【小倉正男の経済コラム】韓国「国産化」ルサンチマンとサプライチェーン

小倉正男の経済コラム

■サプライチェーン=全体の「最適化」を目指す

 サプライチェーンとは、原材料・部品・部材手当から製品化を経て、製品がマーケットに供給されて消費者の購買にいたる連鎖を指している。

 全体の「最適化」を目指すのがサプライチェーン。部品・部材が最適地の「最適企業」から「最適時」に供給され、最適企業が製品化してお客の手元に届ける。企業間競争では、このサプライチェーンがベースになって優劣を競うことになる。

 いまのマーケットは、お客の「欲しい時」が発売当初などに集中するトレンドがある。サプライチェーンが有効に機能しないとお客の「欲しい時」に製品が届けられない。お客の「欲しい時」に製品がマーケットにあって購買されることでサプライチェーンは完結する。

 サプライチェーンに乱れが生じるとお客の「欲しい時」にマーケットに製品がないどころか、様々な問題が出る。
 価格面でも問題が出るし、製品の故障や不良品の増加など致命的な現象も発生する。「欲しい時」に製品がないのも相当に致命的だが、不良品など出したら企業はそれこそ取り返しのつかない事態になる。

■無理やり「国産化」すれば不良品山積みに

 日本の高純度フッ化水素、レジストなど3品目の輸出管理規制について、韓国・文在寅大統領は少なくとも当初は「世界のサプライチェーンを窮地に貶める」といった批判をしていた。世界に訴える局面では、この論理を使っている。

 しかし、韓国内や政権内では、日本からの部品・部材の供給、すなわちサプライチェーンは日本の「経済侵略」と捉えている面がある。部材・部品の韓国内での国産化が奨励され、ロシア、中国など日本以外からの供給も含めて「第2の独立戦争」などと唱えている。

 政治的なルサンチマンにほかならないが、経済的にみたら無謀というか、リスクを巨大化することになりかねない。下手に無理やり部品・部材を国産化して製品をつくれば、半年~1年後には不良品の山を抱えることなる可能性がある。

 文在寅大統領が、3品目の輸出管理規制時に財閥経営者を緊急招集したが、サムスン電子のイ・ジェヨン副会長などは迷うことなく欠席して日本に飛んだ。部品・部材のサプライチェーンへのリアルな方策を優先させたわけである。

 文在寅大統領との緊急招集に応じても、最適な部品・部材のサプライチェーンは確保できない。経済人としては、きわめて妥当な判断をしたことになる。

■経済にルサンチマンは無用で繁栄と反対方向

 イビデンは、プリント配線板、ICパッケージ基板で世界的なサプライヤーとして知られ
ている。
 インテル、アップルがこの会社を発見して基板をサプライさせたのがスタートだった。

 インテルによるイビデンの発見は、世界的なサプライチェーン=水平分業の成功例とされている。イビデンの基板は、いまや世界中のスマホ、パソコン、クルマに搭載されている。
 プラスチックパッケージ基板の性能・コスト面の優秀性が認められたのだが、イビデンが成功例になるまでには大変に長い苦難・雌伏の時代があった。

 韓国は、部品・部材・製造機械などの「国産化」に1兆ウォンを集中投入して、日本に“揺さぶられない経済”を目指すというが、それは言うほど簡単な道程ではない。
 「第2の独立戦争」など夢想というか考え違いというか、かなり無茶な格好をつけている。だが、現実的に手っ取り早いのは人材の引き抜きなどがリアルな実現手法といわれている。

 ただし、どうやってもおカネ、時間が膨大にかかり、割高で品質にさほど信頼が置けないモノが供給されることが想定される。半導体デバイスの製造面で歩留まりが悪化するリスクが途方もなく増大する。

 文在寅大統領が政権内などで唱える「道徳性」はあるのかもしれないが、「経済性」とは対極にある。経済にルサンチマンを混ぜるのは無用であり、避けなければならない。経済全体の歩留まりを考えなければ、気分や感情は晴れても、繁栄とは反対の方向に進むことになりかねない。

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)

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