなったら結果的に接近してきたのだから悪い話ではない。ともあれ乾杯(カンペイ)というところか。習近平主席は、金正恩委員長にメモを取らせた映像を流して、格の違いを印象づけている。
■核とミサイルを持ったという相矛盾を抱えたという事態
トランプ大統領は、ツイッターで習近平主席から「金正恩氏が私との会談を楽しみにしているとのメッセージを受け取った」ことを明らかにしている。「我々の会談を楽しみにしている」とツイートしている。
トランプ大統領は習近平国家主席との関係の良好さを示して、余裕とまでいえば言いすぎだろうが楽観的なツイートしている。
習近平主席は、トランプ大統領に中朝会談を説明しており、昔のように中国が北朝鮮と寄りを戻したということではないといういまの関係性を示唆している。
中朝会談で、中国は北朝鮮の後見役というオプションを手に入れたようにみえる。だが、核とミサイルを持っているという国を後見するのは、中国にとっても心地よいものではない。トランプ大統領が、習近平主席との連携に自信をもっているのは、北朝鮮の非核化については中国の立場は変化がないとみていることによる。
北朝鮮としては、後がない状態だ。5月の米朝会談がうまくいかなければ、金一族の世襲といった「国体」護持どころではなくなる可能性がある。核とミサイルを持った以上、以前のように非核化を装ってフェイクを重ねて逃げるという芸当が使えなくなっている。
核とミサイルという“宝剣”を手に入れたら入れたで、陥れるジレンマはおのずと生み出されるということではないか。核とミサイルが完成途上なら、フェイクも大目に見逃してくれたが、いまはそうはいかなくなっている。
(『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(ともに東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(ともにPHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事(1971年~2005年)を経て現職。2012年から「経済コラム」連載。)(情報提供:日本インタビュ新聞社=Media-IR)