【小倉正男の経済コラム】文在寅大統領――チョ・グク氏を法相に任命、浄化されざる強権手法

小倉正男の経済コラム

■チョ・グク氏の法相任命を強行

 文在寅大統領の韓国だが、ついにチョ・グク氏を法相に任命した。
 普通の国なら、「タマネギ男」とまで揶揄される疑惑まみれのチョ・グク氏を任命できる状況にはない。しかし、それでも文在寅大統領としてはチョ・グク氏の任命を強行するしかないとみられていた。はたして、そのようになった。

 「南北の経済協力」「南北の平和経済」――、文在寅大統領はそうしたキーワードを語ってきたが、“一国二制度”による南北統一という「高麗連邦」が究極の目指すものなのか。

 すべてはそこから逆算して行動が決められているのではないか。南北統一を目指すには、自分たち「進歩勢力」が20年連続で政権(権力)にいなければならない。

 それに権力の座から滑り落ちれば、いずれにせよ末路はよいことはない。政権を維持して、検察なども自分たちに逆らわないようにする。それには独裁的な権力を持つしかない。

 とすればチョ・グク氏の法相任命は何があっても強行するしかない。いかなることがあっても、やらざるをえないが文在寅大統領であり、そのやり方は政治家というよりは“革命家”に近いのではないか。命懸けの闘争みたいなものである。

■安全保障の問題に火が付く

 「タマネギ男」の法相任命をめぐる文在寅大統領と検察の争いは、韓国の内戦みたいなものだ。いわば、文在寅大統領の永久政権化路線とそれに疑問を持って否定する勢力の激突にみえる。凄い局面である。

 まがりなりにも文在寅大統領政権が南北統一を目指すとすれば、日韓のGSOMIA(軍事情報包括保護協定)破棄も、アメリカとの軋轢(指揮権、軍事基地の早期返還など要求)も文脈的にそれはそうだろうなということになる。

 極論すれば、韓国は米韓同盟から離脱して、中国、ロシア、北朝鮮のサイドに立つということになる。文在寅大統領の確信なのか夢想なのか、安全保障の問題に火が付くことになりかねない。

 経済的なEU離脱である「ブレグジット」ですら、いまだに揉めている。韓国の同盟離脱(コレアジット)ともなれば、アメリカを巻き込んだ安全保障の問題であり、これは簡単ではない。

 アメリカのトランプ大統領としても、「おカネがかかる」とばかりを言っていられない。大きく揉めるに決まっている。細かいカネ勘定をしているところではない。
 日本の安全保障にも火が付くから、これは大変なことになる。

■手段は浄化されるのか

 文在寅大統領の南北統一による「高麗連邦」が仮に正しい目的としても、チョ・グク氏の法相任命の強行にみられるようにどんな手段でも許されるのか。目的のために手段は何をやっても浄化されるのか。

 「正義派」にこだわってきた文在寅大統領が手段を選ばずにチョ・グク氏を法相に任命した。「疑惑だけで任命しないのは悪い前例になる」。文在寅大統領流の理屈だが、どこからみても疑惑だけで終わる状況ではない。

 それに「反日」「嫌米」、何から何まで自分たちがやっていることは正義だという手法は身内だけにしか通用しないのではないかと思われる。
 20年先まで睨んで動いている文在寅大統領だが、20年先まで進んだ時に文在寅大統領にどのような評価が下されているのだろうか。

 日本のテレビメディアでは、「(チョ・グク氏は)本当に頭がいい。言っていることに破綻するようなことはない。ほぼ完璧に答える。法的責任が問われる問題ではない」とほとんど条件を付けずに礼賛する評論家のコメントもあった。文在寅大統領のチョ・グク氏の法相任命をそこまで応援するのかと驚かされた。

 日本のテレビメディアは、自分たちは一段上の存在で賢く、国民は「あおわれる」存在と一方的に決め込んでいる。メディアが、「あおらないで冷静に」とか言って身内で話しているのは自己誤認の極地にも映る。

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)

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