5月相場の日米のアノマリーは最終盤、日立グループ株には吉と出るか凶と曲がるかトライも一法=浅妻昭治

編集長の視点

<マーケットセンサー>

5月相場の最大のアノマリーといえば、例の米国の相場格言である。「Sell in May, and go away(5月に売り逃げろ)」である。相場理論的にも株式需給的にも確たる根拠はないものの、経験則的に5月相場で大きな調整が入ることを警告し、その前の「転ばぬ先」の市場撤退をアドバイスしており、5月相場も残り1週間、このアノマリーが成立するのか、それとも取り越し苦労で終わるのか最終盤を迎える。

このポイントは、もちろんFRB(米連邦準備制度理事会)が、金利引き上げにいつ踏み切りかにかかっている。月初には、長期金利の上昇も重なって6月16日から17日に開催されるFOMC(連邦公開市場委員会)で決定するのか、もっと後ずれするのかで神経質な動きを続けてきたが、その後相次いで発表された経済指標が、米国経済の減速を示唆する内容となったことで、6月の早期利上げ観測は後退し、S&P500種株価指数は史上最高値を更新し、次いでニューヨク・ダウ工業株平均も最高値を更新した。このため相場格言そのものも、「Sell in May」が、「Sell in June(6月に売り逃げろ)」に後ズレしたとか、年内はこのまま上値を伸ばし続けるなどの観測も聞こえ始めている。残り1週間、米国株価が、この強力なアノマリーから逃げおおせることができるのか、それとも最後に絡め取られてギャフンとなるのか注目される。

東京市場でも、この米国の相場格言ほどのワールド・ワイドなスケールはないものの、5月相場でその当たり、外れの結果が一部注目されているアノマリーがある。日本経済新聞朝刊の最終面の「私の履歴書」欄に登場する経営者が属する企業の株価は、株価にプラス効果があって上昇するとするアノマリーである。今年5月は、日立製作所<6501>(東1)の3代前の代表取締役社長で同会長も兼務した川村隆相談役が登場している。この「私の履歴書」を読めば明らかなように、川村氏は、2009年3月期決算で日立が、日本の製造業として最大の7873億円の最終赤字を計上したことから、同社の再建を託されて子会社から呼び戻され「ラストマン(最終責任者)」として事業リストラを断行し、見事に経営を浮上させたことから、「川村改革」を実現したとして賞賛された。今回の同欄も、残り1週間、この「川村改革」の最終盤のハイライトを記述する件になっている。

この「私の履歴書」に登場する人物は、いずれもスポーツ、演劇、経済界など各業界・職業などで功なり名を遂げた著名人ばかりで、財界人としては、今年は川村氏が、3人目の登場である。2月が、日揮<1963>(東1)の重久吉弘グループ会長、4月がニトリホールディングス<9843>(東1)の似鳥昭雄社長であった。このアノマリーの株価効果は、いずれも両社株が連載中に年初来高値を更新し、ニトリHDに至っては、連載終了後の5月もさらに上場来高値を追うなど歴然とした実績を上げた。これに対して日立の株価効果はどうかといえば、連載が始まった5月1日の終値818円に対して前週末終値は850円とはかばかしい上昇はない。ヒストリカルにみても、年初来高値922.9円、昨年12月8日高値939.9円に及ばず、「川村改革」がスタートする前のITバブル時の2000年1月高値1709円や1988年8月の史上最高値2040円などは、遥かに遠望するばかりである。

これは、今年5月14日に発表した3月期業績の影響が要因となっている。前2015年3月期の純利益が、なお経営改革・事業再編関連の損失を計上して減益転換して着地し、続く今2016年3月期純利益も、会計基準の変更を勘案しても増益転換するものの、市場コンセサスに未達となり、株主配分も、前期期末配当を増配したものの、今期配当を未定とし、自己株式取得などの市場で最もホットな期待材料にも言及がなかったからだ。

こうした株価推移は、ひとり日立のみに止まらず、日立グループ株のほぼ全般に及んだ。親会社同様に自己株式取得などの発表がなく、しかも今2016年3月期業績では、市場コンセンサスを上回ったのが少数派にとどまったことが株価反応を限定的なものにした。相場全般は、日経平均株価が、2000年4月のITバブル時の高値2万833円の更新を指呼の間とし、この高値フシ抜けからさらに1996年6月高値2万2666円に向けて上値を伸ばしてゆくためには、積極的な株主配分策を歓迎して人気化している超値がさの主力株のほか、出遅れ主力株のキャッチアップ展開も必須要件となることはいまでもない。このためグループ会社株を含めて日立には、この5月相場のアノマリーの正当性を試してみる価値は出てくるとはずである。

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