【小倉正男の経済羅針盤】ROE――手のひらを返し走り出した日本企業

■日本企業の3社に1社がROE10%超という変化

小倉正男の経済羅針盤 ROE(自己資本利益率)――「リターン・オン・エクイティ」、資本効率を示す指標である。いまや、このROEが経営指標としてセンターに位置するようになっている。

かつては日本企業のROEは5%以下が一般的であり、低いROEが特徴だった。ちょっと以前まではROE5%を確保していれば、日本企業としては儲かっているほうであり、「資本効率がよい」とされてきた。

アメリカ企業などはROEが10%以上というのが当たり前であり、対照的というか、まったくベクトル(方向性)が違っていた。

日本企業サイドからは、アメリカ企業は利益を出し過ぎており、「短期的経営」に走っているという見方が流されていたものだ。

ところが、日本の一部上場企業の3社に1社がすでにROE10%を超えているというのである(2014年度・日本経済新聞)。手のひらを返し、走り出したとはこのことではないか。

■ROE無視からROE重視に大転換=変われば変わるもの

「ROE」が経済新聞のトップ記事の見出しになっているのは、以前を考えるとそれ自体が画期的な事態といえそうである。ついにROEが日本企業のど真ん中を占める経営指標になっている――。

ひと昔前に三菱重工業のトップ経営者が起こした有名な事件がある。

「ROEなど眼中にない――」

それが三菱重工業のトップの発言だった。メディアで発信されるや、三菱重工業の株価は急低下した。外人筋などが売りを浴びせた。

IR(インベスター・リレーションズ)で「教訓」を残した事件だった。その一方、日本の経営者のなかには、よくぞ言ってくれたとする向きもあった。「日本には日本の経営がある」「勇気のある発言だ」というわけだが、「経団連企業」などが賛同派だった。

いまやその三菱重工業自体が、ROE重視の経営に転換を表明している。新日鉄住金などもしかり、「経団連企業」も重い腰を上げて走り出した。

そうした事態の流れをつぶさに見てきた身としては、変われば変わるものだと思わざるをえない・・・。

■外人のみならず生保・信託銀行がROE重視を表明

もともと機関投資家のうち外人筋がROE重視を要求してきた経過がある。「ROE」は外人筋の投資指標だったが、いまはそれにとどまらない。

いまでは国内の生保・信託銀行などの機関投資家が、投資企業先にROE5%確保を要求するようになっている。

企業としては、しっかりした経営で利益を上げる。あるいは、自社株買い、増配などで自己資本を適正化する。

企業経営者は、そうした手法でROEを重視した経営を促進することになる。極論するとROE5%以下では、企業経営者は機関投資家から経営手腕を問われることになりかねない、というのである。

日本企業は、長らくROEは低いがそれは「長期的経営」でやっているからだとしてきた。しかし、長期的な投資がどれだけ実を結んだのだろうか。あるいは、利益準備金など内部留保を貯め込むばかりで資本効率などほとんど無視してきた。

日本企業は変われるのか――。節目、節目で変わるようにみえた日本企業だが、なかなか変われない。そんな日本企業だが、ROEというマーケット・デモクラシーに変化を迫られたのがいまである。

(経済ジャーナリスト・小倉正男。『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営』『第四次産業の衝撃』(PHP研究所)など著書多数。東洋経済新報社で編集局記者・編集者、金融証券部長、企業情報部長などを経て現職。)

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