加賀電子は戻り歩調、21年3月期予想は上振れの可能性

 加賀電子<8154>(東1)は独立系の大手エレクトロニクス商社である。M&Aも積極活用して規模拡大と高収益化を推進している。21年3月期は新型コロナウイルスの影響などで営業・経常減益予想だが、第1四半期の利益進捗率が高水準であり、後半の緩やかな経済回復も考慮すれば通期上振れの可能性がありそうだ。株価は7月の直近安値圏から切り返して戻り歩調だ。自律調整を交えながら上値を試す展開を期待したい。

■独立系の大手エレクトロニクス商社

 独立系の大手エレクトロニクス商社で、半導体・電子部品・情報機器等の商社ビジネス、および電装基板製造受託サービスのEMSビジネスを展開している。

 19年1月富士通エレクトロニクスを子会社化(富士通セミコンダクターから株式70%取得)した。この後20年12月15%、21年12月15%を段階的に追加取得し、22年1月完全子会社化予定である。なお20年12月28日付で富士通エレクトロニクスの社名を加賀FEIに変更する。

 20年3月期のセグメント別売上高構成比は、電子部品事業(半導体、電子部品、EMS)85%、情報機器事業(パソコン・周辺機器、各種家電、写真・映像関連商品)10%、ソフトウェア事業(CGアニメ映像制作、アミューズメント関連商品)1%、その他事業(エレクトロニクス機器修理、アミューズメント機器製造販売、スポーツ用品販売など)4%、営業利益(調整前)構成比は電子部品事業76%、情報機器事業17%、ソフトウェア事業2%、その他事業5%だった。

■商社ビジネスとEMSビジネスのシナジーで収益性向上目指す

 中期経営計画2021では、基本方針に収益基盤強化、経営基盤安定化、新規事業創出、経営目標値に22年3月期売上高5000億円、営業利益130億円、ROE8%以上を掲げている。為替の前提は1米ドル=110円である。株主還元は連結配当性向25~35%を確保しつつ安定的な配当を実施する方針だ。

 なお中計に沿ったセグメント区分を電子部品事業、EMS事業、CSI事業(情報機器事業)、その他事業(ソフトウェア事業、その他事業)とする。20年3月期の売上構成比は電子部品事業66%、EMS事業21%、CSI事業10%、その他事業3%となる。22年3月期目標売上高5000億円の構成比は電子部品60%、EMS28%、CSI10%、その他2%としている。

 富士通エレクトロニクスを子会社化して、売上高5000億円級の企業グループとなった。今後は商材の拡大や顧客基盤の共有によって、電子部品事業における業界NO.1規模を目指す。現状は富士通エレクトロニクスの利益水準が低いため、短期的な目標は商社ビジネスの量的拡大だが、中期的な目標として、商社ビジネスとEMSビジネスのシナジーによる収益性向上(利益額の拡大と利益率の向上)を目指す。

 収益基盤強化では、成長分野(車載、通信、環境、産業機器、医療・ヘルスケア)への取り組み、EMSビジネスおよび海外ビジネスの強化・拡大を推進する。経営基盤安定化では、富士通エレクトロニクスをグループ化した後の効率性・財務健全性の早期改善に向けて、グループ横断的なコスト削減、組織体制整備によるグループ経営効率化、コーポレートガバナンス強化を推進する。新規事業創出ではM&Aも積極活用して、保育・福祉・介護等の社会課題ビジネスや素材ビジネスへの取り組み、ベンチャー投資によるオープンイノベーションを推進する。

 EMSビジネスでは18年以降に稼働した新拠点のメキシコ、ベトナム、トルコ、インドが順次、収益寄与している。また19年10月には福島新工場が稼働、19年12月にはタイ第2工場が稼働した。今後は車載、産業機械、空調、医療・ヘルスケア分野を成長ドライバーとして事業拡大を推進する。

 さらに「グローバル競争に勝ち残る企業」を目指してM&A戦略を加速している。19年10月にはパイオニアの製造子会社である十和田パイオニアの株式を取得(商号を加賀EMS十和田に変更)した。20年4月にはエレクトロニクス商社のエクセル<7591>を完全子会社化した。

 20年8月には旭東電気(20年4月に民事再生法適用申請)と民事再生支援スポンサー契約を締結した。旭東電気から新設分割された新規設立会社(譲受会社)に事業承継(EMS事業など)し、譲受会社の株式を100%取得(20年11月1日予定)する形で支援する。

 ベンチャー投資としては、ウェアラブルコミュニケーションデバイス開発のBONX、前立腺癌生検および治療用システム開発の米HARMONUS、スマートセキュリティサービスのSecual、ソフトバンクグループで保育クラウドサービスを展開するhugmo、AIソフトウェア開発のハカルス、次世代蓄電デバイス「グリーンキャパシタTM」開発のスペースリンク、動画CM配信プラットフォーム事業やデジタルサイネージ事業のCMerTV、DX(デジタルトランスフォーメーション)に向けたソリューション事業を展開するSun Asteriskなどに出資している。

 20年5月にはライブ配信アプリ「17Live」などアジア圏中心にソーシャルメディアを展開する台湾のM17に出資、20年6月には医療機器開発ベンチャーのニューロシューティカルズ(NCI)に出資、20年8月にはシェアリングプラットフォーム「Akice.style」を運営するレンタルサービスベンチャーのピーステックラボ(PTL)に出資した。

■21年3月期予想は上振れの可能性

 21年3月期連結業績予想(期初時点では未定、8月6日公表)は、売上高が20年3月期比9.8%減の4000億円、営業利益が50.1%減の50億円、経常利益が55.6%減の45億円、純利益が70.9%増の100億円としている。配当予想は10円減配の60円(第2四半期末30円、期末30円)である。なお20年3月期の配当70円には特別配当10円が含まれているため、普通配当は同額で、特別配当を落とした形となる。

 第1四半期は、売上高が前年同期比23.2%減の841億30百万円、営業利益が10.5%減の16億56百万円、経常利益が25.0%減の15億33百万円、純利益が6.4倍の86億43百万円だった。

 リモートワーク・オンライン授業需要でPC販売が好調だったが、EMSビジネスは新型コロナウイルスによる経済収縮の影響、部品販売ビジネスは富士通エレクトロニクスにおけるCypress社販売代理店契約解消などで減収となり、業務効率化や販管費削減でカバーできず営業・経常減益だった。純利益はエクセル買収に伴う負ののれん益を特別利益に計上(第1四半期末においては取得原価の配分が完了していないため暫定的に80億07百万円を計上)して大幅増益だった。

 なお中計セグメント別には、電子部品が31.0%減収で90.6%減益、EMSが19.2%減収で14.7%減益、CSIが23.8%増収で3.1倍増益、その他が27.8%減収で赤字縮小だった。

 通期ベースでも、PC・タブレット端末などIT関連需要の増加を見込むが、新型コロナウイルスの影響や大口商権解消の影響で減収、営業・経常減益予想(負ののれん発生益計上で最終増益予想)としている。

 なお新型コロナウイルスの影響によるマイナス要因として売上高で約500億円減収、営業利益で約35億円減益(減収に伴う売上総利益減少で約50億円減益、業務効率化など利益回復施策で約15億円増益)を織り込んでいる。また特別利益には負ののれん発生益約80億円、特別損失には構造改革やリスク引当などで約10億円の計上も見込んでいる。

 当面は経済収縮の影響を受けるが、会社予想は保守的としている。第1四半期の利益進捗率は営業利益33.1%、経常利益34.1%と高水準だった。後半の緩やかな経済回復も考慮すれば通期上振れの可能性がありそうだ。

■株価は戻り歩調

 株価は7月の直近安値圏から反発して水準を切り上げている。戻り歩調だ。自律調整を交えながら上値を試す展開を期待したい。9月25日の終値は2250円、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS364円18銭で算出)は約6倍、今期予想配当利回り(会社予想の60円で算出)は約2.7%、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS2850円99銭で算出)は約0.8倍、時価総額は約646億円である。(日本インタビュ新聞社アナリスト水田雅展)

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