【小倉正男の経済コラム】新型コロナウイルス 中国経済=成長神話の終焉

小倉正男の経済コラム

■「遅く来て早く帰れ」

 最近は電車のなかでクシャミをすると少しマズいなという気持ちになる。凄い時代になっている。確かに、これではできるだけ外出は避けようということになるのは無理からぬところだ。

 取材に行ってもマスクを渡され、先方もマスクをして話をしている。確かに、マスクをしてのインタビューというのもやってみたら問題は何もない。

 会社によっては休業にするところもある模様だ。社員に満員電車には乗らないように通勤時間を指示するような会社もあり、「遅く来て早く帰れ」となっているようだ。

 人が集まるイベントなども軒並み中止になっている。舞台演劇、コンサート、講演会なども自粛ムードだ。強行しても人が集まらない。人混みを避けたいというのだから人が出てこない。レジャー施設も閉園するところも出てきた。

■下方修正が相次ぐ懸念

 新型コロナウイルス感染症の影響はとどまるところを知らない。
 半導体など電子部品や半導体・液晶関連製造装置を中国に売っている商社、メーカーに聞いても、中国の経済活動が止まっているのだから納入はストップしている。

 ある医薬品包装企業など中国の製造工場を移転させる計画なのだが、移転時期が不透明になっているとしている。上海にある工場をやはり上海の新工場に移転するというのだが、メドが立たないでいる。経済活動が停止状態で、時期が何とも確定できないというのである。

 製造業を中心に日本企業は、中国市場への依存度は相当に高いのが実情である。もちろん、観光業など国内のサービス産業も需要減の直撃が避けられない。これはこの先、下方修正に向かう企業も少なくないのでないかと懸念される。

 中国経済がいちばん目も当てられないが、中国に相当に依存している日本経済にも影響は避けられない。消費税増税など余計なことをしたものだがいまや取り返しがつかない。
 お隣の韓国も中国経済に大きく依存している。4月15日に総選挙が控えており文在寅大統領としても懸念が絶えないのではないか。

■「世界の工場」となった中国と世界経済

 中国というファクターは世界経済にとって、いまや大きな衝撃度を持っている。

 中国が「世界の工場」となり、アメリカ(日本もそうだが)から工場が消えていった。アメリカのラストベルトなどもそうだが、資本は低賃金を求めて「適地」に移転していく。中間所得層の労働者への雇用が失われ、所得格差が拡大していった。当然不満が生まれる。

 白人の低所得層を支持基盤とするトランプ大統領は、こうしたことはアメリカの労働者には不利であり、自由貿易はアンフェアとしている。「中国はアメリカの雇用や技術、富を奪っている」と主張している。

 グローバリゼーションには反対で、アップルなどに「アメリカで生産すれば関税を心配する必要はない」と中国での生産を止めることを提案している。トランプ大統領の「一国主義」は職を失った労働者層には受けないわけがない。
 中国という存在が、トランプ大統領を産み落としたという側面がある。

 「高額所得者に高所得税を課せ」という民主党のサンダース上院議員も同様な側面がある。所得格差という問題、それに対する怒りがサンダース議員の支持を後押ししている。中国という存在が、サンダース議員を民主党の大統領候補に押し上げている。

■中国経済の高成長にストップがかかる

 いまの問題は新型コロナウイルスだ。中国・武漢から急速に全世界に広がりをみせている。悪い話であることはいうまでもなく、想定を越える影響が生み出される可能性がある。

 企業のなかには「危機管理=クライシスマネジメント」から中国に集中している生産機能を見直して分散する動きを表面化させるのではないか。「世界の工場」の再編成、世界のサプライチェーンの再構築といった動きが顕在化するとみられる。

 少なくともトランプ大統領は、アップルなどの工場が中国からアメリカに移転復帰することを声高に要求するかもしれない。アメリカに工場がひとつでもふたつでも戻れば、トランプ大統領には大きな支援材料になる。
 中国の経済成長には否応なくストップがかかる。世界経済だが、ここしばらくは大荒れの嵐に翻弄されるとみておかなければならない。

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)

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