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【小倉正男の経済コラム】アメリカ:「米中摩擦」一本槍だけでは中国に勝てない
- 2020/11/16 17:01
- 小倉正男の経済コラム
■ラストベルトが大統領選の帰趨を決めた
全州確定というのだが、いまだ揉めているともいえる。ただし、暫定的とはいえアメリカ大統領選の帰趨が決まったといってよいだろう。
と言うと日本でもトランプ大統領のサポーターが多くて、「まだ決まっていない」とクレーム、指摘が飛んでくる。アメリカだけではなく、大統領選の混乱は日本も巻き込んでいる。
今回の大統領選でも、メディアや識者たちの見方、それに世論調査まで、「民主党のバイデン氏が圧倒的に優勢」を伝えていた。日本の識者もほとんど同じような発言に終始し、これはかなり異常な偏向現象だった。ところが、結果はまったくの大接戦。
前回(2016年)の大統領選では、ラストベルト(錆びた工業地帯)がトランプ大統領を実現させたというのが定説である。はたしてそのラストベルトだが、今回の大統領選ではどの州もきわめて僅差だがバイデン氏への支持が上廻った。
トランプ大統領は、開票の当初は大きくリードしていたが、郵便投票分が開票されると逆転された。トランプ大統領としては、この現実は受け入れられないということで訴訟を起こしている。一方、バイデン氏は、勝利宣言をして閣僚人事を進めるといった動きを採っている。混迷は収まるどころか、まだ続いているといった状況である。
■米中摩擦それだけでは「富」は戻ってこない
ラストベルトで、僅差ではあるが軒並みにバイデン氏に逆転を許したのは、端的には人的集約型の旧来型製造業をアメリカに戻すことの困難さを示している。さらに言えば、トランプ大統領が行った高関税など米中軋轢・中国封じ込めの加速だけでは、アメリカに「富」が戻ってこないという現実だ。
「戦略的忍耐」、オバマ前大統領やヒラリー・クリントン国務長官などの時代、民主党は「グローバリゼーション」を支持し、いわば旧来型製造業の雇用と所得が中国に移転するのを黙認した。ラストベルトの製造業は、人的集約型から脱出・進化するしか生き残れない。雇用は失われ、労働者は仕事を失った。
トランプ大統領は、アメリカファーストを掲げて、反グローバリゼーションを標榜した。中国は、資本、技術、雇用などのアメリカの「富」を盗んでいると非難し、中国に高関税を課した。しかし、それでもラストベルトに旧来型の雇用が戻ることはなかった。
これはどだい少し無理な話だった。アメリカが中国の覇権行動を批判し米中摩擦を強化するのは必要であるとしても、それだけではアメリカに「富」は戻ってこない。そうした現実がラストベルトでの大統領選に作用したようにもみえる。
■本質的問題はアメリカがダイナミズムを取り戻せるどうか
バイデン新大統領なのか、トランプ大統領なのかは別として、アメリカが取り組まなければならないのは経済の再構築である。アメリカが中国に圧倒的な実力の違いを見せつけることが重要なのだが、それにはアメリカがダイナミズムを取り戻さなければならない。
GDP(国内総生産)では、中国はアメリカのそれの7割というところまで膨張してきている。中国はGDPでいずれアメリカに肩を並べる動きをみせている。しかも、中国は新型コロナを発生させたにもかかわらず、強権で武漢封鎖などを行って新型コロナ抑え込みに成功している。いわば「コロナ後」に向けてロケットスタートを切っている。
中国は騎虎の勢いでアメリカを追い上げている。アメリカは中国の追い上げを突き放す必要がある。しかし、アメリカは大統領選にしてもコロナ感染でも混迷を極めている。いったい何をやっているのか。中国にしたら思う壺である。
だが、「GAFA」という巨大ビジネスをつくったのはアメリカにほかならない。アメリカは次の時代の「GAFA」を育むことができるのか。
ダイナミズムでいえば、アメリカにとって本当の課題はそこにあるに違いない。しかし、失礼ながら二人の大統領候補がそうした危機意識、思いを強く持っているようにはみえない。民主党左派などは「GAFA」解体に動いている。共和党はそれに反対している。矮小な次元ではなく、ともにダイナミズムの観点で考えてほしいものである。
ともあれ、「米中摩擦」強化、高関税などで中国を虐めるだけはアメリカに「富」は戻ってこない。アメリカはむしろ自国経済のダイナミズム復活をサポートすることに心を砕くべきである。そうでなければ、本質的にアメリカが中国の勢いにストップをかけることができないことを断言してよいに違いない。
(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)