【小倉正男の経済コラム】「GoToキャンペーン」「withコロナ」に強気は無謀で禁物

小倉正男の経済コラム

■国は「東京問題」と責任を押しつける?

 空は曇天、大雨が続いており、地上は新型コロナウイルスがぶり返している。

 東京都は、感染者が連日200人を越える事態が続いていた。このところ感染者は何とか200人を割っているが、油断できない状況は変わっていない。

 ただ、これは検査を少なくしているためだという見方があり、安心できない。下手をすると、東京都で感染者300人越え、全国で500人越えという「感染爆発」のリスクを否定できない。誰も望まないことだが、そうしたことが起こりかねない。

 そんななか菅義偉官房長官が新型コロナぶり返しについて、「この問題は圧倒的に東京問題といっても過言ではないほど、東京中心の問題になっている」と発言した。

 東京都の小池百合子知事は、即座に「国の問題」と反発している。国が「Go To キャンペーン」の前倒しをしたことに対して、「整合性」が取れているのかと反論した。さらに「暖房と冷房の両方をかけるようなこと」と指摘している。

■揉めるほうが「構図」が分かる面がある

 新型コロナ対策へのタスクフォースを企業組織に例えると、総理大臣が社長、東京都知事は執行役員の筆頭にほかならない。いわば、企業組織のナンバー1,ナンバー2という存在である。

 社長の側近の社長室長が、突然、筆頭執行役員を批判した。だが、その執行役員は持ち前の鋭い切り返しを行った。執行役員は鋭さ余って社長室長だけではなく社長まで批判したようなものである。

 責任はどこからみても総理大臣のほうが重いはずだ。それだけに菅官房長官は東京都の感染者増加に責任を押しつけて、責任を分散しておく必要があったのか。政治家だから、いろいろな意図があっての発言だと思われる。

 政治家は小池知事も同じだ。小池都知事としては、東京都だけに問題を矮小化されてはたまらない。瞬発的に反論した。

 メディアなどが「揉めているところではない」というのは当り前だが、お互い言うべきことは言ったほうがよい。もしかしたら二人とも「ポスト阿倍」の先行きも絡んでのことかもしれない。どんどん揉めたほうが国民には「構図」が分かりやすい面もある。

■「withコロナ」に強気は無謀で禁物では・・・

 ふたりの論戦に端なくも露呈した「Go Toキャンペーン」がいまや愁眉の急となっている。

 全国の旅館、ホテルなど観光業が新型コロナ感染への懸念などからお客の移動が止まっており、経済面で窮地に陥っている。国はこれを何とか救済したいわけだが、なかなか簡単ではない。

 青森県むつ市の宮下宗一郎市長は、「キャンペーンによって感染拡大に歯止めがかからなくなれば、それこそ政府による人災だ」「経済のためには、本当は来てほしい。でも、来てもらったことによって何かが起こったらどうするのか。大変苦しい」と発言している。地方自治体からはいろいろな意見が出ているが、宮下市長の発言が代表的なものだ。

 確かに、地方は高齢者が多い。加えて医療が非常に脆弱という事実がある。新型コロナ感染が人々の既往症などに悪影響を与えれば対応がきわめて深刻といった懸念が広がる。

 ここにきて「Go Toキャンペーン」で人々を動かそうといろいろな議論も出ている。「新型コロナはインフルエンザ以下の病気で恐れることはない」「新型コロナ問題よりもむしろ経済を止めると自殺者が増加する」、と。

 しかし、新型コロナに対しては「マスク、手洗い、換気」しか防衛策がないのが現実だ。いわば、手がない。アクセルとブレーキを一緒に踏んで前に動かせといわれても、そんな運転は誰もやったことがない。それでも強気になれといわれても。「withコロナ」に強気は無謀で禁物というしかないのだが・・・。

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)

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