アンジェスはゲノム編集も活用して遺伝子医薬のグローバルリーダー目指す

アンジェス<4563>(東マ)は遺伝子医薬のグローバルリーダーを目指すバイオベンチャーである。国内初の遺伝子治療用製品の製造販売承認を取得し、19年9月販売開始した。12月12日にはEmendo社への追加出資(持分法適用関連会社化)を発表した。Emendo社の高度なゲノム編集技術によって遺伝子医薬開発における優位性を獲得し、さらなる開発パイプライン拡充・創薬を目指す戦略だ。なお新株予約権の行使が完了して当面の開発資金は確保済みである。株価は08年以来の高値圏から反落して調整局面だが、20年代もバイオ関連の注目銘柄として活躍が期待されるだろう。

■国内初の遺伝子治療用製品の承認取得・販売開始

 遺伝子医薬のグローバルリーダーを目指すバイオベンチャーである。会社設立以来の主力プロジェクトとして、重症虚血肢を対象とするHGF遺伝子治療薬の開発を推進している。

 医薬品医療機器等法の条件および期限付承認制度を活用し、19年3月に国内初の遺伝子治療用製品「コラテジェン」として、製造販売承認(慢性動脈閉塞症における潰瘍の改善を性能として条件および期限付承認)を取得した。

 19年9月には国内導出(独占的販売権許諾)先の田辺三菱製薬が販売開始した。なお条件および期限付承認のため、製造販売後承認条件評価を5年以内に実施(田辺三菱製薬が使用成績比較調査を実施、本品投与群120例、比較対象群80例)し、本承認を取得予定である。

■開発パイプライン

 開発パイプラインとしては、臨床試験段階でHGF遺伝子治療薬、核酸医薬(NF-kBデコイオリゴDNA)、DNAワクチン、探索・基礎研究・非臨床試験段階でTie2受容体アゴニスト化合物、慢性B型肝炎治療薬、エボラ出血熱抗血清製剤がある。

〔1〕HGF遺伝子治療用製品

 19年9月販売開始したHGF遺伝子治療用製品「コラテジェン」は、日本での適応症拡大に向けて19年10月、慢性動脈閉塞症の安静時鈍痛を有する患者を対象に第3相臨床試験(約2年、約40例想定)を開始した。

 海外は、日本より市場規模が大きい米国で、新しいガイドラインに基づいて19年11月、下肢潰瘍を有する閉塞性動脈硬化症の患者を対象に臨床試験を開始した。第3相試験に先立って小規模な臨床試験で下肢潰瘍の改善効果を確認する。なお米国では田辺三菱製薬と導出契約を締結している。またイスラエルでは導出先のKamada社が、重症虚血肢を対象として申請準備中(20年発売見込み)である。今後は米国、イスラエル以外の地域についても導出先の確保を推進する。

〔2〕核酸医薬(NF-kBデコイオリゴDNA)

 NF-kBデコイオリゴDNA(NF-kBの活性化による過剰な免疫・炎症反応を原因とする疾患の治療薬)は、椎間板性腰痛症を含む腰痛疾患を対象として、米国で第1相後期臨床試験を実施中(18年2月~)である。当初計画に対して若干遅れているが、特段の問題はなく患者登録中である。

 また従来型NF-kBデコイに比べて、炎症を抑える効果が格段に高く、生産コストも低い次世代型キメラデコイの開発も推進している。

〔3〕DNAワクチン

 DNAワクチン(DNAを利用した治療ワクチン)は、高血圧を対象疾患として、オーストラリアで第1・2相臨床試験を実施中(18年4月~)である。概ね計画どおりに患者登録中である。DNAワクチンを、遺伝子治療用製品、核酸医薬に続く遺伝子医薬の第三の事業と位置付けている。

〔4〕Tie2受容体アゴニスト化合物

 Tie2受容体アゴニスト化合物は、カナダのVasomune社(18年7月共同開発で提携)が創製し、血管の漏出を抑制する働きが期待されている。急性呼吸不全など血管の不全を原因とする疾患を対象とする医薬品の共同開発を目指し、最初の適応疾患として急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を想定した非臨床開発を実施する。

〔5〕慢性B型肝炎治療薬

 慢性B型肝炎治療薬については、17年4月バイカル社と契約締結して日本における開発・販売に係る優先交渉権を獲得した。バイカル社19年8月合併によってBrickell Biotech社となったが、新会社が契約を承継している。現在は探索段階だが、慢性B型肝炎の完治を目指した遺伝子治療薬の共同開発を目指している。

〔6〕エボラ出血熱抗血清製剤

 DNAワクチン技術を用いたエボラ出血熱抗血清製剤は、カナダサスカチュワン大学と共同開発を進めている。エボラ出血熱ウイルスのタンパク質をコードするDNAワクチンをウマに摂取し、その血清に含まれる抗体を精製して製造する。

 現在はマウス試験の段階だが、19年4月には治療薬として十分に機能することを再確認したとリリースしている。今後は前臨床試験を進め、早期の臨床試験実現を目指すとしている。なおエボラウイルスの動物における感染試験は、日本国内では実施できないため海外での試験となる。

■ゲノム編集も活用して遺伝子医薬のグローバルリーダーを目指す

 遺伝子医薬のグローバルリーダーを目指し、ゲノム編集、マイクロバイオーム、バーコードナノパーティクルなどにより、さらなる開発パイプライン拡充・創薬に向けた動きを加速している。

〔7〕ゲノム編集

 ゲノム(遺伝子の総体)編集分野では、イスラエルを拠点とする米国のバイオ企業Emendo社に対して19年3月出資し、12月12日には追加出資して持分法適用関連会社化すると発表した。

 ゲノム編集は、特定の塩基配列(ターゲット配列)のみを切断することによって、標的とする遺伝子に変異を誘導する遺伝子改変技術だが、類似の配列を誤って切断するオフターゲット効果によって、標的以外の遺伝子の変異を生じさせる可能性があるため、安全性の面での課題となっていた。Emendo社は従来方法とは異なり、ターゲット配列以外では切断することがない高精度な切断酵素を開発している。

 安全性が高く標的選定の自由度も高いゲノム編集技術を持つEmendo社と緊密な関係を築き、現在開発中の対象疾患についてもEmendo社の技術の導入を検討する。遺伝子治療用製品、核酸医薬、DNAワクチンに続く遺伝子医薬の第4の柱として、ゲノム編集による開発パイプライン拡充・創薬を目指す戦略だ。

〔8〕マイクロバイオーム

 18年7月イスラエルのMyBiotics(マイバイオティクス)社と資本提携した。体内の微生物の生態系であるマイクロバイオーム(微生物叢)は、医薬品・健康食品分野への活用が期待され、次世代の医薬研究開発分野としても世界的に注目を集めている。マイバイオティクス社は、マイクロバイオーム医薬の実用化に必須の腸内細菌を含む常在菌の培養・製剤化で、独自の製造技術を開発している。マイバイオティクス社との資本提携で、マイクロバイオームの事業可能性を探るとしている。

〔9〕バーコードナノパーティクル

 19年8月イスラエルのBarcode社と資本提携した。現在の抗がん剤を利用するがん治療では、複数の抗がん剤を順に投与して効果を確認するため、有効な抗がん剤を選定するために時間を要するのが課題とされている。

 これに対してBarcode社は、多種類の抗がん剤をごく少量ずつ一度に投与して、短期間(72時間以内)で個々の患者ごとに最も有効な抗がん剤を選択するツールとして、バーコードナノパーティクルを開発している。Barcode社との資本提携により、がん領域へ進出する可能性もある。

■19年12月期赤字予想だが当面の開発資金は確保済み

 19年12月期の連結業績予想は、売上高が3億35百万円、営業利益が33億円の赤字、経常利益が33億円の赤字、純利益が37億円の赤字としている。遺伝子治療用製品「コラテジェン」の販売拡大・収益化には時間を要するため、引き続き研究開発費が先行する。黒字化は市場規模の大きい米国での承認取得・販売開始がメドとなりそうだ。

 なお資金調達については、18年10月発行の第33回新株予約権の行使が19年5月完了した。そして19年12月期第3四半期末時点の現預金は107億72百万円となっている。当面の開発資金は確保済みである。

■株価は調整局面だが20年代も活躍期待

 株価は08年以来の高値圏から反落して調整局面だが、月足チャートで見ると下値切り上げトレンドを継続している。20年代もバイオ関連の注目銘柄として活躍が期待されるだろう。(日本インタビュ新聞社 シニアアナリスト 水田雅展)

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