【小倉正男の経済コラム】ふるさと納税:『泉佐野の乱』

小倉正男の経済コラム

■国(総務省)は泉佐野市にレッドカード

 国(総務省)と泉佐野市のバトルが酷い状態になっている。

 国は、ふるさと納税の返礼品は地場産品に限定しろ、返礼率は寄付の30%以内にしろ、としている。さらに自治体のふるさと納税の寄付受け入れ総額は上限で年50億円にしろ、と。

 そのうえで、泉佐野市はふるさと納税から除外すると発表された。いわば、国は泉佐野市にレッドカードを突き付けた格好である。

 国は、一部の地方自治体(泉佐野市)が過剰な返礼品に走り、それが地方自治体間にアンフェアを生んでいるとしている。
 返礼品を厳密に地場産品に限定して、30%以下の返礼率にしている地方自治体は、一般的にいわゆる過剰な返礼品に勝てないからアンフェアであるというわけである。

 国にも問題があった。国は、行政指導、すなわちワンウェイの「通知」一本やりで地方自治体に指示を出してきた。仮にも国は間違うことはないから、地方自治体は国の指示に従っていればよいというやり方である。

 地方自治体の多くは、通知の文面や回数で、「これは本当に本気だな」「これは本気ではないな」、と読んで察知してきた。
 昨18年あたりに地方自治体で取材していると、「総務省の通知はかなり本気だ」という見方が多かった。確かに、泉佐野市のふるさと納税からの除外などを目の当たりにするとその読みは正しかったことになる。

■「企業努力」に取り組み過ぎたのか?

 泉佐野市は、地場産品といえばタオル、そして水なす、玉ねぎの農産物である。タオルは繊維製品で不況に晒されている。泉州水なす、泉州玉ねぎは相当に美味しいが、ふるさと納税品としては渋すぎるかもしれない。

 ブランディングされた魅力のある地場産品があるかないかは、ふるさと納税の最初のアンフェアだ。
 牛肉でいえば、神戸牛、飛騨牛、近江牛などブランド化された返礼品がある地方自治体は優位に立つことになる。海産物、お米、お酒なども同様だ。これらの優位にある地場産品であれば、返礼率30%以内でもいわゆる過剰返礼品に余裕で勝てるわけである。

 泉佐野市は、そうしたブランドが確立された地場産品がないから知恵と工夫の「企業努力」でふるさと納税に取り組んできたとみられる。あるいは、過剰というか「企業努力」に取り組み過ぎたのかもしれない。

 500億円といわれるふるさと納税額は凄すぎるのは間違いない。地場産品だけでこれだけの寄付を集められるのか。
 地場産品、返礼率30%以内というのは確かに曖昧で問題はないではない。だが、500億円という金額は、通常の地方自治体の年間予算を大きく超えている。そこに弱みがありそうだ。

 それだけ稼いでいるのなら、本来なら、泉佐野市は同市の住民に減税で還元しなければならないという問題を孕みそうだ。
 あるいは、これだけのバイヤーとしての仕入れ能力があり、納入業者を組織化しているのだから、この経営力を何かに生かせないものか。

■税は国や地方の形を決める基幹ファクター

 明治維新政府は、藩=地方にあつた徴税権を国に移した。それを断行したのは内務卿の大久保利通だ。「版籍奉還」「廃藩置県」「秩禄処分」――、当然ながら既得権を奪われた地方で士族の反乱が起こるが、そうした経過からいまの地方交付金交付税というやり方が生み出されてきたわけである。

 徴税権が移る時は揉めるのが常だ。鎌倉幕府が、朝廷・公家から徴税権を完全に奪取したのは承久の乱を経てということになる。どうしても乱を経ることになる。

 国(総務省)と地方(泉佐野市)のふるさと納税をめぐるバトルは、双方とも本気でありこれまでにない現象である。
 「泉佐野の乱」、ここまで来た以上は日本の地方自治のためにもどこに問題の本質があるのかを炙り出してほしい。

 「税」というのは、古代は稲で収めたので「のぎへん」なのだという説がある。稲で収めようが、おカネで収めようが、税は国や地方の形を決める基幹ファクターであり、それに揉めるファクターでもある。

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)

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