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【小倉正男の経済コラム】「米中貿易戦争」「日韓摩擦」ドロ沼化と韓国経済
- 2019/10/10 10:33
- 小倉正男の経済コラム
■ドロ沼化の「米中貿易戦争」
「米中貿易摩擦」、18年後半~19年前半には、遅くても19年半ばには解決するとみられていた。19年後半には、中国経済が息を吹き返して旺盛な需要を復活させるだろうと。
しかし、いまにいたっても解決の兆しはみえない。「米中貿易摩擦」どころか、「米中貿易戦争」に深化の様相を呈している。
日本企業、とりわけ製造業の多くは、中国向け半導体など電子部品、半導体・液晶などの製造装置、工作機関連などは19年後半には売り上げが回復すると想定していた。だが、その目論見は甘かったということになる。
トランプ大統領が一人で世界の景気を掻き回しているわけだが、トランプ大統領も20年の大統領選挙を控えている。世界景気を悪くして大統領選挙に臨むというわけにもいかない。「米中貿易戦争」はどこかで急転直下解決したいはずだが、ドロ沼状態にはまり込んでいる。
トランプ大統領は、自身の弾劾調査問題も抱えているが、いったいどこまでやるのか。
■米中軋轢に加え「所得主導成長」でデフレ化
「米中貿易戦争」の影響をまともに受けているのが韓国である。日本製造業も「米中貿易戦争」ではかなりの需要減退の直撃を被っているが、韓国はその比ではない。韓国の場合、内需はきわめて小さく、外需(輸出)に依存した経済で、しかも中国向けに大きく依存している。
「米中貿易戦争」の影響で中国向け輸出が低迷しているだけではない。中国は「中国製造2025」で半導体など次世代情報技術を「国産化」する国家戦略を発動している。韓国が中国に売ってきた分野を「国産化」するというのだから、韓国としては市場を失うことを意味する。
そのうえ文在寅大統領は北朝鮮との「平和統合」を夢見る社会主義政権だから、最低賃金を18年16.4%、19年10.9%の大幅引き上げを実施した。労組は勢いに乗って賃上げなどでストを頻発――。貧富格差の是正が背景にあるとしても性急に過ぎている。
文在寅大統領はそれを「所得主導成長」と自画自賛してきたのだが、逆に失業を増加させデフレ経済にはまり込んでしまつている。
■「日韓摩擦」に軋む
文在寅大統領はさらに「日韓摩擦」まで抱えてしまった。韓国政界は、与党も野党も「反日」らしいが、半導体などの製造業の先端技術分野は日本が圧倒的に押さえている。
サムスン電子など韓国製造業が必要とする部品、用品、測定計、製造装置などのサプライヤーは日本企業が引き受けてきている。「日韓摩擦」が長期化すればするほど韓国製造業は苦境に立つことになる。サプライチェーンにいささかでも不安定が生じれば製造、開発に支障や齟齬が生まれかねない。
韓国得意のケンカや挑発もそう容易ではなく、部品・用品などサプライチェーンなどの損得からいってもよいことはなにひとつない。にわかに韓国は「国産化」を標榜しているが、下手に動けば歩留まり悪化を招き予期せぬ事態に陥るリスクも生じる。
対照的に中国のほうは、トランプ大統領がストップをかけてきそうなほど日本に接近して、日本からのサプライチェーンを活用している。中国は必要な時にはイデオロギーやルサンチマンを捨ててかかる。そこが大人かどうかの違いである。
しかも韓国は強行任命したチョ・グク法務部長官のタマネギのような多重スキャンダル問題もあって、どこまで厄介を抱えるものやら。
■ルサンチマンに縛られず
その昔、「北朝鮮はこの世の天国だ」という見方が語られたものだった。
映画でもブルーリボン賞受賞作品『キュウポラのある街』などで北朝鮮はそう描かれてきた。『キュウポラのある街』の脚本家も後々に「北朝鮮の実情はずいぶん時間が過ぎてから知った」と述懐しているが、その時代は、間違いなく理想の国と思われていたのである。
チョ・グク氏の疑惑記者会見、聴聞会が長時間行われた末に法務部長官になった時に政治の有り様について韓国を手放しで持ち上げる意見があった。長時間にわたり厳しい質問に答えたというのが日本と違って韓国は偉いというのである。
日本もそう褒められたわけではないが、それだからといって韓国の文在寅大統領、チョ・グク法務部長官を「正義」の有り様と持ち上げるのはどうしたものか。
「日韓摩擦」を眺めていていちばん引っかかったのはそのことである。日本のリベラリズムに大きな影響を受けてきているのだが、見方がイデオロギーになりすぎていないか。イデオロギーが先行すれば、どんなアジェンダも結論は同じになる。
「クールにセクシーに」というわけにはいかないが、損得を含めてルサンチマンに縛られないで眺めていくべきではないか。
(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社=Media-IR)