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【小倉正男の経済コラム】「中国製造2025」をめぐる米中貿易戦争
- 2018/9/6 10:24
- 小倉正男の経済コラム
■アメリカは追加関税を相次いで発動
米中貿易摩擦が相変わらず燻っている。というか、トランプ大統領がブラフをかけまくっている。トランプ大統領は、近々にも、中国からの輸入品2000億ドル相当に追加関税第三弾を発動するという見通しである。
中国の習近平主席としても、トランプ大統領がやたらと強硬なだけに下手に屈するわけにもいかない。ただ、どこかで対話に持ちこみ、妥協点を探るのではないかとみられる。中国としても相次ぐ追加関税措置は無視できないこところにまで来ているのも確かだ。
トランプ大統領には、不動産ビジネスのディール感覚で押し捲るような政治手法が目につく。――物件を売るときは高く、買うときは安く、といった調子で極端なブラフも当たり前に使用する。
大国のトップとしてあまり品があるやり方ではないが、トランプ大統領にいまさら品を求めても無意味であるに違いない。習近平主席としても、自国の株や通貨が下落し、このまま貿易摩擦を引きずるわけにもいかない。暴に対して暴ではなく、猛獣をあやすような手に出るしかないのではないか・・・。
■「中国製造2025」という野心
中国がいま国策として推進しているのが「中国製造2025」である。
中国は安い労働力を使ってハイテク製品をつくって輸出しているのだが、半導体を筆頭に根幹となる部品は日本、ドイツ、韓国などから輸入している。根幹部品を輸入してアセンブル、いわば組み立てている状況にとどまっている。
それらのキー部品を内製化して自前のハイテク製品をつくるというのが「中国製造2025」である。国が巨額補助金を惜しむことなく注ぎ込んで、新規の半導体工場、液晶工場を次々と設備投資して稼動させている。
日本の関連企業にいまそのあたりを聞くと、「半導体は品物がない状態が続いているし、半導体製造装置への需要も旺盛。世間では液晶の需要が良くないとか言われているが、関連の製造装置の需要は強い。いずれも中国向けだが、企業でいうと中国だけではなく、韓国、台湾企業からの受注もあり、韓国、台湾も中国の工場で設備投資している。当てにはしていないが、中国の設備投資需要は2,3年続くとみている」としている。日本企業は、いま現在は根幹部品やその製造装置を中国に売って潤っているわけである。
日本は保育園に補助金をふんだんに注ぎ込んでいるわけだが、中国はハイテクの根幹部品の内製化の補助金を注ぎ込んでいる。いずれ日本は中国から半導体、液晶などハイテクの根幹部品を輸入しなければやっていけなくなるのではないか――。中国は、2025年に向けてそうした事態を巻き起こそうと、野心的な国策を進めているわけである。
■トランプ大統領は「中国製造2025」はフェアではないと批判
トランプ大統領は、この「中国製造2025」をフェアではないと俎上に上げている。中国には不透明なところがあり、トランプ大統領も理屈が通っていないわけではない。
確かに、中国は、国・地方政府が根幹部品生産に巨額補助金を注ぎ込んでいる。中国企業は、設備投資を賄う膨大な長期資金を借り入れるといった負担を背負わないで半導体、液晶などの内製化に踏み出しつつある。これではフェアな市場競争にはならない。
トランプ大統領は「中国製造2025」をやめろと言っている――。トランプ大統領は、中国はタダ同然でつくった半導体を世界に輸出する気か、それはフェアではないとしている。高関税は当然の報いというわけである。
中国は中国で、「我々にも成長する権利がある」、と反論。根幹部品を日本、ドイツ、韓国から買ってアセンブルしている現状に甘んじるわけにはいかない。ここはアメリカファースト、中国ファーストのガチバトルとなっている。
「貿易摩擦」というよりは「貿易戦争」といった側面もある。臆面もなく自国ファーストを主張するとすれば、それこそなかなか落しどころが見えなくなる。もっとも、ディールであるとすれば、どこかで両者が折れ合って妥協に向かうとみるべきなのだろうが・・・。
(『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(ともに東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(ともにPHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事(1971年~2005年)を経て現職。2012年から「経済コラム」連載。)