【小倉正男の経済コラム】「新型コロナ大不況」世界経済を救う白馬の騎士はアメリカしかない

小倉正男の経済コラム

■人が動かずモノ&おカネも動かない

 先日、取材があって東京駅から新幹線に乗った。朝の8時台の新幹線だが、予約席の車両にはお客が数人しか乗っていなかった。
 帰りの夜の新幹線は、朝よりは乗客が多かったが、それでも空席が目立っていた。かなり異常な事態になっている。

 取材に伺った街はそれなりに人出がみられ繁栄している様子だった。しかし、レストラン、居酒屋など飲食店にはやはりお客がまばらだった。
 旅行や出張なども減っているからお土産屋にも人の姿がみえない。ホテルなども空室が目立っている。

 ほぼ1週間前のことであり、いまはもっと悪くなっているに違いない。人が動かないのだから、モノも動かない。おカネも動かない。そのうえインバウンドも止まっている。
 経済はすべて停止という状態だ。解決のメドがみえない。

■リーマンショック時は中国が世界経済を救った

 日本では新型コロナウイルスによる経済大不況に対して「消費税ゼロ案」が出ている。確かにそのぐらいの覚悟が必要だし、そのぐらいしか手はない。

 消費税減税なら目に見える経済効果がある。日本はこの大不況に本気で取り組んでいる決意を内外に示すことになる。

 金融緩和政策もすでに限界だ。オリンピック関連のスタジアム、水泳会場、さらに災害支援など建設土木工事といった財政出動も極端な人手不足になるほどやってきている。政策にほとんどオプションはない。

 リーマンショック時(2008年)は、100年に一度、1000年に一度の経済危機(恐慌)といわれた。この時は中国が遅れていた自国の社会インフラに財政出動を表明した。4兆元(当時の為替レートで約57兆円)という巨額な経済対策を行った。

 これにより中国は日本を抜いてGDPで世界2位の経済大国に飛躍を遂げた。だが反面では地方政府・国有企業の債務や不動産バブルを膨張させた。中国はアクセルを吹かし過ぎたわけである。

 アメリカは、リーマンショック=世界金融恐慌を起こした張本人だ。金融バブルの元凶であり、救済される立場だった。
 アメリカは動きが取れず、中国に救ってもらったのが実体だった。中国が世界経済のホワイトナイト(白馬の騎士)だったのはまぎれもない。

■今回はアメリカが世界経済のホワイトナイトになる

 いまの新型コロナウイルスによる経済大不況も100年に一度、1000年に一度の経済危機といってよい。今回は中国にリーマンショック時のようなパワーや余力は失われている。

 中国は長期の米中貿易戦争で相当に痛んでいる。新型コロナウイルス発生の経済停止でも手酷い事態に陥っている。そのうえ不動産バブルの後遺症も抱えている。

 この大不況に立ち向かえるのは唯一の経済好況を享受しているアメリカしかない。
 トランプ大統領は、大統領再選を目指して利下げ、給与税免除の大型減税を打ち出している。民主党はこれをトランプ大統領の「選挙対策」であるとして警戒している。

 だがトランプ大統領とすれば、大統領再選を睨んでいるのは当たり前だ。これだけでは終わらず、国家非常事態宣言を行い新型コロナウイルス感染防止に500億ドル(約5兆40000億円)の連邦資金を投入すると発表した。

 トランプ大統領は、自ら世界経済のホワイトナイト(白馬の騎士)を演じることで大統領再選に挑むことになる。トランプ大統領は、「世界覇権」で中国を突き放して寄せ付けない政策に出るとみておくべきだ。

 アメリカはいま新型コロナウイルスを「武漢ウイルス」と呼び、中国はアメリカ軍が武漢に持ち込んだと非難している。
 「武漢に持ち込まれた」という“中国被害者説”はかなり無理筋な理屈だ。これらの動向は米中貿易戦争と同じで、米中の覇権争いとみておくべきである。

■再選と世界覇権を狙う

 新型コロナウイルスを発生させたのは中国で世界経済を窮地に陥れた。その新型コロナウイルスから世界経済を救うのはアメリカであるという構図をつくる。それがトランプ大統領のこれからの戦略になる。

 トランプ大統領は、「一国主義」であり極論すればアメリカ経済しか考えていない。世界経済など本来は二の次という立場だ。

 しかし、自らの大統領再選実現が絡んでおり、いま当面はアメリカ経済を強く引っ張るのが得策だ。それがとりもなおさず世界経済を牽引することになる。

 再選と世界覇権の両方を狙える。結果として、リーマンショック時の中国と同じようにアメリカが世界経済を救う役割を担うことになる。「乱世の梟雄」・トランプ大統領の面目躍如ということになる。

 トランプ大統領のことだから、おそらく日本にも「思い切った手を打て」と言ってくる。要請されてやったのでは、みっともない。それに手遅れになる。
 安倍晋三内閣、いや日本は自らの決断で国民の目に見える景気テコ入れに早急に踏み出すべきという文脈になる。

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシス・マネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)

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