【小倉正男の経済コラム】危機管理(クライシスマネジメント)下手を露呈~GoTo年末年始停止~

小倉正男の経済コラム

■脆弱だった「勝負の3週間」の説得力

  「勝負の3週間」(西村康稔経済再生相)という呼びかけだが、街やレストラン(外食・飲食)などは人で一杯。「勝負の3週間」と言葉は仰々しいが、説得力はほとんど乏しかった。政府の決断や行動に真剣さが伴っていないことが説得力を脆弱にしている。

 西村経済再生相の目論見は、人々に「勝負の3週間」を我慢させて新型コロナを抑制し、「勝負の3週間」後の年末年始に弾けてくれということだったのではないか。だが、一方ではGoToなど需要奨励策を継続しているのだから整合性はとれていない。人々も新型コロナ慣れなのか、警戒感を少し緩めている。これでは新型コロナ感染の拡大が止まらない。

 インターネット生中継番組で菅義偉首相は、「皆さん、こんにちは、ガースーです」と発言した。親しみやすさや受けを演出したというのだが、コロナ禍蔓延の状況では緊張感を欠くものになった。

 トップのメッセージ発信は大きい。コロナへの緊張感を全体に欠いているわけだから、全国の繁華街、観光地も一般に人出は賑わった。「勝負の3週間」の最後の週末が終わったが、むしろ年末年始に酷い結末にならないかという心配が残る事態となっている。

■年末年始にGoToトラベルの一斉停止

 危機管理(クライシスマネジメント)というものを政府は一貫して理解していないといってよいと思われる。

 そんなことをつれづれに書いていたら、大変なニュースが入ってきた。菅首相が12月28日から新年1月11日まで全国で一斉にGoToトラベルを停止すると発表した。

 GoToは、菅首相の肝煎り政策であり、「GoToとコロナ感染拡大の関連性はエビデンスがない」と何が何でも継続する姿勢だっただけに驚きの政策変更である。

 毎日新聞、NHKと世論調査で菅内閣の支持率が40%、42%と大幅に低下した。国民のほうが政府よりもコロナに対する危機感が強かったことになる。

 政府はコロナ対策で、国民の思いに大きく遅れを取ったことになる。菅内閣はスタートしたばかりだが、失態が続けば先行きの支持率は40%台を割り込む危機ゾーンに突入する。内閣がスタートした当初は支持率が高かったのだから、一挙に国民の信任を喪失したわけである。

■「最悪の想定」をしていないから追い込まれてドタバタ

 クライシスマネジメントでは、「情報収集」が基本のなかの基本であり、その延長線上に「知見収集」がある。

 だが、日本人は何故か新型コロナに強いという、「Xファクター」というか幸運にすがるようなことで「最善の想定」を基本にして新型コロナに対応してきている。新型コロナ封じ込めと経済の両立というのが、その極致である。

 「最悪の想定」をしていないのだから、追い込まれて年末年始のGoTo一斉停止というドタバタに至ることになった。今年前半から時間は十分あったわけだが、新型コロナに対する「知見収集」「知見学習」がしっかりなされていなかったことになる。

 原発事故時の民主党、新型コロナに対する自民党、ともに有事(クライシス)時に対応できていない。有事対応、日本は危機管理(クライシスマネジメント)が何故できないのか。これこそが日本が抱える最大の問題である。

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)

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