【小倉正男の経済コラム】「緊急事態宣言」延長、5月は本当に正念場

小倉正男の経済コラム

■2~3月に緊急事態宣言を発令していれば・・・

 5月6日に期限を迎える「緊急事態宣言」だが、5月31日まで全国で延長されることになった。

 4月7日からの緊急事態宣言により新型コロナウイルスの感染者は少し減少してきたようにもみえた。ただ、決定的に減少したとは言い切れない状況だった。
 しかし、5月に入ると東京都では1日165人、2日160人、3日91人と感染者が増加するといった現象が出ている。死者も増加している。

 中国・武漢で異変が起こっていたのは19年11~12月のことだ。20年1~2月には日本にも情報は入ってきていた。

 中国、それに中国寄りのWHO(世界保健機関)が正確な情報を出さないといった問題があった。トランプ大統領のアメリカを筆頭に各国がそれを批判している。

 だが、そうであったとしても新型コロナウイルスに対する情報収集・分析の遅れは現状にも影響している。国は緊急事態宣言の発令に不可解なほど躊躇をみせた。これは1~3月の段階、すなわち「初期消火」「初期対応」が可能な時期に決断するべきものだった。

 早ければ早いほどよかったわけだが、決意や勇気が足りなかった。それが躊躇を生んでしまった。日本にとってこれは取り返しのつかないことだった。せめて3月の段階で緊急事態宣言を発令しておけば、いま頃には感染者減少にメドを何とか付けていたかもしれない。

■「新しい生活様式」「9月入学制」の唐突??

 このところ、ポストコロナの「新しい生活様式」ということで、「9月入学制」に変えるなどの議論がなされている。唐突とはこのことである。

 政府、与野党、東京都知事、大阪府知事のみならず、専門家委員会などからもそうした話が出ている。驚くことに新聞まで揃って「9月入学制」に変更しろと書いている。

 余裕なのか、余裕がないからなのか。目前の大火事を止めるのが先決なのに、その後に入居する新築マンションの設計などを考えているようなものである。

 「9月入学制」は、それはできるものならやったほうがよい。だが、いまは新型コロナウイルス感染症を止めるのが第一だ。さらに経済の停止解除を目指すことが重要だ。これらは難問であり、いまだ出口ははっきりしない。

■5月は本当の正念場になる

 新型コロナウイルス感染症の解決を誤れば、国民の安全や生命、そして国民の生活手段である経済をさらに大きく損なうことになる。国民や企業はもちろん自治体も国も共倒れになりかねない。

 連休明けの5月7日からは決算シーズンになる。各社が軒並みに決算時期を遅らせている。なかには遅らせるなどの告知もまったくしないで、発表時期が過ぎたままの会社も出ている。決算は大事だが、その会社はそれどころではない問題を抱えているのかもしれない。

 中小企業、飲食店などの個人商店も窮地に立っている。財務がまだ固まっていないベンチャー企業なども生きるか死ぬかの状況だ。
 東京都では、ホテルに移送されていた患者が、PCR検査結果で陰性が出る前に「会社が倒産する」と逃走する出来事があった。経営者たちの多くはそうした気持ちでいるに違いない。

 緊急事態宣言延長のこの5月という1カ月は、新型コロナウイルスが終息するかどうかの本当の正念場になる。日本が生き残れるのか、どう生き残るのか。日本のいちばん長い1カ月になるのではないか。

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)

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