【小倉正男の経済コラム】トランプ大統領の「貿易戦争」はイグノーベル賞もの

小倉正男の経済コラム

■「貿易戦争」は百害あって一利なし

kk1.jpg トランプ大統領による高関税の「貿易戦争」は世界経済によいことは何ひとつない。それどころか、世界経済に大きな不確定ファクターとして打撃を与えかねない。

 すでにアメリカと中国、アメリカと欧州の貿易摩擦が表面化し、お互いに高関税を掛け合うという最悪の事態に陥りかねない動きとなっている。

 世界経済は縮小し、高関税分は価格を押し上げるから、悪性インフレになる。金利は上昇し、雇用は減少する。株式市場は低迷する。

 思い付きで、シロウトといっては悪いが、市場経済に手を突っ込みコントロールしようとすれば、これは酷いことになるのが通例だ。

 中国では元安となり、株式市場が低下しているが、これも先行き懸念材料になりかねない。日本は中国に電子部品や製造装置などを供給しているわけだから、当然ながら日本経済にも悪影響が及んでくる。

■民間企業への介入=社会主義経済

 欧州も同様で、愚かしい高関税に掛け合いでお互いが苦しむことになる。
そんな状況下、ハーレーダビットソンが高関税を回避するためにアメリカ国外にも生産拠点を設けることを表明している。

 ハーレーが海外に工場を進出させれば、アメリカ国内の部品サプライチェーンが縮小し、雇用も低下する。

 トランプ大統領は、「あらゆる企業のなかでハーレーが最初に白旗を揚げるとは驚きだ。我慢しろ」と、国家が民間企業経営に介入する発言している。これはまるで立派に社会主義経済ではないか。

 これでは、世界経済は縮小し、経済恐慌めいたことが引き起こされるような事態が懸念される。経済が苦しくなると、各国ともポピュリズムが台頭し、またまた身勝手な政策を振りかざすことになる。

■トランプ大統領はイグノーベル賞ものか

 アメリカもそろそろトランプ大統領の「アメリカファースト」というポピュリズムの本質を知るべきだろう。

 世界経済は、まるで第二次世界大戦以前のように自国ファーストで高関税を掛け合うようになれば、それはトランプ大統領が最大の発端にほかならない。

 トランプ大統領は、韓国、ドイツからアメリカ軍を縮小・移転させるといったことをほのめかしている。アメリカのおカネをセーブして使いたくないといったところか。ここでも「アメリカファースト」を振りかざしている。

 それどころか、フランスのマクロン大統領にEU(欧州連合)を離脱して二国間貿易協定(FTA)を結ぶようにそそのかしたというのである。これはドイツのメルケル首相をイラつかせる所業である。

 もうやりたい放題である。ノーベル平和賞どころか、トランプ大統領は、イグノーベル賞ものということになるのではないか。

(『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(ともに東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(ともにPHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事(1971年~2005年)を経て現職。2012年から「経済コラム」連載。)

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