- Home
- 小倉正男の経済コラム
- 【小倉正男の経済コラム】米中貿易戦争:報復の連鎖か、大人の解決か
【小倉正男の経済コラム】米中貿易戦争:報復の連鎖か、大人の解決か
- 2018/7/7 10:30
- 小倉正男の経済コラム
■7月6日=米中貿易戦争が勃発
7月6日、ついに米中貿易戦争が開始された。お互いに340億ドル相当の輸入品に25%追加関税を課すことになった。さらに時期をみて160億ドル相当の輸入品に追加関税を課す予定としている。
日本、アメリカとも、アク抜けとして、株価が騰がる動きがあったということだが、アク抜けというよりややヤケッパチな感がしないではない。本当にアク抜けならよいのだが、むしろアクがどんどん溜まっていくのではないか。
世界のふたつの経済大国が「貿易戦争」に突入するのだから、世界経済は縮小が避けられない。
関税は輸入する側が負担する。関税を負担する側は、確実に売れるモノしか輸入しない。ともあれ関税分は商品価格に上乗せされ、最終的には消費者がそれを負担する。
しかし、25%の高関税を価格に上乗せして確実に売れるモノは、この世界に多くは存在しない。
■ダイムラーの下方修正
貿易戦争に勝者はなく、それだけではなく当事国のみならず、すべてを敗者にしかねない。
米中経済の相互に大きな損出が出る。トランプ大統領としたら、ブラフを掛ければ、習近平国家主席が白旗を掲げると思っていたのだろうが、引っ込みがつかない事態となっている。アメリカでは、貿易戦争で景気が低下するという懸念が生まれておる。
すでにダイムラーが下方修正を発表した。これはダイムラーが、アメリカ工場で生産したスポーツタイプの多目的車を中国市場で販売しているのだが、高関税により売れ行きが鈍化するということを理由としている。
そうなれば、アメリカでのダイムラーの雇用にマイナスの影響が出かねない。アメリカでは、貿易戦争の影響で金利上昇のスピードが緩和されるのではないかという見方が出ている。つまり、アメリカの景気は鈍化するとみられているのだ。
中国もアメリカへの輸出にブレーキがかかるのだから、強化を進めていた「中国製造2025」などの設備投資が減速するという影響が出るだろう。
トランプ大統領が撒いたタネなのだが、米中が相互に貿易戦争を継続・拡大するのならば、世界経済はシリアスなことになりかねない。
■「アメリカファースト」=ポピュリズムのもたらすもの
米中の貿易戦争で、日本は漁夫の利を得るという話があるが、そう甘くはない。
トランプ大統領は、日本にも高関税などをかけてくる可能性がある。
それに中国が設備投資を手控えれば、工作機械・製造装置・電子部品を供給している日本によいことはない。
中国が、アメリカのボーイングに発注するとしている旅客機にしても、中国が報復としてキャンセルすれば、ボーイングの旅客機製造の「下請け」を担っている日本にマイナスが発生する。世界経済は縮小の悪循環に陥ることになりかねない。
中国にしても、欧州にしても、愚かしい貿易戦争が継続・拡大すれば、経済パニックが起こる可能性もある。
報復が報復を呼ぶような事態になるのか、大人の解決に向かうのか。現状は、「アメリカファースト」というポピュリズムのアクが抜けるどころか、溜まるばかりとなっている。
(『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(ともに東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(ともにPHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事(1971年~2005年)を経て現職。2012年から「経済コラム」連載。)