【社長インタビュー】「保育士不足は更に深刻化している状況」JPホールディングス・古川浩一郎社長に聞く
- 2019/10/10 10:45
- IRインタビュー
■「幼児教育・保育無償化」が始まり来春は入園希望者が再び増加
2019年10月1日、「幼児教育・保育無償化」が始まった。無償化により、来春は保育園などへの入園希望者のさらなる増加が予想されている。しかし、その一方で、「保育士さんは現在も7万人は足りない現状があり、地域によっては「『保育士不足により保育園に入園できない危機』すら懸念される状況」(JPホールディングス<2749>(東証1部)の古川浩一郎社長)との指摘がある。「保育士さんにも、かつて教員確保のために政府が実施した『人材確保法』のような措置を講じて処遇を改善しないと根本的な解決にならない」と提言する同社・古川社長に現状と展望を聞いた。
■保育士7万人が不足し「状況は待ったなし」、『人材確保法』のような制度を
――「幼児教育・保育無償化」が始まり、子育て世帯は大歓迎ですね。
【古川】 3歳児から5歳児までの幼稚園、保育園、認定こども園などを利用する子供たちの保育料が無償化された。このため、確かに、子育て世帯にとっては朗報であり、来年、2020年春には入園希望者が大きく増加すると予想されている。
ただ、問題は受け入れ体制にある。施設数は全国的に増加傾向を続けているが、保育士さんの数は増えていないため、その分だけ保育士不足が深刻化している。現在でも全国で7万人は不足していると言われている。このため、来春は、地域にもよるが、入園希望者の増え方によっては、再び「保育園落ちた」などで社会問題化する可能性もあるとみている。
■幼児教育の質の低下につながることは絶対に行なえない
受け入れ体制を拡大したいのは言うまでもないが、保育士さんが決定的に不足している。今回施行された「幼児教育・保育無償化」については、受け入れる側として当初問題視していた「保育士さんを確保するための支援策」が、並行して設けられていない状況にある。現状、これが打ち出されない限り、入園希望者が急増した場合でも、受け入れ体制の急な拡大には厳しいものがある。実態に即して言えば、急激な入園希望の増加に対応できる状態ではないというのが現場の実情である。
一例ですが、2013年に韓国で幼児教育・保育無償化する政策が実施され、保育士の確保や処遇面などから、結果として幼児教育の質の低下が問題視されたことがあった。こうした意味でも、質の低下につながるような企業行動は、株式会社としても絶対に行なえない。
このため、いま、保育園を急に増設するといった拡大策には慎重にならざるを得ない。保育の質を維持・向上させながら受け入れを拡大することが当社の社会的な使命であると考える。
■保育士の人材確保のため給与大幅アップの時限立法措置なども
――保育士さんを確保するための支援策を教えて下さい。
【古川】 保育士さんが決定的に足りない要因のひとつとして、保育士さんという職業に関する法整備がなされていないことが挙げられる。これが勤務体制の不規則さや待遇の格差などにつながり、全国的に7万人の保育士不足が現実に起きてしまった。大都市圏では保育士さんの奪い合いのような状態が続いており、保育現場の混乱、ひいては質の低下の要因にも繋がっている。
こうした窮状ついては、かねてから、担当省庁や内閣府などに実情をお伝えしており、総理の耳に届くようなところにもお話している。このため、たとえば、保育士という職業に就いて法的な整備をしていただき、学校の教職員のように、同一の資格者には、どこで働いても同等の待遇が与えられるといった基本的なことを法的に担保していただければ、職業としての魅力向上にもつながり、状況は大きく変わると思っている。
■教職員の不足に対応した昭和の「人材確保法」に範を取ることも
昭和49年のことだが、学校教職員の不足が深刻化していた昭和のある時期、教育の質の低下が懸念される状況を打開する目的で、「人材確保法」が制定された。教員の給与を一般の公務員より優遇することを定め、給与を大幅に増額するなどの措置を講じ、人材を確保した。
そこで、保育士さんについても、これに似たことを、いま要望している。現在の保育士さんの年収は全国平均で約360万円となっており、当社は約400万円であるが、たとえば「保育人材確保法」として、これを平均510万円まで上げていただきたいといった提案をしている。とにかく保育園で働く保育士を早急に増やさなければならないということだ。
こうした措置を採っていただける場合、さらには国主導で一斉にやっていただきたいと思う。国が制度設計しても自治体の足並みがそろわないケースも想定されるが、2020年4月には、また入園できなかった希望者が増加する可能性がある。いま現在、このタイミングで一斉に行わないと間に合わなくなる状況もあると思っている。待ったなし、といえる状況で、年度内に議論していただき、早期に手を打つ速さが求められる段階だと受け止めている。
――ありがとうございました。