【アナリスト水田雅展の銘柄分析】TACは調整一巡感、16年3月期の大幅営業増益予想を評価

【アナリスト水田雅展の銘柄分析

 TAC<4319>(東1)は「資格の学校」を運営している。株価は安値圏でモミ合う展開が続いたが調整一巡感を強めている。16年3月期の大幅営業増益予想を評価して出直り展開だろう。

 財務・会計分野(簿記検定・公認会計士など)、経営・税務分野(税理士・中小企業診断士など)、金融・不動産分野(宅建・不動産鑑定士・FPなど)、法律分野(司法試験・司法書士など)、公務員・労務分野(社会保険労務士・国家総合職など)といった幅広い分野で「資格の学校」を運営し、法人研修事業、出版事業、人材事業も展開している。

 財務・会計、経営・税務、法律など既存領域の市場が縮小傾向のため、中期成長に向けてオンライン教育サービス(Webなどの通信系講座)や、教員、医療、介護、語学など新領域への事業展開を強化している。

 13年12月に増進会出版社(子会社のZ会が通信教育事業などを展開)と資本業務提携し、当社の教室運営ノウハウや資格系コンテンツ開発力と、増進会出版社の通信教育ノウハウや教養系コンテンツ開発力を融合させたソリューションの提供を目指している。14年8月には増進会出版社が第2位株主となって資本関係を強化した。

 14年6月には、レセプト点検・整理業務を中心に医療機関事務分野の人材サービスを展開するクボ医療(兵庫県加古郡)と、医療事務に関する労働者派遣事業・レセプト作成請負業務を展開する医療事務スタッフ関西(兵庫県神戸市)を子会社化した。

 14年11月には関西の4校舎で「医療事務講座」を開講し、14年12月には子会社TAC医療事務スタッフを設立した。クボ医療および医療事務スタッフ関西を子会社化し、自ら育成した医療機関系人材を幅広い医療機関に提供することが可能になったため、関東エリアでも医療事務スタッフ派遣事業や診療報酬請求事務請負事業を展開する。

 また14年11月にトーハン・コンサルティングとの業務提携と介護系資格取得支援事業の開始を発表した。そして15年1月にトーハン・コンサルティングが展開する介護系資格取得教室を当社の主要校舎において「介護教室ケアマイスター TAC教室」の名称で開講した。

 15年1月には「相続アドバイザー講座」の開講を発表した。銀行業務検定のうち相続アドバイザー3級は14年3月から実施された新しい試験である。15年から相続税および贈与税の税制改正が行われたため、初回試験の受験者が約1万人に達する注目度が高い試験だ。

 15年3月には一般社団法人日本オープンオンライン教育推進協議会(JMOOC)公認で、日本初の大規模公開オンライン講座提供サイト「gacco(ガッコ)」に対して、無料の実務・資格講座を提供すると発表した。人気の高い簿記3級、行政書士、宅建士、基本情報技術者、ファイナンシャル・プランナーなどの入門講座を無料で開講する。

 15年4月には、日本商工会議所と連携して「高等学校日商簿記学習支援プログラム」を開始した。18歳人口の減少に直面する多くの大学が就職や国家試験合格に直結する簿記教育の有用性を見直して、高校時代に日商簿記検定試験を取得した生徒を推薦やAO入試などで優遇する事例が増加している。こうした状況を背景に、日商簿記検定試験の高等学校向け教育支援の一環として、個人向け・法人向けに販売している当社の日商簿記教育コンテンツの基本講義部分を高等学校向けに無償で提供する。これによって日商簿記検定試験の一層の普及促進を図るとしている。

 なお当社の四半期業績は資格講座の本試験実施・合格発表の時期との関係などで季節変動の特徴がある。第2四半期(7月~9月)と第3四半期(10月~12月)の公認会計士・税理士講座は、翌年受験のための受講申込が集中する時期となるため、現金ベース売上高が突出して多くなるとともに、翌四半期に向かって前受け金として繰り越されることから、発生ベース売上高の増加が少なくなる傾向がある。

 また第4四半期(1月~3月)から第1四半期(4月~6月)にかけては、夏・秋の本試験時期に向けて全コースが出揃う時期にあたり、稼働率の上昇から前受金戻入額が増加することを通じて発生ベース売上高が増加する傾向にある。こうした売上の傾向に対して、売上原価や営業費用は毎月一定額計上されるため、四半期ごとの営業利益が変動しやすい。

 5月14日に発表した前期(15年3月期)の連結業績(5月12日に減額修正)は、売上高が前々期比4.8%減の195億37百万円で、営業利益が同86.4%減の1億40百万円、経常利益が同68.9%減の4億04百万円、純利益が同74.5%減の2億08百万円だった。

 配当予想については前々期と同額の年間1円(期末一括)とした。配当性向は8.9%となる。なおROEは同17.0ポイント低下して4.9%、自己資本比率は同1.7ポイント低下して20.6%となった。

 宅建講座は景気回復に伴う不動産市場の活発化、公認会計士講座は監査法人への就職状況の好転などで堅調に推移したが、その他の多くの講座では消費増税前駆け込み申し込みの反動減が想定以上となり大幅減収だった。受講者数は個人受講者が同7.0%減の13万147人、法人受講者が同3.0%増の6万4507人、合計が同3.9%減の19万4654人だった。

 利益面では、本社ビル取得に伴う不動産取得税および修繕計画に基づく修繕費用の当期負担分の計上、子会社化したクボ医療および医療事務スタッフ関西ののれん償却の計上などが想定以上となり大幅減益だった。営業外では投資有価証券運用益を計上した。

 なお四半期別推移を見ると、売上高は第1四半期(4月~6月)54億04百万円、第2四半期(7月~9月)49億56百万円、第3四半期(10月~12月)43億91百万円、第4四半期(1月~3月)47億84百万円だった。売上総利益率は第1四半期44.4%、第2四半期39.4%、第3四半期31.1%、第4四半期35.1%だった。営業利益は第1四半期5億75百万円、第2四半期2億12百万円、第3四半期4億28百万円の赤字、第4四半期2億19百万円の赤字だった。

 今期(16年3月期)の連結業績予想(5月14日公表)は、売上高が前期比2.2%増の199億61百万円、営業利益が同4.5倍の6億30百万円、経常利益が同47.0%増の5億94百万円、純利益が同80.3%増の3億75百万円としている。配当予想については同1円増配の年間2円(第2四半期末1円、期末1円)としている。

 日本商工会議所との連携による簿記受検者層の掘り起こし、医療事務コースの本格開講および医療系人材事業の推進、語学授業への注力、シナジー効果が見込めるM&A案件への積極的取り組み、業務効率化・標準化の推進による外注費・人件費抑制、講師料の見直し、スクール規模の最適化による賃借料削減などの施策を推進する方針だ。

 増進会出版社との提携効果の本格寄与や、新講座の収益化も期待される。景気回復に伴って財務・会計系の求人ニーズが高まっていることも追い風となって収益改善基調だろう。

 株価の動きを見ると安値圏でモミ合う展開が続いている。5月中旬には年初来安値となる206円まで下押す場面があった。ただし足元ではモミ合いレンジの210円台に戻している。調整のほぼ最終局面だろう。

 5月28日の終値213円を指標面で見ると、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS20円27銭で算出)は10~11倍近辺、今期予想配当利回り(会社予想の年間2円で算出)は0.9%近辺、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS236円95銭で算出)は0.9倍近辺である。

 週足チャートで見ると13週移動平均線が戻りを押さえる展開だが、日足チャートで見ると戻りを押さえていた25日移動平均線を突破した。調整が一巡したようだ。16年3月期の大幅営業増益予想を評価して出直り展開だろう。

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