【アナリスト水田雅展の銘柄分析】Jトラストは戻り歩調、自己株式取得や25日公表予定の中期経営計画も注目

【アナリスト水田雅展の銘柄分析

 Jトラスト<8508>(東2)は金融サービス事業を主力として、国内外におけるM&Aや事業再編で業容を拡大させている。株価は下値固めが完了して戻り歩調の展開だろう。自己株式取得や5月25日公表予定の中期経営計画も注目される。

 M&Aや債権承継などを積極活用して業容拡大戦略を推進し、国内金融事業(事業者向け貸付、消費者向け貸付、クレジット・信販、信用保証、債権買取)、不動産事業、アミューズメント事業、海外事業(消費者金融業、貯蓄銀行業)、その他の事業(システム開発など)を展開している。

 国内金融分野では、日本保証(12年3月ロプロが武富士の消費者金融事業を承継、12年9月ロプロと日本保証が合併)、Jトラストカード(11年8月楽天KCを子会社化、15年1月「KCブランド」事業を譲渡、14年3月子会社化した個品割賦事業NUCSの「NUCSブランド」事業を承継、商号をJトラストカードに変更)など、国内不動産分野・アミューズメント分野ではアドアーズ<4712>(12年6月子会社化)を傘下に置いている。

 海外金融分野では韓国での事業基盤確立を推進している。12年10月に貯蓄銀行認可を受けた韓国・親愛貯蓄銀行は、未来貯蓄銀行の一部資産・負債を承継し、13年1月韓国・ソロモン貯蓄銀行から、13年6月韓国・エイチケー貯蓄銀行から消費者信用貸付債権の一部を譲り受けた。

 14年3月に韓国・ハイキャピタル貸付および韓国・ケージェイアイ貸付を子会社化、14年8月に韓国・ハイキャピタル貸付、韓国・ケージェイアイ貸付、および韓国・ネオラインクレジット貸付(11年4月子会社化)の貸付事業を韓国・親愛貯蓄銀行に譲渡した。韓国・親愛貯蓄銀行の相対的に低金利の預金を原資として事業を運営し、グループ全体として収益構造改善を進める。

 15年1月には韓国スタンダードチャータード貯蓄銀行の全株式を取得(JT貯蓄銀行に名称変更)した。今後は親愛貯蓄銀行とJT貯蓄銀行の合併を進める。15年3月には韓国スタンダードチャータードキャピタルの全株式を取得(JTキャピタルに名称変更)した。

 アジアへの展開については、13年12月子会社Jトラスト・アジア(シンガポール)がマヤパダ銀行(インドネシア)と資本業務提携し、14年11月ムティアラ銀行(インドネシア)を連結子会社化した。15年3月にはJトラスト・アジアを通じてオートバイ販売金融事業のGL(タイ)の転換社債引き受け(5月末予定)契約を締結した。さらに5月7日にはJトラスト・アジアの子会社Jトラスト・インベストメント・インドネシアの設立が完了した。

 なおアジアの不動産分野では、14年9月にシンガポールの不動産開発会社LCDの株式29.5%を取得して筆頭株主となったが、15年2月にLCDの大株主グループの1社であるAFグローバルが実施するTOBに応募して所有する全株式を譲渡した。

 アミューズメント分野では14年9月、子会社アドアーズが韓国でカジノ事業を展開するJBアミューズメント(JBA)の第三者割当増資を引き受けて第2位株主となった。またアドアーズは14年11月に日本介護福祉グループを子会社化して介護事業に進出した。

 連結子会社のJトラストベンチャーキャピタル合同会社は、15年3月にSmartEbook<2330>が発行する第1回無担保転換社債型新株予約権付社債および第6回新株予約権を引き受け、SmartEbookの株式借入を行った。企業ニーズに応えるファイナンス支援や事業支援などを通じて支援先企業の企業価値向上を追求し、グループ成長に繋げる方針だ。

 なお15年4月には選択と集中の観点から子会社化クレディアの全株式を売却した。16年3月期第1四半期の個別決算で関係会社売却益を計上するが、連結業績への影響は軽微としている。

 4月27日には、日本最大のビットコイン取引所を営むBTCボックスが第三者割当により発行する普通株式を引き受け、同社を持分法適用会社化すると発表した。日本国内のビットコイン決済圏の確立、海外取引所の創設、新興国における新たな決済手段の構築、ビットコインを活用した新規ビジネスの創出を目指すとしている。

 5月14日に発表した前期(15年3月期)連結業績(5月12日に減額修正)は営業収益が前々期比2.2%増の632億81百万円、営業利益が52億17百万円の赤字(前々期は137億45百万円の黒字)、経常利益が23億85百万円の赤字(同133億51百万円の黒字)、そして純利益が同9.0%減の101億43百万円だった。

 配当予想は前々期と同額の年間10円(第2四半期末5円、期末5円)で、配当性向は11.6%となる。ROEは同3.7ポイント低下して5.6%、自己資本比率は同18.2ポイント低下して34.8%となった。

 韓国JT貯蓄銀行および韓国JTキャピタルの株式取得によって営業収益が拡大したが、その取得時期が遅れたため15年3月期中に見込んでいた営業収益が後ズレとなり、アミューズメント事業の収益低迷も影響して全体の営業収益が計画を下回った。

 営業損益については、韓国・親愛貯蓄銀行で事業基盤強化に向けて積極的に不良債権処理を進めたため貸倒費用が増加(42億円)したこと、韓国JT貯蓄銀行および韓国JTキャピタルの株式取得が遅れて営業収益が想定を下回った(34億円)こと、KCカードの株式譲渡前に利息返還損失引当金を積み増した(7億円)こと、国内連結子会社の営業利益が想定を下回った(7億円)こと、さらに新規連結3社の初期費用(3億円)などが影響して営業赤字となった。

 セグメント別営業利益(全社費用等調整前)は国内金融事業が同83.8%減の18億52百万円、不動産事業が同18.9%減の4億02百万円、アミューズメント事業が同49.2%減の4億83百万円、海外事業が58億11百万円の赤字(同30億46百万円の黒字)、その他の事業が69百万円の赤字(同70百万円の黒字)だった。

 経常損益については、営業外収益での為替差益計上(28億円)や営業外費用でのライツ・オファリングに係る株式給付費減少(11億円)が寄与したが、営業利益が想定を下回ったことで経常利益も赤字となった。

 純利益については、負ののれん発生益計上(145億円)が想定より増加したが、営業利益と経常利益が計画を下回ったことに加えて、子会社の日本保証において業構造改革の一環で希望退職を募集(応募320名、退職予定日5月31日)して特別損失(9億円)を計上したため計画を下回った。なおこの希望退職によって16年3月期には年間約15億円の人件費が削減できる見込みとしている。

 四半期別推移を見ると、営業収益は第1四半期(4月~6月)159億28百万円、第2四半期(7月~9月)160億51百万円、第3四半期(10月~12月)161億41百万円、第4四半期(1月~3月)151億61百万円、営業利益は第1四半期3億58百万円の赤字、第2四半期22億74百万円の赤字、第3四半期6億89百万円の赤字、第4四半期18億96百万円の赤字だった。

 なお今期(16年3月期)の連結業績予想については、5月25日開示予定の中期経営計画と併せて公表するとしている。配当予想については前期比2円増配の年間12円(第2四半期末5円、期末7円)としている。

 中期成長向けてM&Aや事業再編を活用したグループの事業基盤構築・強化に取り組んでいるため、当面はM&A・事業再編および事業構造改革に伴う一時的利益・費用の計上で収益が大幅に変動する可能性がありそうだ。

 ただしクレジットカード事業の再構築、韓国事業の収益改善、アジアへの積極的な業容拡大、グループシナジーなどの効果で、中期的に収益拡大が期待され、5月25日公表予定の中期経営計画が注目される。

 なお5月14日に自己株式取得を発表した。取得株式総数の上限625万株(自己株式を除く発行済株式総数に対する割合5.29%)、取得価額総額の上限75億円、取得期間15年5月26日~16年3月31日としている。

 また5月14日には、当社筆頭株主である当社代表取締役藤澤信義氏より、今後の株価動向やその他の市場環境如何によっては、市場内立会取引によって当社株式を買い増す意向があることについて説明を受けたとしている。当然のことではあるが同氏は、金融商品取引法その他関連法令の規制を遵守するとしている。

 株価の動きを見ると、13年5月高値から反落後の調整局面が続いたが、安値圏1000円近辺での下値固めが完了して出直りの動きが本格化している。5月15日には年初来高値となる1324円まで上伸する場面があった。

 5月22日の終値1299円を指標面で見ると、今期予想配当利回り(会社予想の年間12円で算出)は0.9%近辺、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS1591円09銭で算出)は0.8倍近辺である。

 日足チャートで見ると25日移動平均線がサポートラインの形となった。また週足チャートで見ると、13週移動平均線が52週移動平均線を上抜くゴールデンクロスが接近し、26週移動平均線も上向きに転じた。トレンド好転を確認した形であり戻り歩調の展開だろう。

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