【どう見るこの相場】波乱は収拾か?風雲孕む真夏のイベント相場は自己株式取得関連株にアクティブ対処も一考余地

どう見るこの相場

 「日本銀行は仕手本尊に似ている」などと戯言を言ったら、たちまち黒田東彦日銀総裁に「たわけ者!」と一喝されるに違いない。日銀といえば、いやしくも「物価の番人」で「最後の貸し手」を任ずる「銀行の銀行」、れっきとした中央銀行である。それをあろうことか、兜町でこれまで数々の修羅場を演じ、不祥事さえ引き起こしてきた仕手株相場の「仕手本尊」になぞらえるなど不謹慎極まりないということだろうか。

 しかしである。重箱の隅を突っつくような細かいことに注目していわせてもらえれば、日銀も仕手本尊も、その「出口戦略」に苦しむところでは同列のはずだ。仕手本尊は、買い集め、買い占めた株式をいかに高値で売り抜けるか、誰に肩代わりさせるかが、最大で最後の勝負所で、これにしくじった途端に自ら買い占めた株式の重さに圧し潰され、場合によってはその後、仕手本尊が塀の中に落ちたり、消息まで不確かになる末路さえも稀ではない。日銀も、黒田総裁が就任した直後の2013年4月に導入した異次元金融緩和策が、以来5年余を経過、物価目標の2%達成はなお遠く、金融機関の収益低下や株価形成のゆがみなど副作用ばかりが目立ってきて、「出口戦略」を模索しているのではないかと憶測が渦巻いてきている。この動向次第では、あの2013年4月の記者会見で「戦力の遂次投入はしない」と大見得を切って打ち上げた「黒田バズーカ砲」の正否さえ問われ兼ねない。

 なかでもマーケットが心配しているのは、きょう7月30日と明31日の2日間にわたって開催される金融政策決定会合の動向である。同会合を前に大手プレスが、ゼロ金利政策の柔軟化やETF(上場投資信託)の買い入れ方針の変更などを観測報道し、関連株の株価が上へ下へと乱高下したからだ。柔軟化報道では、長期金利の引き上げを容認するとして為替相場が、円安から円高に一変するとともに、メガバンク、地銀を含めて金融機関の株価が軒並み急伸し、日銀が長期金利上昇の抑制のために国債の買いオペレーションを実施すると、今度は株価がいっせいに急落した。

 ETFの買い入れ方針の変更では、日経平均よりTOPIX(東証株価指数)に連動するETFの買い入れウエートを高めると観測報道されたことから、日経平均株価の寄与度の高いファーストリテイリング<9983>(東1)やソフトバンクグループ<9984>(東1)などの値がさ株の株価が急落した。日経平均型ETFの買い入れは、NT倍率の拡大のゆがみや、個別企業のファンダメンタルズに基づかない株価指数連動型のパッシブ運用を偏重させ個々の企業のコーポレートガバナンスの欠如につながり兼ねないなどの副作用が以前から指摘されており、これが観測報道のベースとなった。

 まさに日銀は、仕手本尊と同様にその一挙手一投足が市場の最大焦点となっているのである。ただこのETF買い入れ方針の変更は、必ずしもマイナスばかりではない。値がさ株の急落と同時に、小型株に株価の動意付く銘柄が増えたからだ。折からマーケットでは、四半期決算の発表がスタートし、業績の上方修正をした好業績株や自己株式取得を発表した好需給株などが、素直に買い評価されたからで、個人投資家が、自らの投資判断でリスク・オンに動いた結果でもある。株価指数の上値の重さとはウラハラに、値上がり銘柄数が値下がり銘柄数を上回ったことも喜ばしことで、ここは逆にパッシブ投資の影で冷や飯を食っていた個別銘柄物色のアクティブ投資のチャンスが広がり、腕の見せ所となるかもしれないのである。

■自社が筆頭株主と際立つ積極取得会社の四半期決算・本決算発表をまずマーク

 前口上が長くなって恐縮だが、そこで今週の相場見通し、相場対処である。足元の相場スケジュールは、この7月第4週と8月第1週は、内外で重要イベントが相次ぐ。日銀の金融政策決定会合に続き、8月1日までFRB(米連邦準備制度理事会)のFOMC(公開市場委員会)が開かれ、8月2日は、英国の金融政策が発表され、3日にはGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の4-6月の運用報告や米国の7月の雇用統計がそれぞれ発表されるなどと続き、どれも相場にインパクトを与えそうで、8月5日には例年、夏の閑散相場の呼び水となる高校野球の甲子園大会も開幕する。

 FOMCでは、世界最大の仕手本尊とも叙せられるトランプ米大統領に政策金利の引き上げに関してクレームをつけられたFRBが、いかに「出口戦略」の正当性を担保するか全世界がかたずをのんで見守っている。これに先立って進んだ米国の主要企業の決算発表でアマゾンが上場来高値を更新する一方で、フェイスブック、インテル、ツイッターの株価が揃って急落したことも気掛かりだ。この波乱か収拾か予測が難しいイベント相場をどう乗り切るか?日銀、GPIFと並び国内勢では三大買い需要主体の一角に顔を並べる自己株式取得に積極的な銘柄の四半期決算発表をアクティブにマークするのも、小型株の選別物色でやや元気の出てきた個人投資家の投資チャンスを拡大させる有効な対処法として浮上しそうだ。

 自己株式取得は、マーケットに出回る株式数を減らして1株利益の価値を高め株主への利益還元策を積極化するとともに、自社の資本効率を向上させるために実施されているもので、前年度の2017年度も取得総額は約4兆4000億円に達したと推定され、2016年度の約4兆6000億円より減少したものの高水準を維持した。日銀のETF買い入れは、年間6兆円規模となっており、これに迫る買い需要主体になっている。今年5月16日に成立した産業競争力強化法改正案では、自己株式を対価にしたM&Aによる事業再編も全面解禁されており、成長戦略としての注目度も高まってくる。

 この積極的な自己株式取得は、上場企業の約1割が、自社が筆頭株主となっている事実にも表れている。そこでまずマークしたいのが、自社が筆頭株式と際立っているとともに、今年7月に年初来安値まで売られたばかりの銘柄の四半期決算発表である。ジョイフルフル本田<3191>(東1)は、自社の保有比率が前期末で32.7%と筆頭株主で、7月11日に年初来安値1562円へ売られ、今年8月3日に前2018年6月期決算を発表予定である。フクダ電子<6960>(JQS) も、保有比率は21.9%に達し、7月2日に年初来安値をつけ明7月31日に今2019年第1四半期(2018年4月~6月期)決算を発表予定である。またヤマダ電機<9831>(東1)は、今年6月25日につけた年初来安値533円から底上げを窺っており、8月2日に四半期決算を発表予定だ。このほか同様に8月2日に四半期決算発表の淀川製鋼所<5451>(東1)、8月17日に前2018年6月期決算を発表予定のあいホールディングス<3076>(東1)も注目される。

■総還元性向を利益還元方針に掲げる第2グループでは「第2のメルコHD」をスクリーニング

 これに続いて注目したい第2の自己株式取得グループは、自己株式取得の取得枠と配当を合計した総還元性向を株主還元策の目標に掲げた銘柄である。メルコホールディングス<6676>(東1)は、総還元性向80%を目標に掲げ、前週の7月26日に今2019年3月期第1四半期決算とともに自己株式取得(取得株式数300万株、取得総額125億円)を発表し、翌27日に年初来高値へ急伸し、東証第1部値上がり率ランキングの第11位と人気化しており、この「第2のメルコHD」探しである。今年8月9日に今3月期第1四半期決算発表のトーヨーカネツ<6369>(東1)、同じく7月30日に第1四半期を発表のデクセリアルズ<4980>(東1)などが候補株として浮上する。

 このほか、総還元性向を株主還元方針に掲げるUTグループ<2146>(JQS)、味の素<2802>(東2)、アサヒグループホールディングス<2502>(東1)、TOKAIホールディングス<3167>(東1)、三井化学<4183>(東1)、宇部興産<4208>(東1)、第一三共<4568>(東1)、フルキャストホールディングス<4848>(東1)、ユニオンツール<6278>(東1)、西日本フィナンシャルホールディングス<7189>(東1)、サンゲツ<8130>(東1)、SOMPOホールディングス<8630>(東1)、第一生命ホールディングス<8750>(東1)、さらに少し古いが週刊東洋経済の2016年6月11号の総還元性向ランキングで第131位にランクインしたと自らアピールしたメイテック<9744>(東1)などもスクリーニング対象となる。
(本紙編集長・浅妻昭治)

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