【小倉正男の経済コラム】RIZAPLAB:低酸素トレで湘南ベルマーレの体幹強化

■湘南ベルマーレのトレーニング・食事をサポート

 RIZAPLABは、RIZAPグループ(2928・札幌アンビシャス)の基幹会社といえるRIZAP株式会社(以下RIZAPと表記)のアスリート向けパフォーマンス支援ラボラトリー(研究機関)である。

 RIZAPは、一般のボディメイク、フィットネスで自社メソッドを積み上げてきたが、それをアスリートに応用するトライアルとしている。
 LABは、この19年1月に始動を開始して半年が経過しているが、とりあえず担当しているのはRIZAPグループが資本出資している湘南ベルマーレのサポートである。

 湘南ベルマーレは、明治安田生命J1リーグのサッカーチームだ。昨18年にはYBCルヴァンカップで優勝を果たしている。
 LABでは、湘南ベルマーレがシーズン前は低酸素トレーニング、フィジカルトレーニングなどを行い、シーズンイン後はスピードトレーニング、コンディショニングなど調整に活用してきている。
 LABには、当初から湘南ベルマーレ専用トレーナー2名が張り付いており、今後さらに1名が追加される見込みである。管理栄養士1名も常勤に近い形態で担当して湘南ベルマーレの選手たちの毎食の食事指導も行っている。

 RIZAPの幕田純教育開発部長は食事指導についてこう語っている。
 「食事や栄養の指導は、アスリートは食事が基本的に大切なのはわかっていても、理解が浅かつたり、ついつい食事管理が疎かになりやすい面があるためだ」
 トレーニングはもちろん最重要案件だが、食事のサポートも同じぐらい大切であるというわけである。

■湘南ベルマーレの体組成・パフォーマンスがアップ

 LABは、湘南ベルマーレのトレーニング、栄養サポートで体組成・パフォーマンスで成果を出している模様だ。

 19年シーズン中(5月)時点の湘南ベルマーレの体組成は、筋肉量で61.9kg(19年シーズン前・1月60.6kg)、体脂肪率10.5%(同12.9%)に向上している。これらは湘南ベルマーレの怪我人2名を除く30名の平均値のデータによるものとしている。
 パフォーマンスは、19年シーズン試合平均でゴール1.3(18年シーズン試合平均1.0),シュート13.3(同11.9)、タックル22.6(同19.8)、攻撃回数125.2(同123.2)、ボール支配率46.
3%(同44.5%)とやはりアップしている。

 LABのような存在は、J1の他のチームにはなく、いわば先駆け的な試みであり、その成果が注目されていたのは事実だ。

 「RIZAPメソッドの応用によるトレーニングで体組成・パフォーマンスの多くの項目で向上がみられる」
 幕田純教育開発部長は成果について率直にそう語っている。

 LABがスタートして半年ということで、まだどうのこうのと即断するには荷が重い、あるいは気が早いといわざるを得ない面がある。いわば「参考記録」、という限定がどうしても付くが、顕著な大幅アップとまではいかないにしても、一応、各項目でそれぞれ前向きな改善が出ているといえそうである。

■低酸素トレーニングで走行距離、空中戦勝率が向上

 LABでは、J1としては初の試みとなるが、低酸素ルームを設置した。低酸素トレーニングを導入した。
 低酸素トレーニングは、30分で2時間分のトレーニング効果が得られる。いわば、“高地トレーニング”を行っているのと同様の効果が得られることになる。この低酸素トレーニングの導入効果は大きかったとみられる。

 幕田純教育開発部長は低酸素トレーニングの効果について次のように話している。
「湘南ベルマーレはゲームでの走行距離はJ1で上位のチームだ。ただ、ゲームの前半と後半を比べるとやはり後半が落ちてくる。だが、この低酸素トレーニングの導入によって、後半の走行距離の落ち幅が少なくなっている」

 幕田純教育開発部長は、ゲームの支配を左右する空中戦の勝率についても「向上している」と主張している。
 「湘南ベルマーレはもともと走る力があるチームだが、空中戦は地面に足がついていないから体幹が強くないと勝てない。低酸素トレーニングを含むLABでのフィジカル強化で空中戦勝率が大きく向上している」
 空中戦勝利数は、1位53回ジョー(名古屋グランパス)だが、2位51回フレイレ(湘南ベルマーレ)、3位50回山崎凌吾(湘南ベルマーレ)と結果を出している。

■LABはシーズンインになれば「野戦病院」

 LABは、シーズンインになれば、語弊があるかもしれないが「野戦病院」の役割を果たすことになる。
 U―20日本代表のMF齊藤未月選手が3月のアジア選手権予選で左太もも肉離れとなり、当初全治3~4週間と診断された。帰国後、LABのリカバリールームなどでトレーナーとリハビリを行い約2週間後には練習に復帰した。当初の想定よりも早い復帰となった。
 幕田純教育開発部長は、「齊藤選手の復帰は、LABの効用が大きかった。LABのリカバリールームでトレーナーとリハビリに励んだ。リカバリーのノウハウも寄与している」としている。

 サッカーは、怪我が多いスポーツで、アスリートが怪我からどれだけ早期に復帰できるどうかはチームにとって戦法、勝敗を決するファクターになる。LABのサポートは、湘南ベルマーレにとって他のチームにはないアドバンテージにほかならないことになる。

 因果関係は証明すべくもないが、ともかく湘南ベルマーレからいま4選手が日本代表に選出されている。ジャパン代表にDF杉岡大暉選手、U-20にMF齊藤未月選手、MF鈴木冬一選手、U-18にMF柴田壮介選手が選ばれている。湘南ベルマーレの選手がジャパンのトップチーム代表に選ばれたのは実に4年ぶりのことである。

■ビジネスに昇華させる覚悟を持てるかどうか

 先行きの課題は、LABがビジネスになるかどうかである。

 幕田純教育開発部長は、「RIZAPメソッドがアスリートにも応用できることがわかった」と表明している。LABは、湘南ベルマーレだけではなく、ゴルフ、トライアスロン、テニス、バスケットボール、サーフィン、スノーボードなどのプロのアスリートのサポートにも着手している。LABの仕事を当然の成り行きだが、湘南ベルマーレだけではなく横に展開しようとしている。

 ただし、LABは目下のところはRIZAPに付帯した一部門で、自社メソッドをさらに進化させるラボラトリー(研究機関)というステージにとどまっている。アスリートのトレーニング・食事・リハビリなどのサポートで研究成果を積み上げて、基幹ビジネスであるボディメイク、フィットネスにフィードバックする--。その役割は、確かにそれはそれで重要である。

 だが裏返せば、現状はLABをビジネスに昇華させ、売り上げ・収益を稼ぐレベルにする、あるいはビジネス化を公言する段階にはいたっていない。
LABが、先行きに根幹ビジネスのボディメイクの周辺事業として花が開くかどうかはみえないが、当然ながらビジネスへの進化を期待したいものである。あそらく、いえるのは自立したビジネスにならなければ、LABの進化は本当の本物にならないのではないか。

 RIZAPグループの瀬戸健社長、あるいは幕田純教育開発部長にしても、LABについてはビジネス化を目指すのか、あくまでラボラトリーとして基幹ビジネスを陰で支えるプラットフォーム機能に徹するのか明確にしていない。先行きの課題だが厳しくいえば、目指すところを明確にして、売り上げ・収益などの目標を打ち出してLABをビジネスとして鍛え上げていく覚悟を表明してほしいものである。

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)

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