【新製品&新技術NOW】花王:新年に商品化を目指す5つの技術イノベーション

「オープンイノベーション」を表明して新領域の技術にチャレンジ

5つの技術イノベーションを公開

花王<4452>(東1)は、トイレタリー・家庭用品のみならず化粧品でも大手の座を占めている強力な総合企業である。その花王の澤田道隆社長は、「今後の花王グループを支える技術イノベーション」として5つの画期的な新技術を明らかにしている。

以下に紹介するのが5つの新技術である。
1,皮膚・繊維の本質(Fine Fiber) 2,健康・皮膚の本質(解析)(RNA Monitoring) 3,毛髪・皮膚の本質(Created Color) 4,界面・環境の本質 5,(Bio los)、環境・容器の本質(Package RecyCreation)――。また、花王はこれらの境界領域の新事業は、この5つの技術とは別に準備中としている。

「花王は50を超える基礎研究を行っている。今回はそのなかから選りすぐって5つの新技術を発表する。この5つの新技術は2019年中にすべて商品化する」
澤田社長は5つの新技術を明らかにし、商品化のスケジュールは新年であることを公約した。

■従来になかった新次元の人工皮膚

5つの新技術イノベーションを以下に少し詳細に論じてみることにする。
「皮膚・繊維の本質」(Fine Fiber)では、オムツなどに応用している不織布研究を突き詰めていくと、従来のナノファイバーを大きく超えた極細繊維の「ファインファイバー」といった新領域に到達する。極細の繊維を肌表面に吹きかけて人工皮膚膜を形成する。「これまでの人工皮膚にはなかった通気性、通湿性、凹凸追従性、屈曲性などを実現できる。新次元のイノベーション」(澤田社長)としている。

花王がつくった極細のファインファイバーは、花王が過去につくってきた人工皮膚を大きく超えている。かつてどの会社も実現できなかったスキンケアができるようになる。吹きかけるだけで、人工皮膚に見えない、自然な皮膚に見える、しかも持続性や耐久性を兼ね備えているといったことが可能になるとしている。

この新技術を製品に応用するとスキンケアメイクなどの化粧品分野でシワ対策など従来次元を超える商品を生み出すことができる。医療面でも皮膚の改善を促進することが可能になる。


花王 Fine Fiber技術 Kao Fine Fiber Technology

■細分化された個々の顧客に最適な商品を提供

「健康・皮膚の本質」(RNA Monitoring)は、DNAがヒト固有の設計図であるのに対して、食生活、運動、気候、環境といった生活習慣などで後々つくられるヒト形成の設計図であるRNAの研究によるもの。RNAをモニタリングすることで健康と美に貢献する研究を行っており、これは世界で最初の試みとなる。RNAモニタリングは皮膚の本質研究から花王が発見したやり方だ。RNAタンパク質は脂取り紙でいつでもどこでも採取が可能だ。RNAのモニタリングは簡便な手法なのだが、それによりそれぞれの人の皮膚の状態や変化、未来を予見できる。人の目に見えない皮膚の中の状態も判定できる。

RNA採取で皮膚データを取って、それぞれの人に向けて最適な化粧品を提供できるようなやり方が実現できる。個々のお客に最適な個人向けのカスタマライズされた化粧品を提供することが可能になる。また、医療面では皮膚関連のアトピーなどの予防・治療、難病などの予防・治療への応用も期待されている。

■ヘアカラーや洗剤でこれまでの常識を超える

「毛髪・皮膚の本質」(Created Color)は、ヘアカラーを大きく進化させて、ヘアカラーを安全に自由自在に自然な色に染められるようにする。毛髪のメラニンの研究から、簡単簡便に自然で鮮やかなヘアカラー染色を可能にする。メラニンを自由自在に操ることで、これまでの既製の毛染め染料ではできなかったヘアカラーの新次元を実現する。

風呂場で普通のコンデショナーとして使い、思い通りに髪が染められる。毛髪のメラニン研究からヘアカラーを進化させて、自然な髪のカラーを簡単に実現できるようにする。

「界面・環境の本質」(Bio los)では、これまで未使用のバイオマスを使って、洗うということのこれまでの一般常識を打ち破る界面活性剤・新洗浄剤を生み出すとしている。花王の研究開発担当者は、「洗うということの常識を変える界面活性剤でいままでにない洗浄を実現する」と表明している。たったひとつのバイオマスによる界面活性剤で汚れだけ選択して洗浄する「ターゲット洗浄」もできる。洗うことで汚れや菌が増えないような表面をつくり、洗うほどに洗浄力が高まるといったようなことを実現する。ここでもかつてない新しい洗浄剤をつくり出す、「洗うということを変える」と宣言している。

「環境・容器の本質」(Package RecyCreation)は、詰め替え用などプラスチック容器の再生利用技術の提案である。リサイクルできるフィルム技術の研究開発を進めて、「すべての容器をムダにしない、すべての容器を捨てさせない、というリサイクルを生み出す。回収しやすい、しかも簡単に高レベルで再生利用のできるフィルムを開発する。再生利用により100%のリサイクルを可能にする」。花王は環境にケアして、プラスチック容器の再生利用を世界に提案する意向である。

■「オープンイノベーション」で技術革新を迅速化する

澤田社長は、5つの技術イノベーション公開と同時「オープンイノベーション」という考え方を明らかにしている。「花王は自前主義で自社内部だけで製品の出口を決めてきたが、そうしたやり方を変える。花王の技術をオープンにして、社会の変化に対応して製品の出口を広げる。技術革新のスピードを上げる」と宣言している。狙いは、花王をより「社会的に価値のある企業」にしていくというものだ。

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花王株式会社 代表取締役 社長執行役員 澤田 道隆 氏
 

「オープンイノベーション」は、花王にはこれまでなかった考え方である。そればかりではなく、花王が持ち続けてきた「自前主義」とは趣を異にする発言である。

少し説明すると、花王の「自前主義」とは以下のような考え方である。長期政権だった丸田芳郎社長の時代、自前主義=垂直統合という経営路線が追求された。製品の原材料を自前でつくり、自前で製品化し、物流から販売までも自前を目指す。川上から川下まで自前を貫くという会社を構築したわけである。これが花王のほかの有力会社にはない「強さ」を形成してきた。だがその一方で自前主義は、企業体質の自己完結性による閉鎖的な企業体質などマイナス面も生み出してきた。

澤田社長は、この花王の旧来からの川上から川下までの自前主義を転換すると発言している。

「これまでのような考え方ではダメだ。外部との技術の共有化で技術の出口はこんなものがあるのではないか。そうした思いもしなかった出口があるはずだ。オープンイノベーションで技術を共有化して、商品の出口をもっと広げなければならない」

澤田社長によれば、自前主義はこれまでのマス・マーケットに対応することはできた。だが、いまの細分化されたマーケットでは、自前主義では対応できないという強い危機感を持っている。「新しいチャレンジになるが、花王は技術をオープン化して外部と技術を共有化する。外部との共有化で技術をこんな使い方ができるという新しい出口を見つける。オープンイノベーションで変化に対応する商品を提供できるようにする。外部との共同研究は進めており、マス・マーケットだけではなく、スモールマス、パーソナライズ、ワントゥワンなど様々な細分化された需要に対応した商品供給を進めていく」

■自ら変わることで技術の新次元・新領域を目指す

花王は、新年に商品化してマーケットに送り出す前に、花王が進めている技術イノベーションの内容を明らかにすることで、外部の企業や研究者とのコラボレーションを積極化させるとしている。「オープンイノベーション」を行うことで花王は自前主義を転換して、これまでのやり方を変えるというのである。

澤田社長は、5つの新技術イノベーションを公開するにあたり基礎研究の重要性をあらためて強調している。

「花王は、最近ではマーケティングの会社に思われたりしている。それに対して何も発言しないできた。花王はマーケティングの会社でもあるのだが、花王は技術イノベーションの会社だ。泡研究から石鹸が生み出され、界面活性剤研究から洗剤アタックが生まれ、不可能といわれたことを可能にしてきた。不織布研究からはベビーオムツのメリーズや床掃除のクィックルワイパーを市場に出してきた」

澤田社長は、花王の製品開発の歴史を顧みながら、これまでの花王の基礎研究の重要性を強調している。そして、あらためて「花王は技術イノベーションの会社である」と確認している。そうした確認を前提にして澤田社長は、「オープンイノベーション」というこれまでにない方向に踏み出すとしている。澤田社長は、その理由をこう語っている。

「花王は、イノベーションカンパニーであることを表明する。そして技術をオープン化して、外部と共有化する。自ら変わらなければ取り残されるからだ」

澤田社長は、花王の技術をオープン化して、外部の技術とのコラボレーションで新しい領域を切り開いて生き残りを目指すと今後の経営戦略の方向性を明らかにした。さらに澤田社長は、花王の企業体質として定着してきた自前主義=垂直統合の変更に着手すると宣言している。花王が、「オープンイノベーション」というベクトルに舵をきったのは、花王が抱えてきた自前主義の変更に一歩を踏み出すという「画期」を意味している。自ら変わることで技術の新領域・新次元を目指すというのだから、新年の花王から目を離してはならない。

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