【どう見るこの相場】「山より大きい猪は出ない」なら東証マザーズ市場の2017年IPO株に市場再興の牽引役を期待

どう見るこの相場

 日経平均株価は、今年8月28日と30日の取引時間中に2万3000円台にタッチしたあと、2万2000円台へ撃退されてしまった。今年5月、6月に続き3回目で、こうも続くと2万3000円が心理的な節目として余計に意識され、戻り売りや目先の利益確定売りなどのリスク回避スタンスが優先し、上値はさらに重く感じられてくる。

 というのも相場環境は、9月相場も前途多難であるからだ。懸念材料が山積みとなっている。米国の中国製品2000億ドルへの制裁関税第3弾の発動、トルコ問題に端を発した新興国通貨の急落、米国とカナダの北米自由貿易協定の再交渉、日本と米国の経済協議、さらに国内でも20日に自民党の総裁選挙を控えるなど株価を大きく揺さぶる難問ばかりが目につく。投資セオリーでは、事前に想定される悪材料(好材料)はすでに株価に織り込み済みとするのは常識となっており、予想(理想)で売って(買って)、現実で買う(売る)ケースは、今年も何回も繰り返され、9月相場もこうした株価特性の発揮を期待したいものだ。ただ厄介なのは、こうした懸念材料の震源地が、すべて米国のトランプ大統領にあることである。

 兜町では昔から「山より大きい猪は出ない」と言い交して過度の警戒感を戒め、底なし沼の株安への恐怖心を抑えてきた。しかし、トランプ大統領が、今年11月の中間選挙に向けてツイッターでのつぶやきをさらにエスカレートさせるようだと、ことによると、山より大きい猪が出てこないとも限らず、さらに弱気相場のシンボルの「熊(ベア)」まで引き連れてくるかもしれないから油断ができないのである。

 こうした9月相場で、「山より大きい猪は出ない」とほぼ明らかになってきつつあるのが、東証マザーズ市場である。東証マザーズ指数は、東京市場の5つの株価指数のうち、ひとり独歩安で年初来安値追いとなったが、この要因の多くを占める時価総額第1位、第2位のメルカリ<4385>(東マ)とMTG<7806>(東マ)の新規株式公開(IPO)以来の株価下落が、公開価格目前の上場来安値でようやく止まったからだ。9月相場では、IPOが2日に1社のペースで再びラッシュとなり、既上場株からの乗り換えの売り物が出て株価下押し圧力となるものの、逆に新規投資資金流入の呼び水となる可能性もあり、メルカリ、MTGの下げ止まりと合わせれば、「山より大きい猪」というほどではない。とすれが、早めに調整を終えた東証マザーズ銘柄は、9月相場の活躍銘柄の候補株に浮上するはずである。なかでも2017年にIPOされた東証マザーズ銘柄は、不振を極めた東証マザーズ市場からあのかつて日本の男子バレーボールの得意技だった「ひとり時間差戦術」ばりの「ひとり東証マザーズ脱出作戦」を推進中の銘柄もあり、市場再興の牽引役としてより注目度のアップが予想される。

――――上場49社中の5銘柄がすでに東証第1部に市場変更し4銘柄も同様の立会外分売を実施――――

 2017年のIPO市場は、東証マザーズ銘柄の当たり年となった。全上場90社中のうち49銘柄が東証マザーズ銘柄で占められ、初値倍率トップは、6.16倍のジャスダック市場のトレードワークス<3997>(JQS)に譲ったものの、トップ10位には8銘柄がランクインし、初値倍率が3倍、4倍、5倍となった銘柄が続出したことが第一である。さらに注目すべきは、IPO後のセカンダリーでの株価意識の高さである。株式分割や自己株式の立会外分売を繰り返しIPOのほぼ1年後に東証第1部への市場変更を実現した銘柄が続出した。

 具体的に東証第1部への市場変更を実現した銘柄は、時系列的にレノバ(9519)(東1)、ビーグリー<3981>(東1)、力の源ホールディングス<3561>(東1)、オロ<3983>(東1)、ツナグ・ソリューションズ<6551>(東1)の5銘柄である。このうちオロは、IPOの4カ月後に株式分割を実施し、東証第1部変更の形式要件充足のために2回、自己株式の立会外分売を実施し、レノバは、東証1部に市場変更後に2回、株式分割を実施し、いずれも株主重視姿勢と株価意識の高さを示した。

 このため東証第1部市場変更株に続いてまず注目されるのが、同様に株式分割と自己株式の立会外分売を実施した銘柄となる。グローバル・リンク・マネジメント<3486>(東マ)、ジャパンエレベーターサービスホールディングス<JESHD、6544>(東マ)、Game With<6552>(東マ)、ファイズ<9325>(東マ)である。グローバル・リンクは、すでに今年6月に今2018年12月期中の市場変更を申請しており、JESHDは、形式要件充足のために2回、立会外分売を実施済みで、今月9月30日を基準日に2回目の株式分割(1株を2株に分割)を予定しており、分割権利取り妙味を示唆している。

――――予備軍は今年9月末にIPO以来2回目を予定するテモナなど株式分割実施の15銘柄――――

 この有力4銘柄に続くのが、すでに株式分割を実施し今後、同様の展開が有力視される予備軍ともいうべき15銘柄である。コード番号順に列挙するとティーケーピー<TKP、3479>(東マ)、ロードスターキャピタル<3482>(東マ)、テンポイノベーション<3484>(東マ)、アセンテック<3565>(東マ)、テモナ<3985>(東マ)、シェアリングテクノロジー<シェアリングT、3989>(東マ)、ウォンテッドリー<3991>(東マ)、SKIYAKI<3995>(東マ)、サインポスト<3996>(東マ)、ナレッジスイート<3999>(東マ)、インターネットインフニティー<6545>(東マ)、エスユーエス<6554>(東マ)、ウェルビー<6556>(東マ)、シルバーライフ<9262>(東マ)、一家ダイニング・プロジェクト<9266>(東マ)となる。

 このうちテモナは、JESHDと同様に今月9月30日割り当てで2回目の株式分割(1株を4株に分割)を予定し、今年8月5日を基準日に株式分割(1株を3株に分割)を実施したシェアリングTは、株式分割の目的を株価を昨年8月3日のIPO時の公開価格1600円近傍に引き下げるためとコメントし、同時に自己株式取得も発表した。またTKPは、大塚家具<8186>(JQS)と資本業務提携し、大塚家具の経営再建の有力なスポンサー企業として脚光を浴びているほか、貸会議場やホテルなどの建設用地を積極取得する成長戦略を推進中だ。

 これら合計24銘柄の株価は、株式分割の権利落ちを完全に埋め上場来高値を追っている銘柄、権利落ちを勘案して実質で上場来高値水準にある銘柄、分割権利落ち後の安値を固めている銘柄など様々だが、独自ビジネスモデルによる成長可能性については、IPO時の高人気によって証明済みであり、東証マザーズ市場再興をリードしそうだ。(本紙編集長・浅妻昭治)

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